第219話 元の世界に戻るにゃ
「来人、理沙、そろそろ行きましょうか。」
俺と理沙はフェリシアについて神殿前の広場に出た。
酔いつぶれて動けない者を除いて全員が俺達に続いた。
神殿前の広場には大きな魔方陣が描かれていた。
「二人とも中に立って下さい。」
俺と理沙は黙って魔方陣の真ん中に立った。
「それでは、扉を開きますよ。」
俺は無意識に理沙の手を握っていた。
「大丈夫、今度は手をつかまえておくにゃ。」
「うん。」
魔法陣の真ん中に小さな竜巻が起こり、徐々に大きくなって来た。
フワッ!
俺と理沙の足が地面から浮かんだ。
こちらの世界に来た時とは比べ物にならない程の穏やかな離陸だ。
「来人、理沙お別れです。色々、ご迷惑をかけましたがありがとう。」
「皆、さようならにゃ!」
「来人、理沙元気でな!」
それぞれが別れの言葉を掛けていく。
「ちょっと待った!」
その時、突然、送別の人々の中から声が上がった。
エリス、ブリット、コニャコが飛び出し魔方陣の中の竜巻に飛び込んだ。
ドン!
大きな音と共に竜巻が膨らみ、俺と理沙、エリス、ブリット、コニャコを巻き込むと一気に上昇した。
足元で悲鳴が聞こえたが直ぐに聞こえなくなった。
「私達を置いて行こうなんて許さないわよ。」
「許さないにゃん!」
「私は何時でも何処でも御主人様にお仕えしますよ。」
「お前達、どうなっても知らないにゃ!」
「でも来人、嬉しそうだね!」
「それは嬉しいにゃ!皆、手を離すにゃよ。皆、一緒にゃ!」
竜巻が激しくなり俺達は揉みくちゃになる中、気を失っていた。
バタバタバタ!
騒々しい物音と照明に照らされ、意識を取り戻した俺は手に伝わる理沙の手の温もりに安心した。
「ここはどこだ。」
コロ!
身体を起こすと同時に傍らににゃんこ騎士の頭が転がった。
顔を触ると随分久しぶりに毛の無い感触がすべすべの感触がする。
俺は人間の姿に戻っていた。
「理沙、大丈夫か。」
「大丈夫。あっ、元の姿に戻れたんだね。」
「うん、人間に戻れたよ。」
「ここは何処なの?」
「分からない。」
俺達の周囲を警察と報道のヘリコプターが照明を当て飛び回っている。
「君達、大丈夫か?」
声を掛けられて振り返るとそこにはレスキュー隊員の姿があった。
俺達がいたのは東京にある世界一高い電波塔の上だったのだ。
俺達がコミケの会場から竜巻で吹き飛ばされて、電波塔の上で発見されるまで3日しかたっていなかった。
理沙と相談して、あの世界での冒険の日々のことは誰にも話さないことにした。
どうせ、話しても信じては貰えないだろう。
修一の捜索も半年が過ぎた時点で打ち切られた。
俺と理沙は電波塔には無かったエリス、ブリット、コニャコを探したが見つかっていない。
そんな中、恭子から竜巻で壊されたイベントホールの修復が終わり、久しぶりにコミケが開かれるという話を聞いて俺と理沙は気晴らしに会場に足を運んだ。
会場にはコスプレをした恭子の姿があった。
「やあ、恭子!」
「理沙、来人、来たんだね。」
「うん、もう半年も経つし、気晴らしにね。」
「来人も理沙も少しは元気を出たかしら?」
「ありがとう、恭子。楽しんでるわ。」
ゴー!
その時、激しい風と共に竜巻が起こったのである。
「また、竜巻だ!危ない、逃げろ。」
会場が騒然とする。
ドン!
しかし、竜巻は一瞬で消え、そこには懐かしいエリス、ブリット、コニャコの姿があった。
「エリス、ブリット、コニャコ!」
俺と理沙は3人に駆け寄った。
「理沙とあんた誰?」
エリスは俺のことが分からないようだった。
しかし、ブリットとコニャコは俺の姿をみると嬉しそうに叫んだ。
「来人にゃん!」
「御主人様!」
こっちの世界での俺とブリット、コニャコの冒険は後日することにしよう。
第1部 完(第2部につづく)