第249話 謎の男
「脅して私が素直に従うと思って。」
カルアは喉に刀を当てられているにもかかわらず全く動じていなかった。
「脅しじゃないのにゃ。」
「そお。じゃあやってみなさいよ。」
そう言うとカルアは喉に突きつけられた刀の刃を左手の人差し指と親指の二本の指でつまんだ。
パキッ!
カルアが刀身を横から掌底で突き上げたとたん俺の刀が真っ二つに折れてしまった。
「にゃー!俺の刀が折れたにゃ。」
俺は愛刀を折られるのは2回目だが慣れるものではない。
「とんだなまくらだね。」
カルアはそう言い放つと折った刀の切っ先を俺に向けて投げた。
ガキーン!
顔面に向けて飛んできた刀の切っ先を俺は間一髪、歯で噛んで受け止めた。
「うにゃにゃいにゃにゃ!(危ないだろ!)」
バキッ!
ブリットがカルアの背後から蹴りを叩き込んだ。
カルアはまるでバトンの様に回転しながら瓦礫の山に突っ込んだ。
「あなたに手を出すなとは御主人様から言われてませんからね。」
ドン!
カルアは瓦礫を吹き飛ばしてその場に立ち上がった。
カルアは着物に付いた埃を手で軽く払った。
「着物が汚れてしまいましたわ。」
「無傷ですか、結構本気で蹴ったのですがね。」
俺が見くびっていた訳ではなかったがカルアという天邪鬼の実力は見掛けによらずかなりのものであった。
「しかし、次から次に面倒臭いのが出てくるにゃ。これじゃあ、あっちの世界と大差ないにゃ。」
ガシッ!
その時、俺は背後から頭を鷲掴みにされた。
「こらこらこら、猫くん。君の相手はあっちの黒いほうでしょうが。何、人の獲物を横取りしようとしてるんだよ。」
振り替えると戦鬼が目を見開いて俺をにらんでいた。
「わ、分かってるにゃ……」
「分かってるならよろしい。」
戦鬼はそう言うと俺を黒騎士コニャコが飛び込んだ瓦礫の山に投げ込んだ。
「無茶苦茶にゃー!」
ブリットに至っては戦鬼が俺を投げたと同時に俺の後を追って走り出していた。
「邪魔が入ったが第2ラウンドだ。」
戦鬼は楽しそうに両手の指を鳴らした。
「私もそろそろ少し本気を出させてもらいましょうか、」
晴明は俺達から少し離れたはなられた場所から他の者が戦いに巻き込まれないように結界を張っていた。
「いやあ、頑張ってますね。」
その男は唐突に現れた。
大正風の書生のような服装で丸眼鏡にぼさぼさ頭に無精髭の若い男が現れた。
「お前、どうやってここに?」