第39話 抜け道の死闘3
強固なガードを破って、俺のにゃんこローリングファイアーがジュノを切り裂いた。
ジュノは吹き飛びホールの壁に叩きつけられた。
衝撃にホールの壁が崩れ、ジュノの身体を埋めていく。
「やったー、来人!」
エリスが歓声を上げている。
「やったな来人。」
直前にジュノに吹き飛ばされたシデンとデュークは死んではいないがダメージで動けないでいる。
「ハッハッ、やったにゃ!」
俺も精も根も尽き果て両膝をついていた。
「やったね、来人。」
フィーネが側に来て俺の肩を叩きながら言った。
「ナイスフォローにゃ、フィーネ。」
俺たちの喜びは直ぐに終わりを遂げた。
ドカーン!
派手な音と共にジュノの周りの瓦礫が吹き飛んだ。
そこには血を流しながら憤怒の形相で立つジュノの姿があった。
「おのれ、この私がちょっと死ぬかと思ったじゃないか!絶対、許さないからね。」
ジュノは手にした矢をフィーネに投げつけた。
矢は凄まじい勢いで飛びフィーネに刺さり、フィーネは、その場に倒れた。
「フィーネ!」
「人の心配をしている暇はないよ。」
振り返り見上げるとそこには冷酷に笑うジュノの顔があった。
立ち上がろうとした俺のあごをジュノが蹴りあげた。
俺は、空中で回転して何とか四つん這いになってなんとか地面に降り立つ。
しかし、ジュノはそこから突きと蹴りの連打を浴びせてきた。
俺は、避けることも出来ずジュノの連打をまともに受けた。
「これで止めです。」
ガシッ!
ジュノの降り下ろした渾身の拳が俺の胸を貫いた。
「やられたにゃ!」
俺は、死んでしまった…と思ったがジュノの拳は俺の胸を貫く寸前で止まっていた。
正確には俺の懐から出た腕がジュノの腕を掴んで止めていたのだ。
「なんだ、この腕は!」
バキッ!
ジュノの問いに答えはなく、ジュノの腕を掴んでいた腕に更にもう一本の腕が現れジュノ殴り飛ばした。
ジュノは壁際まで吹き飛ばされた。
そして、ジュノを殴り飛ばしたものが胴体、頭、足と現れ、そして全身が姿を現した。
その姿は黒服を着た金髪ロン毛、モデル級の長身男子だった。
ただし、頭にネコ耳がついていた。
「我が名はブリット。来人様の忠実な僕。よくも親愛なる御主人様を痛めつけてくれましたね。」
俺、この人、知らないんだけど、何か勝手に俺の懐から出てきたけど何だか味方みたい。
「御主人様のピンチに参上が遅れまして申し訳ありませんでした。私の名前は、ブリットです。以後、お見知りおきを。」
ブリットは俺に片膝をついて頭をさげた。
「こちらこそ、よろしくにゃ。」
俺はこいつ何者だと思いながらもブリットと名乗る男に挨拶を返した。
「御主人様、私のことがお分かりになりませんか?」
「えっ、まあ。どちら様にゃ?」
「私はあなた様の懐に入れておいでになった魔結晶でございます。毎日、惜しむことなく魔力を注いでくれ、更に強力な魔結晶を合成してくれたおかげで新たな命として生まれ変わることが出来ました。」
俺は、『そう言えばゴブリンキングとか倒した時に手に入れた結晶体を懐の袋に入れておいたけど、それがこいつになった訳かってそんなこと分かるか!』と一人、心の中でボケ突っ込みをしてみたがファンタジーの世界だから何でも有りなんだろうと納得した。
「御主人様、あの程度も魔人ごとき、私がさっさと片付けてしまいますのでご安心下さい。」
「いや、そう言っても、相手はかなり強いにゃ。」
「大丈夫です。それでは。」
ブリットはそう言うとジュノに向けて飛び掛っていった。
ブリットに殴られ倒れていたジュノはようやく起き上がった。
ブリットの姿に気付くとようやく何が起こったのか把握した。
「魔物ごときがこの私を殴っただと!」
憤慨するジュノの前にブリットがいきなり、間合いを詰めた。
ジュノはそのスピードに驚愕し、同時に放たれたブリットの側頭部への蹴りをまともに受けた。
ブリットの蹴りに吹き飛ばされながら、ジュノは冷静に『この魔物は、強い。ダメージがある今の状態では勝てない。少し油断し過ぎたようだ。』と判断した。
そして、導き出した、この場合取るべき最善の策は、『逃げる。』だった。
そして、ジュノは魔力を込めた光弾をブリットではなく来人に向かって放った。
俺はブリット相手に手も足も出ないジュノがまさか俺を狙って攻撃してくるとは思ってもいなかった。
「危ない、御主人様!」
ブリットは俺と光弾の間に飛び込み、光弾を受けた。
ボン!
ブリットは爆炎に包まれた。
「ブリット!」
爆炎と煙がおさまるとそこには何事も無かったかのように平然と立つブリットの姿があった。
「大丈夫ですか、御主人様?」
「俺は大丈夫だがお前は、大丈夫なのか?」
「大丈夫です。単なるこけおどしですよ。対した威力は、ありません。しかし、申し訳ありません、どうやら逃がしてしまったようです。」
見るとホールにジュノの姿は、見あたらなかった。
逃がしたと言うより助かったと言う方が正しいかもしれない。




