第48話 雷神にゃんこにゃ
「しっかり掴まって、歯を食いしばれ。舌を噛むぞ!」
手綱を持つデュークは、そう叫ぶと更に馬に鞭を入れた。
後方からは馬に乗ったロジャー砦の兵士が追ってくる。
その差は、徐々に狭まっていた。
「追いつかれるわ!」
フィーネが矢をつがえながら言った。
「ごめんなさい。私のせいで。」
「ミーナ、気にすること無いにゃ!デューク、後は頼んだにゃ。ブリットは、ミーナ達の護衛をしてくれにゃ!」
「分かりました。御主人。」
「どうするつもりだ。来人。」
「追手を片付けるにゃ、後で追い付くにゃ!」
俺は剣を抜くと馬車から飛び降りた。
「来人、大丈夫なのか。」
「新しい力を試してみるにゃ!」
俺の前にカジキの乗った巨馬を先頭に馬に乗った10人の兵士が追い付いてきた。
カジキは部下の兵士に指示を出した。
「こいつの相手はわいがするぎょ。お前らは馬車を追うぎょ。」
「了解しました。カジキ様。」
「お前、おもしろい話し方するにゃ。でも、行かせないにゃ!」
俺は覚えたての雷神の力を使った。
「電光石火」
俺は稲妻の速度で動き、馬の手綱を切って回った。
「何!」
ヒヒーン!
「うわーっ!」
ドサッドサッ!
兵士が次から次に落馬する中カジキだけが落馬しなかった。
「鎮まるぎょ。」
カジキが力ずくで馬を押さえ付けた。
「馬を力ずくで押さえるにゃんて馬鹿力だにゃ!」
「スピードはなかなかだぎょ。でもパワーはわいが上だぎょ。」
カジキは三股矛を構えると突いてきた。
「オラオラオラだぎょ。」
カジキは大柄な体型に似合わないスピードで三股矛を連続で突いてくる。
俺は、電光石火を使うまでもなく華麗なステップでカジキの突きをかわしていく。
「結構やるぎょ、このままでは相手が出来ないみたいだぎょ。お前ら、フルパワーでいくぎょ。」
カジキの言葉に10人の兵士が叫び声を上げながら身体を青い鱗に覆われたマグロの様な半魚人に姿を変えた。
カジキ自身は鼻が鋭く剣の様に伸びてカジキマグロの様な半魚人になっていた。
「こんな陸地で半魚人って意味無いんじゃないかにゃ。」
「陸だろうが関係ないぎょ。それに我らのこの姿を見た以上生かしてはおけないぎょ。お前達、行くぎょ。」
半魚人となった兵はカジキを先頭に隊列を組んで俺に襲い掛かった。
見事な隊列で槍を構えて迫って来る。
そのスピードは、先程までの比ではない。
「群れとなった我等は、一心同体、一匹の巨大な魚と同じだぎょ!」
確かに理屈は分からないけど、スピードが凄まじく上がっている。
「ファイヤーボール!」
俺は先頭のカジキに向かって、ファイヤーボールを放った。
ボン!
直撃したが全くダメージがない。
防御力も上がっているようだ。
「無駄ぎょ、そもそも、火属性の魔法は効かないぎょ。」
火に水は強いという属性補正の効果が発揮されている。
再度、カジキ先頭の半魚人の群れが俺に迫ってきた。
俺は、カジキの放った三股矛の突きを身をひるがえしてかわした。
グサッ!
俺の肩を群れの中からマグロ半漁人が突き出した槍がかすめた。
俺は自分の手にした新しい力に酔って、完全に油断していた。
「くそ、俺の馬鹿!油断してたにゃ。これからは、全力でいかせてもらうにゃ。」
俺は、全身に魔力を込めた。
「ハーーーーーーッ」
俺の背後に全身を放電しながら雷神が姿を現した。
「ハーッ!」
気合と共に雷神の姿が俺の身体に重なる。
ボッ、バリバリッ!
俺の身体が白く発光し、毛が逆立つ。
「何だぎょ、その姿は?」
「雷神にゃんこにゃ!」
「そんなこけおどし通用しないぎょ。止めだぎょ!」
カジキが三股矛をバトンの様に前方で回転させながら半魚人の群れが俺に迫って来る。
「雷撃波!」
俺は、人差し指を頭上にかざすと指先をカジキに向けた。
バリバリバリッ!
凄まじい電撃が走り、半魚人達の群れを包む。
バリバリバリ、ギャー!
電気の放電する音と悲鳴が周囲を満たした。
煙を上げながら、全てのマグロ半魚人がしびれて倒れている。
「ビリビリするぎょ。」
カジキはかなりのダメージを受けながらも倒れず、ふらふらしながら立ち上がってきた。
「電光斬!」
俺は電光石火で駆け抜けながら、カジキを斬った。
余りの速さにカジキは前方にいた俺が突然、消えたとしか見えなかった。
「ぎょぎょぎょ!何だ、何をしたぎょ。ぎょあー!」
カジキは、悲鳴を上げて倒れた。
「ふー、思った以上のパワーアップにゃ。」
俺は満面の笑みを浮かべながら雷神化を解除した。
俺の身体の白い発光が治まる。
しかし、身体中の毛が静電気で逆立ったままだった。
雷神化の後遺症は特に無かったがしいて言えば、一度なると半日は静電気で身体中の毛が逆立ってしまうことである。