第173話 戦乱の予感にゃ
「さてと、マーシャルは、決勝の競技は何をするのかにゃ?」
「そうですね、どんな競技でも御主人様なら大丈夫ですよ。」
「そうだにゃ、まぁ、成る様になるにゃ。そう言えば、シトロンと理沙、それにベルガモットとキノットの姿が見えないにゃ。」
第2の競技マタウが終わってから、既に1時間が経過している。
その時、競技場にマーシャルと武装した騎士達が現れた。
「シトロン、ベルガモット、キノットの3人はおるか?」
「さっきから姿が見えないにゃ。」
「しまった、逃げたか!まだ、遠くには行っていないはずだ。探し出して捕えよ。」
騎士達が騒々しく競技場を後にした。
「マーシャル、一体何があったにゃ?」
「街の外に神聖国フェリシアの兵が現れたのじゃ!」
学生達の中に動揺が走った。
「フェリシアは、同盟国じゃないですか!何で?」
「それにいつの間に国境の兵がフェリシアの侵攻に気がつかないはずが…」
「ダビュロスの手引きじゃ!」
「あの野郎!」
「まあ、それでフェリシア出身のシトロン、ベルガモット、キノットの3人の身柄を拘束しに王宮の騎士が来た訳じゃが…。」
「ベルガモットとキノットもフェリシア出身だったのにゃ。そんなことは、全然、言ってなかったにゃ。」
「ところで理沙は、どこじゃ。来人達といっしょでは、無いのか!」
「え、違うにゃ!」
「おらんのか、やはり、シトロン達といっしょのようじゃな。」
「どう言うことにゃ!」
「どうやら、理沙は、シトロン達に拐われたようじゃ!」
「にゃんだって!」
そのころ、シトロン、ベルガモット、キノットは、街の外の街道をフェリシアに向けて馬車を走らせていた。
馬車の荷台の木箱の中には眠らされた理沙が入れられていた。
「シトロン、うまくいったわね。」
「しかし、何で理沙を連れて行く必要があるのかな、ベルは、知っている?」
「シトロン、何でなの?」
「お前達が知る必要は無い。」
「ふーん、シトロン、感じ悪い!」
「おしゃべりは、終わりだ。本隊にたどり着いたぞ。」
シトロン達の馬車は、神聖国フェリシア軍の野営地に到着した。
「ご苦労であったな、シトロン。」
陣幕から現れたのは、純白の甲冑を身に纏った男だった。
「これは、フェリシア神聖騎士団長デュランタ殿が参られるとは。」
「それで例の娘は連れて来たのか。」
「ベルガモット、キノット。理沙を連れてこい。」
「何で私達が力仕事ばかりするのよ。女の子なのよ。」
「キノット!文句ばかり言わない。」
「はい、はい。」
ベルガモット、キノットは、馬車から眠らせた理沙を木箱ごと運んできた。
「これが、女神の依代となる娘か。」
「はい、召喚した際にフェリシアではなくマジリア国で出現させてしまい、発見に手間取りましたが、この娘に間違いありません。」
「確かに魔力量は人並み外れているようだな。ダビュロスが成功していたらそのまま、マジリアに入るのだがそうも行くまい。奴も悪魔などに頼るから失敗するのだ。お前達は、このまま、この娘をつれて、先に本国へ戻れ。私は、マジリアを牽制しつつ、兵を引く。」
「承知しました。ベルガモット、キノット、理沙を馬車に乗せろ。」
「えー、また乗せるんなら降ろさなくてよかったじゃん。」
「キノット、黙ってそっちを持つ。」
「だって、ベルー!」
シトロンは、キノットの抗議の声を聞き流し、黙って馬車に乗り込んだ。
「しかたがないじゃん、キノット。出世するまでの辛抱だよ。」
「下っ端は、辛いよ…。」
シトロン、ベルガモット、キノットの3人は、神聖国フェリシアから女神の依代となる娘を探索の命令を受けて軍から送り込まれていた。
探索と同時進行でダビュロスがクーデタを起こし、その後、フェリシア軍がマジリアに入る手はずであった。
気の小さいダビュロスがクーデターを起こしたのは、フェリシアという後ろ盾があってのことであったのだ。