第163話 クーデターの後にゃ
「メフィスト!」
何喰わぬ顔で再び現れたメフィストに俺達は、動揺を隠せなかった。
「人が驚く顔は、いつ見ても飽きないですね。」
俺達は、一斉に剣を抜きメフィストに向けて構えた。
「降参、降参です。私に戦う意思はありませんよ。」
「悪魔の言うことが信じられるか!」
バックベアードによって洗脳されていた騎士や兵達が叫んだ。
「まあ、信じられないのは、当然ですよね。私としては、ダビュロスさんとの契約に従って動いていただけです。」
「契約?」
メフィストは、いつの間にか、ダビュロスの横に立っていた。
「メフィスト、何をするつもりにゃ!」
「このままでは、ダビュロスさんが死んでしまいますのでね。」
メフィストは、ダビュロスの頭にゆっくりと手を乗せた。
次の瞬間、ダビュロスが老人から元の小太りのちょび髭おやじに戻った。
「おお!元に戻った。メフィスト、元に戻ったぞ。」
しかし、その場の空気は、緊張感に包まれていた。
「心配ありませんよ。ダビュロスは、しばらく魔法を使えませんから、今は、1滴の魔力も残っていませんから。」
「な、なぬ、どう言うことだ?メフィスト!」
ダビュロスが驚いた顔でメフィストに詰め寄った。
「元々、大した魔力は持っていない所を限界以上に使ったら無くなるのは当然でしょう。素質も努力も無しに簡単に強くなるには、それなりの代償が必要なのですよ。」
「そ、そんな…。」
ダビュロスは、青ざめた顔で膝を着いた。
「あ、捕まえると言うのなら抵抗はしませんのでどうぞ。」
メフィストは、本当に何の抵抗をすることなく捕まった。
ダビュロスと洗脳されることなく、進んでクーデターに参加した者も次々と捕まり、この騒動は幕を引いたのである。
ダビュロスとメフィストは、地下の魔力を封印する特別な牢獄に入れられた。
「メフィスト、これは、一体どういうことなんだ?」
向かい合った牢の鉄格子越しにダビュロスがメフィストを責めた。
「ダビュロス、あなたに力を使いこなす能力が無かっただけですよ。私は、あなたが望む様に手助けをしてきましたがそれを使いこなせなかったに過ぎません。」
「な、何だと!」
「おやおや、言い争いかい?」
牢にやって来たのは、マリーダ女王とダブリンドアと俺の3人だった。
「俺を笑いに来たのか、ダブリンドア?」
「あんたもつくづく救えないね。」
「くっ!」
「ダビュロス、何故この様な馬鹿な真似をしたのです?」
「私は、偉大な魔法使いになりたかった。でも、私には、素質が無かった。そんな私がたまたま、悪魔の召喚を記した本を手に入れて、夢を見て何が悪い!」
「安易な方法で夢が叶うわけがないでしょう。あなたには、あなたが生かせる能力があったから魔法省の長官をしてもらっていたのです。」
「マリーダ女王…。」
「ダビュロス、残念です。」
マリーダ女王は、それだけを言うと牢を後にした。
「ところでメフィスト、あなたは、どうやってこの世界に来たのです?」
「私は、ダビュロスさんに召喚されたんですよ。」
「それは、嘘ですね。ダビュロスが持っていた本に書かれた方法で悪魔を召喚することはできません。」
「ほう、流石、召喚術の第一人者のダブリンドア学長ですね。ただ、ダビュロスさんが私を召喚したのは、本当ですよ。正確には、召喚術の失敗でたまたま私が召喚されてしまった訳ですがね。」
「何、メフィスト、それは、本当なのか?」
ダビュロスが赤い顔をして叫んだ。
「まあ、偶然の賜物ってやつですね。それで、行く宛てもないし、暇なんでダビュロスの手助けをしてたわけですよ。まあ、信じるかどうかは、そちらの勝手ですがね。」