第276話 秘密の抜け道
すっかり暗くなった街道をアリアは茜と共にローマシアの都であるリーンに向かっていた。
ローマシア国軍の諜報部長官である兄デュークの元に身を寄せるつもりであった。
リーンまで小一時間、ローマシア城の一角が遠くに見える場所までたどり着いたところでアリアは足を止めた。
後ろを振り返り、後に残った修一の身を心配してはみたものの、自分が残ったところで足手まといに過ぎなかったことは理解していた。それでも共に戦いたかった。
「母上、心配せんでもあんなの父上が簡単にやっつけるって。だって父上は伝説の男や。」
「そうね。茜の言う通り、父上は強いもんね。」
小さな我が子に励まされアリアは苦笑いをし、心の中で自分も頑張らなくてはと思っていた。。
アリアは茜の手を引くと再び走り出したのである。
その時、風向きがリーンの方角からへと変わった。
「母上、煙の臭いや。」
アリアは無言で頷くと街道から外れ、身を隠しながら慎重に進み始めた。
やがてリーンの市街を一望出来る小高い丘にたどり着いたアリアと茜の目に映ったのは燃え街並みと城に取り付く悪魔の大群だった。
「大変や街が…」
「そんな、こんなに早くリーンに攻め込んでいるなんて…」
ドーン!
その時、爆発音と共にローマシア城から炎が上がった。
街や城を多い尽くす激しい炎はアリア達の立つ場所まで明るく照らし熱が肌をチリチリと焼く。
「もう城には行けないわね。おいで茜。」
アリアは茜の手を引くと街とは反対方向の森に向かって歩きだした。
「母上、これからどこへ行くん?」
「森の中に城へつながる秘密の抜け穴があるわ。」
以前の抜け穴は敵に知られたことから埋められ、デュークの手で秘密裏に新たに造られたのである。その建設にアリアも手を携わっていたことから知っていたのである。
やがてアリアと茜がたどり着いたのは森の中の泉であった。
「母上、ここが抜け穴なん?」
「そうよ。直ぐに分かったら秘密の抜け穴じゃないでしょ。」
「そうやな。」
その時、泉の水面が泡立ち水の中から扉が浮かびあがってきた。
「母上、これはまさかどこでもド、ムグ。」
茜の言葉はアリアの手によって塞がれていた。
「静かに誰か出てきます。」
アリアは茜の口を塞いだまま、飛び込むように茂みに身をひそめた。
扉は完全に水面に浮かび上がると静かに開き、中から人影が現れたのである。
ドブッ!
「ヒッ!」
飲み込むような小さな悲鳴を上げて扉から現れた人影は泉に落ちていた。