第263話 妖の大将
カラス天狗の翔は両手に持った小太刀を振るい、ぬらりひょん側の妖怪を次々と切り倒していく。
大天狗の軍勢は数に不利を物ともせず、個々の能力の高さで戦力差を埋め互角の戦いをしていた。
そんな双方の軍勢同士の戦いをぬらりょんのセイはビルの上に立って、まるで他人事の様に眺めていた。
「セイよ。いい加減にこの世を騒がすのを止めるのじゃ!」
「これは鞍馬山の御大将ですか。」
ぬらりょんのセイに背後から声をかけたのは鼻の高い赤い顔の老人と思いきや女性を思わせる風体の美青年で鞍馬山の大天狗紗那王その人であった。
「セイ、お主がやっていることは最早、わし等への敵対行為じゃ。今まで多少の騒ぎを起こしても目をつぶってきたがもう放っておけん。」
「人は傲慢になりすぎたと思いませんか?自然は失われ我ら妖怪は住みかを追われ生きを変えなければ存在出来ない。」
「何じゃ、突然。皆、それぞれうまくやっておる。お前は何を望むのか?」
「人の味方をなさるのは御大将が昔、人であったからですかな?義経殿。」
「その名前は捨てた。今のわしは妖の長じゃ。」
「ならば、人の世を壊し、妖怪の世界をつくることに手を貸して貰いたい。」
「そんな話しにわしが乗るわけは無かろう。」
その時、紗那王は背後に殺気を感じ振り返った。
ドスッ!
「ぐっ!」
顔を押さえて後退ったのは悪魔メフィストであった。紗那王を背後から襲おうとして顔面に拳を受けたのだ。
「あ痛たた!ひどいな、いきなり殴り付けるなんて。」
メフィストは軽口を叩きながらも紗那王の攻撃を受けない距離で隙を伺っている。
「セイよ。この得体の知れぬ者にそそのかされたか!」
「それは違いますよ。今の人の世にうまく順応出来るものは良い。出来ない者は山に隠れて生きている。しかし、その住みかさえ失いつつあるじゃないですか。」
「詭弁だな、セイよ。やはりその者に毒されたようじゃな。貴様、この世界の者ではないな。何が狙いだ。」
「狙いだなんて、失礼だな。私はセイさんに力を貸しただけですよ。それに毒されたのはあなたの方ですよ。」
「何だと。うっ!」
遮那王はメフィストを殴りつけた右の拳に痛みを感じて顔をしかめた。
「毒ですよ。さっき殴られたついでに毒を打ち込ませてもらいました。」
「毒だと!」
「メフィストめ余計なことを。」
「嫌だな、セイさん。余計なことなんてつれないことを言わないで下さいよ。大将も心配しなくても大丈夫ですよ。命を奪うような毒じゃありませんから、ただちょっと面白くなるだけです。」
「おのれ……」
遮那王は苦痛に顔を歪ませて膝をついた。
ボン!
次の瞬間、遮那王の姿はアヒルに変っていた。
「クワッ何じゃこれは!」
「あはははは!天狗の大将がアヒルですよ。はははひっ腹よじれそう。」
メフィストは腹を抱えて大笑いをしながら転げまわった。
「メフィスト、私はその様な冗談は嫌いだよ。」
「まあ、セイさん。世の中、この位のユーモアは必要ですよ。捕まえて、北京ダックにでもしますか。」
ブワッキ!
「げふっ!」
ダック遮那王の左拳と言うか左の翼が拳の様にメフィストの鳩尾にめり込み続けざまに往復びんたが両ほほに叩き付けられた。
「ちょ、ちょっと待って、アヒルになって何でそんなに強いの?」
メフィストはダック遮那王の容赦ない攻撃を受けてフラフラになっていた。
「メフィスト、その位で驚いてどうする。アヒルにしたくらいで弱くなるようで妖の大将は勤まらんわ。余計なことをするからそうゆう目に遭う。」
セイはメフィストが遮那王にやられる姿を呆れ顔で見ていた。
ボン!
遮那王の姿は元の姿に戻っていた。
「何じゃ、元の姿に戻ってしまったぞ。アヒルもなかなかであったがな。」
「えっ、もう毒の効果が切れたのですか。どうやら、私はこちらの世界の者のことをあなどっていたようです。今日のところは失礼させてもらいますよ。」
ヒュルン!
メフィストは空間に開いた穴に吸い込まれるようにして姿を消した。
「逃げおったか。次はお主が相手をするかぬらりひょんよ。」
「しかたないですね。あなたを倒したくはなかったのですが仕方がありません。」
「抜かせ。容赦はせんぞ!」
大天狗の遮那王とぬらりひょんのセイ。大将同士の戦いが始まった。