第275話 傀儡使い
「ヒヒヒ。」
笑い声は赤いフードを被った女のマリオネットの影から響いてくる。
「そこか!」
修一の右の掌から氷の刃がマリオネットの影に放たれた。
ギィン!
その瞬間、矢は影から突き出た腕に弾かれた。
腕が影の中に沈むように消えると同時に入れ替わるように銀髪の男の頭部が浮かびあがった。
「ヒヒヒ、いきなり攻撃してくるとはせっかちな人ですね。」
影から現れたのは銀髪を七三に分け、カイゼル髭を生やしたタキシード姿の初老の紳士の頭部であった。
「私はネビロス。傀儡使いのネビロスと呼ばれることもありますがね。ヒヒヒ!」
ネビロスは髭を指先で摘まむと唇を歪ませて笑った。
「傀儡使いって、なるほどこいつらを操っていたのはお前か。」
「ヒヒヒ、その通り、この女もそっちのピエロも私のコレクション達です。私は趣味と実益を兼ねて戦った相手を人形にしてコレクションしているのですよ。」
「それじゃあ、この人形は元々は生きていたってことなのか?」
「生きていたではなく、生きているのですよ。」
ネビロスが掴んで向けた女の人形の人形の頭に悲痛な顔で苦しむ女の顔が浮かび上がる。
『助けてぇ…。』
人形に浮かんだ顔が悲鳴を上げる。
「何だ、今のは?」
「ひひひ、相手の魂を人形に縛り付けているのですよ。」
「なんて悪趣味な。」
「良く言われますが趣味なんでね。別に理解してもらうつもりはありませんよ。自分が良ければ良いんです。それにどうせあなたも人形になってもらうのですから。ヒヒヒ!」
「そいつはお断りするよ。」
言葉と同時に修一のは、一瞬でネビロスの懐に飛び込んだ。
「ヒッ!」
突然、目の前に現れた修一にネビロスがひきつった悲鳴をあげる。
ドズッ!
ネビロスが反応する間を与えず修一の強力なボディブローがネビロスの下腹部に突き刺さっていた。
グフッ!
ネビロスは身体をくの字に曲げて膝をついた。
「お前、馬鹿だろう。あのまま、姿を隠したまま攻撃を続けていたら少しましだったのによ。」
白目を向いて失神しているネビロスに修一の言葉は聞こえていなかった。
「よし、アリア達の後を追うとするか。」
修一は、小さく呟くとアリア達の向かった方向に走り始めた。
しかし、その腕に眼に見えない程の細い金色の糸が絡み付いていることに修一は気付いていなかった。