第4話 村に行ったにゃ
エリスの話によると、ここはランドール大陸の南に位置する、人間が統治する国「ローマシア」らしい。
ランドール大陸の中央には、金龍ナーガが住むといわれるアリストン山がそびえている。その南側の麓にはドワーフの国「マージェル」、西にはエルフの国「フェリスタ」、そして東側の平原には人間の五つの国が広がっている。
人間の国々は、アリストン山脈の東に面して「ダリス国」、その南に「ローマシア国」、さらに東に「神聖国フェリシア」、南東に「マジリア魔法国」、そして南南東に「ミシワール国」がある。
アリストン山の北には海が広がっており、その海を渡ると「モーリス島」がある。モーリス島は魔人と魔物の島で、伝説の黒龍と凶暴な魔物が住んでいるという。黒龍は千年前に現れ、モーリス島を支配していた魔王とその軍を滅ぼした後、金龍ナーガとの戦いに敗れてこの島に住み着いたらしい。
俺が竜巻によってこの世界に飛ばされてきたときに見た映像は、どうやらその千年前の出来事だったようだ。この世界の初心者である俺にとっては、まさに基礎知識と言える。
とにかく、今の「にゃんこ騎士」の姿から人間に戻らなければならない。エリスの話では、これは呪いの類ではないかとのことで、魔法国マジリアの魔法大学なら解けるかもしれないという。
ちなみに、エリスがゴブリンに追いかけられていた理由は、ゴブリン退治のために仲間と来ていたが、はぐれてしまい、羽を痛めて飛べなくなったところをゴブリンに見つかってしまったかららしい。
俺たちは、まず近くの「サイノ村」のギルドでエリスの仲間と合流することにした。サイノ村は外敵の侵入を防ぐため、木製の高い壁で囲まれていた。入口の門には、鎧姿で槍を構えた二人の男が警戒にあたっていた。
門の前で、男の一人が俺に向かって声をかけてきた。
「おい、何の用だ。見たことのない獣人だな。」
「この格好じゃ、獣人に見えるよニャ。」
この世界では、獣人と人間が共に暮らしている。獣人の姿は、獣そのもののような者から、耳や尻尾だけが獣の特徴を持つ者まで多種多様だ。魔物と獣人の違いは、獣人が親から生まれた生身の生物であるのに対し、魔物は魔素が集まって発生する存在だという。見た目では判断できないが、魔物は倒されると魔素が霧状になって消える。ちなみに、魔人は魔物とは違い、親がいる生物だそうだ。ゴブリンは魔物に分類される。
「怪しい者じゃないよ。私の連れだよ。」
「エリスか。小さいから気づかなかった。お前の連れなのか。」
「小さいって言うな。」
「シデンがエリスとはぐれたって心配してたぞ。」
「みんな村に戻ってるの?」
「ああ、お前以外は全員戻ってる。ゴブリンが多くて、一旦戻って作戦を練り直すそうだ。今は冒険者ギルドにいると思うぞ。」
「よかった。」
「そっちのもエリスの連れなら問題ないだろうけど、揉め事だけは起こすなよ。」
「大丈夫、問題を起こす気はないよ。俺は“にゃんこ騎士”の来人ニャ。」
「にゃんこ騎士?」
俺は「猫」と言われるのが何となく嫌で、キャラクター名の「にゃんこ騎士」を名乗ることにした。ちなみに語尾に「にゃ」が付くのは、猫化によって滑舌が悪くなっているためで、キャラ作りではない。
俺はエリスとともに、冒険者ギルドへ向かうことにした。




