第2話 猫になっていたにゃ
世界の中央には、霊峰アリストンと呼ばれる巨大な山がそびえ立っていた。
その山の頂上に築かれた城には、龍の王と呼ばれる金色の鱗に覆われた巨大な龍が住まうと言われていた。金色の龍は名をナーガといった。
山の裾野には、人、エルフ、ドワーフ、魔族、魔物の国々があった。アリストン山を中心に、北に海を隔てたモーリス島に魔王の治める魔族の国、東の平野に五つの人の国、南側にドワーフの国、西の森にエルフの国が広がっていた。
金龍ナーガは争いを好まず、配下の龍も山から出ることはなく、他の種族と接触することは一切なかった。
ある日の深夜、モーリス島の更に北の海を越えて、黒い鱗の黒龍がやって来た。
黒龍は、身の丈五十メートルを超える巨体であった。通常の龍の成体が二十メートルほどである中、巨体を誇るナーガですら四十メートル。黒龍はその全てを凌駕していた。
黒き龍は一夜にしてモーリス島の魔人の都を焼き尽くした。
魔王とモーリス軍も黒龍の急襲に抵抗したが、為す術なく滅びた。
黒龍はさらに海を越えてアリストンを襲った。
黒龍の存在を事前に察知していた金龍ナーガは、配下の龍と共に城の上空でこれを迎え撃った。
城の上空に飛来した黒龍に、金龍ナーガは語り掛けた。
「我が名はナーガ。ここは我の国だ。何が目的か知らぬが、早々に立ち去れ!」
「我の望みは喰らい、壊し、殺すこと。ただ死んだように山にこもるものを龍とは言わぬ。地を這うトカゲと同じ。トカゲは踏み潰すのみよ」
「うぬ、我をトカゲ呼ばわりするとは身の程を知れ!」
ナーガは怒りの咆哮をあげた。それを合図に、ナーガと数千匹の龍の軍団は、黒龍に襲い掛かった。俺にはその様子が、まるで超大作の映画のように見えていた。
俺が目覚めた時、まだ轟音の竜巻の中にいた。どれだけ気を失っていたのか分からないが、着ていたもふもふの着ぐるみのおかげで衝撃が吸収され、まだ生きていることは分かった。
やがて眼下に大きな山が見えてきた、その時。突然、竜巻が消滅し、俺は重力に引かれ、まっ逆さまに落ちていった。
今度こそ駄目だ。俺は再び意識を失った。
爽やかな風が、草と土の匂いを運んでくる。
俺は酷い夢を見たと目をこすりながら身体を起こした。俺がいたのは見たこともない草原の中だった。夢にしてはあまりにもリアルだ。
再び、風が俺の髭を揺らした。
「待てよ。俺の髭は、揺れるほどのびてないぞ」
顔に手をやると確かに髭があった。髭というか顔中に硬い毛が生えていた。手を見ると、手にも毛が生えており、更に手のひらにプニプニした肉球があった。
「肉球!?」
俺は猫になっていた。正確には、俺が着ていた着ぐるみの「にゃんこ騎士」そのものになっていたのだ。
プラスチック製だった剣や鎧は、軽いが丈夫そうな金属に変わり、本物のリアル装備となっていた。
「多分、竜巻に巻き上げられた俺は頭でも打ったのだろう。目が覚めたら病院のベッドの中、というよくある話だ」
傷でもつければ痛みで目が覚めるだろうと、俺は背中の剣を抜くと、左掌の肉球にプスリと刺してみた。
「にゃーーーーーーーーっ!」
超痛いんですけど! 目も覚めないし、本気でどうなってんすか、これ!




