第12話 ナザルの積み荷にゃ!
ゴドーは動けなかった。
赤毛の女の子を助け起こそうと片膝をついた瞬間、短剣が喉元に突きつけられていたのだ。
「声を出すんじゃないよ。あんたがナザルの積荷をリーンに運んでることは知ってるのよ。」
赤毛の女の子は小声でゴドーを脅した。
実は、ゴドーは赤毛の男が探しているナザルの積荷を、馬車の御者席の下に隠していた。
それは「狂気の雫」というブラックポーションの一種。飲んだ者を狂戦士に変え、死ぬまで暴れさせるという恐ろしい薬だ。ゆえに、その使用は禁忌とされていた。
ナザルは首都リーンを拠点とする闇ギルドのギルドマスター。暗殺、誘拐、盗みなど、あらゆる闇の仕事を請け負う組織の長である。
ゴドーは闇ギルドのメンバーではないが、運び屋として依頼され、断ることができなかった。運んでいることがバレれば投獄される。しかし、断れば命がない。選択の余地はなかった。
相手が何者なのか、なぜ自分がナザルの命令で「狂気の雫」を運んでいることを知っているのかは分からない。
だが、ゴドーにとって闇ギルドの脅威よりも、今この瞬間の危機を乗り切ることの方が重要だった。
「馬車に……」
「馬車のどこ?」
「御者席の下の秘密の収納場所にある。」
「よし。」
そう言うと、赤毛の女の子は勢いよく立ち上がり、ゴドーの腕を捻り上げて喉元にナイフを当て、叫んだ。
「兄貴! 薬の隠し場所が分かったよ!」
「了解した。」
シデンと斬り合っていたデュークは、赤毛の女の子の声に応じて大きく後方へ跳び、間合いを取った。
俺とフィーネ、シデンが声のした方を見ると、赤毛の女の子に腕を捻り上げられ、首にナイフを突きつけられている御者のゴドーの姿があった。
「このおっさんの命が惜しければ、武器を捨てな。」
俺たちはゴドーと仲間ではないが、今まで馬車に乗せてもらっていたこともあり、多少なりとも情が湧いていた。
「シデン、フィーネ。しかたがない、ゴドーさんの命には代えられないにゃ。」
「そうね。」
「ここで戦いが終わるのは残念だけど、しかたないか。」
俺とフィーネ、シデンは、武器を地面に放り出した。
「すまねえ、にゃんこの旦那方……」
「アリア、よくやった。お前たちも、いつまでも寝てないでこいつらを縛り上げろ。」
デュークは女の子に声をかけた後、先ほど俺たちが倒した男たちに指示を出した。
「ナザルの悪党の手先をしてるお前らが悪いんだよ。」
のそのそと起き上がってきた男たちによって、俺たちは縛り上げられた。




