第41話 アリアと追いかけっこにゃ
アリアは諜報部の事務所から別棟にある自分の部屋に戻っていた。
「兄貴のバカ!」
アリアはいっしょに城に連れて行ってくれなかったデュークに腹を立てて、年相応の女の子の様にベッドの上で枕にやつ当たりをしていた。
コンコン!
ドアをノックする音に我に返りドアを開けると諜報部の部下が立っていた。
「アリアさん。近衛騎士団の連中がデュークさんとアリアさんを出せって、事務棟に押しかけているんです。」
「えっ、近衛騎士団が兄貴と私を?」
アリアは窓から見つからないように事務棟の建物を伺った。
建物は1小隊30人程の鎧で完全武装した近衛騎士が包囲しており、入口で諜報部の者ともめているようであった。
デュークが城に向かった事情を知っているアリアは城での計画が上手くいかなかったのだと悟った。
「あんた、他の連中に伝えて、近衛騎士団には逆らわず、デュークから指示があるまで各自で身を潜めること。私がここであいつ等をひきつけるから頼んだよ。」
「1人で大丈夫ですか、アリアさん?」
「兄貴がいない時のここの責任者は私だよ。それに戦う訳じゃないし、それなりに引っ掻き回して逃げるから心配ないよ。」
そう言うとアリアはいきなり、部屋の窓から外に飛び出した。
「アリアだ、逃すな追え!」
近衛騎士団の連中がアリアの姿に気付き、追いかけてきた。
まあ、鎧で完全装備の騎士様がいくら走って追いかけてもアリアに追いつくはずがないのである。
デュークとアリアは忍びの里の出である。
王国軍諜報部と言ってもそこで働いているもの全てが忍びの里の者であり、デュークの子飼いの者であった。
町の中でアリアと近衛騎士団の追いかけっこが始まった。
「追い詰めたぞ、アリア、おとなしくしろ。」
アリアは近衛騎士団に追われ、行き止まりになった路地の奥にいた。
アリアを捕まえようと狭い路地に一斉に大勢の近衛騎士が突入した。
人二人がやっとすれ違える位の狭い路地に大勢が鎧を着て突入したらどうなるかは子供でも分かることである。
しかし、頭に血が上っている近衛騎士は何も考えずに一斉に突入した。
ガチャガシャ!
騎士達は、狭い路地の壁に互い同士で挟まり、身動きが取れなくなった。
アリアはその騎士たちの頭を踏み越え路地を脱出すると引き続き逃げ出した。
実はいつでも逃げ出せたのであるがあえて、捕まるか捕まらないかのギリギリで近衛騎士団から逃れることにより自分に追っ手を引き付けていたのである。
1時間程の町中を走り回った追いかけっこでアリアについて来ている近衛騎士は5人程に減っていた。
それまでの道に汗だくで息を切らして倒れた近衛騎士が点々と倒れていた。
すでに残りの5人も走ると言うよりは足を引きずって歩いている。
「馬鹿だね、鎧着て走ったらそうなるわね。馬でも使えば良かったのに。」
アリアは、そう言うとポンとジャンプして道沿いの建物の屋根に登ると近衛騎士に手を振って姿を消した。
その姿を見送りながら残りの近衛騎士は、地面に腰を下ろした。
アリアは屋根の上を身軽に走っていた。
「さて、とりあえず、城への抜け道の出入口があると言っていた町外れまで様子を見に行きますか!」
「アリアー!」
アリアは突然、声を掛けられ、身構えると空からエリスが飛んできた。
「エリス!」
「アリア、探したんだよ。諜報部に行ったら、近衛騎士でいっぱいだし、諜報部の人は誰もいないし。」
「よかった、みんな無事逃げたようだね。それで兄貴は?」
「大丈夫、皆、無事だよ。案内するからついて来て。」
「うん!」
それから、しばらくして、エリスとアリアは俺達と合流した。