第220話 奇妙な事件
夜も更けた人気もまばらな暗い路地を一人の女性が家路を急いでいた。
歩いていたのは伊藤舞、今年就職したばかりのOLである。
今日は残業で仕事の帰りか遅くなってしまったのだ。
舞はふと背後に気配を感じて振り返った。
後ろには誰の姿もなかった。
ふーっ!
「気のせいか……」
ため息をついて前を向いた舞の目の前を立ち塞がる様に妖しい影が立っていた。
「勿体ない。」
影は呟くと懐からハサミを取り出した。
「ひっ!」
舞は今歩いて来た道を逃げでいこうと振り返った。
振り返った舞の目の前にハサミを持った影が立っていた。
ハサミが街灯の明かりを反射してキラリと光った。
「きゃー!」
舞の悲鳴が響いた。
通報を受けて駆けつけた警官が目にしたのは座り込んだ舞の姿だけであった。
「大丈夫ですか?」
「髪を……髪を伐られたんです。」
「髪をですか?」
警官が周囲を見ると確かに髪の毛が散らばっている。
「確かに髪の毛を切られているようですね。」
しかし延び放題でまるで手入れのされていなかった舞の髪はまるで熟練の美容師が手掛けたように美しくカットされていた。
トントントン!
早朝から来人の家の台所から軽快な包丁がまな板を打つ音と味噌汁のいい香りがしていた。
「助かるわ、ブリットちゃんが来てくれて家の」
「いいえ、私は皆さんのお役立てることが嬉しいのです。」
「コニャコちゃん、そろそろ来人を起こして来て頂戴。」
「了解にゃん!」
コニャコは階段を駆け上がると俺の部屋に飛び込むとベッドにダイブした。
「ぐはっ!」
睡眠中で力の入っていないと腹の上にコニャコの全体重を受けて俺は跳ね起きた。
「来人、起きるにゃん!」
「コニャコ!何度言ったら分かるんだ!俺を起こすのに腹の上に飛び乗るのは止めろ!」
「てへ!ママさんが起きろっていってるにゃん。」
コニャコは俺の言葉を気にもせずに部屋から出ていった。
俺は来人、この物語の主人公だ。
にゃんこ騎士として戦った異世界から戻って半年以上経つ。
先日、俺を追ってこの世界にやって来た異世界での俺の分身である金髪イケメンのブリットと喋る子猫のコニャコも我が家に溶け込んでいた。
俺の両親が俺の説明を何の疑いもせずに信じて二人を受け入れてくれたのには驚いたが今は平穏に暮らしている。
春からは俺も大学に復学した。
「おはよー!来人、学校に行くよ!」
玄関のドアを開けて声を掛けてきたのは幼馴染みでおなじ大学に通う理沙だ。
理沙も俺と一緒に異世界から帰ってきた。
ブリット達とこっちの世界にやって来た妖精の女の子エリスは理沙の家に住んでいる。
「おはよう、理沙。今朝は早いね。」
「何言ってるのよ。早く準備がしなさいよ。」
「うーん!」
「あんた、相変わらず髪、ボサボサね。噂の辻斬り美容師にでも切って貰ったら。」
「何だい、その辻斬り美容師ってのは?」
「知らないの!女性が夜道を歩いているとハサミを持った怪人が現れて髪を切るんだって。その腕が熟練の美容師並みに上手らしいのよ。最近は逆に切って貰いたいって言う子もいるらしいわ。」
「へえ、変わった辻斬りがいるもんだ。」
俺はブリットの作った味噌汁でご飯をかき込んだ。
「御主人様、余り急いで食べると身体にわるいですよ。」
「じゃ、行ってきます!」
「御主人様、お弁当!」
「サンキュー、ブリット!」
「来人、ヘルメット!」
俺は家から飛び出すとヘルメットを被り、バイクに股がって待っていた理沙の後ろに股がった。
「そうだ、来人。今日の講義の後、ちょっと付き合ってよ。」
「いいけど、どこ行くんだよ。」
「後のお楽しみよ!」