第3話 妖精を助けたにゃ
「キャーッ!」
微かに悲鳴が聞こえた。声の感じからして、若い女の子のようだ。
ドン!
次の瞬間、何かが俺の顔にぶつかってきた。咄嗟に反応して、それを掴んでいた。
「キャー! 離して、けだもの!」
「虫にゃ?」
掴んだものを見ると、羽の生えた少女だった。
「妖精にゃ!!」
「キャー!」
妖精は再び悲鳴をあげた。
「よく捕まえたな、猫。おとなしくそいつを渡しな!」
草むらから一匹のゴブリンが現れた。ゴブリンは直立歩行する小鬼のモンスターで、RPGゲームでは雑魚キャラだ。
俺が“にゃんこ騎士”になっているんだから、妖精やゴブリンがいても不思議じゃない。ここはファンタジーの世界なんだろう。俺は勝手に納得した。多分、深く考えると発狂してしまいそうな状況に、脳がリミッターをかけたのだろう。
手の中の妖精の少女とゴブリンを見比べた俺は、すぐに判断した。
こういう時は、女の子の味方をするのが男の子ってもんでしょ!
幸い、ゴブリンは一匹だけで武器は棍棒。俺の武器は剣だ。
「勝てるにゃ。」
俺は剣を抜き、ゴブリンに言い放った。
「断る! お前の命令に従う義理はないにゃ。」
「なんだと、猫の分際で!」
ゴブリンは棍棒を振りかぶり、殴りかかってきた。
俺は素早く身体を沈め、ゴブリンの脇を切り裂いた。ゴブリンは声もなくその場に倒れ、黒い霧となって消えた。
「俺って、結構強いにゃ!」
「何言ってんのよ! 早く逃げないと、ゴブリンはまだいるのよ!」
気がつくと、周囲から先ほどのゴブリンと同じ気配を感じる。1、2、3……7匹。囲まれている。
身体がにゃんこになっているせいか、やたら身体能力が上がっている。
「うわっ、これはちょっとやばいのかにゃ!」
ゴブリンたちは俺と妖精の姿を見て、牙をむき出し怒りの表情をあらわにした。
「お前、殺す。」
一匹のゴブリンの言葉を引き金に、7匹が一斉に俺に襲いかかってきた。
ゴブリンの動きが見える。彼らの動きが鈍いのかもしれないが、すべての動きが読めるのだ。例えるなら、武術の達人が素人を相手に戦っているような状況だろう。
俺は正面から棍棒を振り下ろしてきたゴブリンの懐に飛び込み、身体を沈めて剣で胴を切り払い、返す刀で右にいたゴブリンの胸に剣を突き刺した。
ゴブリンの腹を蹴り、突き刺した剣を抜く。その勢いで後ろにいたゴブリンの顔面を剣の柄頭で打ち付け、そのまま肩口から袈裟斬りにした。
一瞬で3匹のゴブリンを切り倒していた。
残った4匹のゴブリンは、さすがに俺のことを手強いと感じたのか、遠巻きに距離を取った。
すっげぇ、俺って超強くなってる! あと4匹くらい、楽勝じゃん!
「さあ、次はどいつにゃ?」
余裕が出てきた俺は、ゴブリンを挑発した。
挑発されたゴブリンは逆上して牙をむき出し威嚇してくるが、すぐには飛びかかってこない。
俺は正面のゴブリンとの間合いを一気に詰め、剣を水平に振って喉を切り裂いた。
残りの3匹のゴブリンは顔を見合わせると、一斉に逃げ出した。
俺はあえて、逃げるゴブリンを追うことはしなかった。
「苦しい……早く離しなさいよ!」
俺は左手に妖精の少女を握ったままだったことに気づき、慌てて手を離した。
妖精は羽を痛めたらしく、うまく飛べずに俺の頭にしがみついた。
「羽さえ痛めてなければ、ゴブリンなんかやっつけてやるのに……。でも、一応お礼は言っとくわね。それで、あなた何者?」
「俺は来人。にゃんこ騎士だにゃ。」
「にゃんこ騎士?」
「俺は元々人間だったんだにゃ。まあ、いろいろあって、なぜか猫になってたにゃ。」
「よく分からないけど、敵ではないみたいね。私はエリスよ。」




