第229話 自転車泥棒
夜の駅の駐輪場に大小2つの影が動いていた。
高校生位の痩せた背の高い少年と小柄な少年が2人でしきりに並んで置かれた自転車を見て回っている。
「有ったか。」
小柄な方の少年が痩せた方の少年に声を掛けた。
「いや、無いよ。」
少年達は同じ高校の友達同士であった。
「大体いつも直ぐに見つかるんだけどな。」
「おい、あったぞ。このママチャリ、鍵かけ忘れてるぞ。」
「ラッキー、これで歩いて帰らないですむぞ。」
痩せた背の高い少年が鍵の掛け忘れた自転車を引っ張り出しサドルにまたがった。
「よし、帰ろうぜ。」
小柄少年が後ろに乗ると2人乗りで駅の駐輪場から出て行った。
「助かったな。自転車があって。」
自転車はぐんぐんスピードをあげていく。
「おい、ちょっとスピード出しすぎじゃないか?」
後ろの少年が前の少年に声を掛けた。
「ブレーキのが効きが悪いんだ。」
「壊れてんのかよ、危ねえ、こんな自転車捨てて行こうぜ。俺降りるぜ。」
後ろの少年は自転車から飛び降りようとしたが足が自転車から離れない。
自転車のフレームがアメの様に歪み足に絡み付いている。
「うそだろ。自転車止めろよ。」
「ブレーキが効かないんだ。足がペダルから離れない。」
「ひー、助けて。」
少年達は悲鳴を上げた。
自転車更にぐんぐん加速していく。
俺とブリットは夜食を買いにコンビニに来ていた。
店から出てところで目の前を凄まじい勢いでな自転車が通りすぎていった。
「今のは自転車のように見えたけど……」
「どうかしましたか、御主人様?」
「え、いや。今、自転車が凄いスピードで通ったような気がしたんだけどオートバイだったんだろう。」
俺は今見た暴走自転車をオートバイだったと思い直した。
自転車は更にスピードをあげるとそのまま首都高速へと入っていった。
少年達は既に悲鳴をあげることも出来ず必死に自転車にしがみついている。
自転車は100キロを超えるスピードで次々と自動車を抜いていった。
やがて自転車は郊外に作られた放置自転車の保管場に入っていった。
山のように並んだ自転車の中にセーラー服を着た少女が立っていた。
少年達を乗せた自転車は少女の前まで行くと前輪を高くあげて乗っていた少年をふるい落とした。
ドサッ!
「ひー!」
少年達は抱き合って震えている。
少女は少年達に顔を近付け舐める様に顔を確認した。
「違う。こいつも違う。」
「何だよ、何が違うんだよ。」
小柄な方の少年が震える声で叫んだ。
「違う。」
ガチャ、ガチガチ!
廃棄待ちの壊れた自転車達が少年達に這い寄っていく。
ギャー!
少年達の悲鳴が夜の闇に響き渡る。
翌朝、空き地に放置されているのを発見され保護された少年達の身体には無数の壊れた自転車の部品が巻き付いていた。
「また、自転車泥棒に制裁!か?」
「来人、朝ごはん食べなから新聞読まないの。」
「分かったよ。母さん。」
俺は朝刊を読みながら答えた。
「なあにその自転車何たらって?」
「自転車を盗む奴が自転車に襲われてんだってさ。」
「物騒ね。」