第230話 晴明からの呼び出し
駅の駐輪場に安倍晴明の姿があった。
晴明は駐輪場に並べられた自転車を一瞥すると一台の自転車に目を止めた。
「こいつだな。」
晴明が目を止めた自転車には鍵がかかっていない。
晴明はポケットから携帯を取り出すと電話を掛け始めた。
一時間後。
「急用って何ですか?」
駅の駐輪場に姿を現したのは俺とブリット、コニャコだった。
「以外と早い到着だな来人。こいつがブリットか?なかなか強そうだな。」
俺達は至急の用事だと晴明から呼び出されたのだ。
「あの急用って……」
「そうだったな。来人、自転車泥棒をしようとした少年が百キロ以上離れた場所で保護されたって話を知ってるか。」
「最近、テレビやネットで騒がれている盗んだ自転車に拉致されるって奴だろ。自転車が盗まれる数が激減してるらしいね。」
「そうなんだが面白半分で拉致される数も増えているんだ。今は単に放置されているだけで死者や怪我人が出ていないから良いんだけどいつ被害者が出てもおかしく無い。」
「それで晴明さんが出てきているってことは、妖怪のせいなのですってことだね。」
「まあな。」
「それで俺達は何をすればいいんだい。」
「話が早いね。」
「どうせ、無理にでもやらせるんでしょ。」
「分かってるじゃない。実は妖しい自転車を見つけてね。それを盗んでもらいたいんだ。」
「盗むって?」
「心配するな。確認したが何年も前に廃棄処分されて、この世には存在しない自転車だ。法的には問題ない。」
「いや、そんなことを心配してるんじゃなくて。百キロ以上で疾走するとか聞いたんだけど。」
「だから来人に頼んでるんだ。頼むぜ、化け猫くん。バイト代は払うからさ。」
「間違いなく払えよ。」
「それじゃ、あの鍵の掛かっていない自転車を引っ張り出して乗ってくれ。俺は車で追いかけるからさ。」
「分かったよ。あの自転車だね。行こう、ブリット。」
「了解、御主人様。」
俺は指示された自転車を駐輪場から引っ張り出すとサドルにまたがった。
ブリットが後ろにまたがろうとする。
「あれ、二人乗りは不味いじゃあ。」
「そうですか。それでは御主人様お一人で?」
「俺一人でか?」
そう言って自転車から降りようとしたところブレーキワイヤーが絡み付き俺の腕をハンドルにくくりつけた。
「嘘だろ、気が早すぎる。まだ心の準備が……」
自転車が俺を乗せて走り出した。
「ブリット、乗れ!」
ブリットが助手席に乗ると同時に晴明は車を出した。
「うわ、本当に漕いでないのに動いてるぞ。」
自転車はぐんぐん速度をあげていく。
スピード自体は電光石火でならした俺には大したものではなかったが腕が固定されているのと華奢な自転車のフレームだと普通の人だと耐えられない恐怖だっただろう。
晴明の車はピタリと俺の乗った自転車の後ろをつけてくる。
自転車は高速道路を走り、やがて郊外にある放置自転車の保管場に入っていった。
そこにはセーラー服姿の女の子が待っていた。