第11話 盗賊が出たにゃ
ゴトゴトと馬車は山道を走っていた。
俺は、すでに俺の指定席である屋根の上に座り、鼻歌を歌っていた。
「にゃんこさん、山を越えたら町まであと少しですよ。」
御者のゴドーが声をかけてきた。
「それは楽しみだにゃ。」
ヒヒーン!
馬のいななきとともに、突然馬車が止まった。
見ると、馬車の前方の道端に、いかにも旅人風の服を着た女の子が倒れていた。赤毛をポニーテールに束ねた、高校生くらいの小柄で可愛らしい女の子だ。
すでにゴドーは馬車から飛び降りて、彼女のもとへ駆け寄っていた。
その時、俺は馬車を包囲する大勢の人間の臭いに気づいた。
「ゴドーさん、何かおかしい!戻るにゃ!」
俺の声と同時に、剣で武装した5人の男が周囲の林から現れ、馬車を包囲した。
俺は背中の剣を抜き、屋根から飛び降りた。
「敵にゃ!」
シデンとフィーネも馬車から飛び出し、剣を抜く。
「大人しく、馬車の中の積み荷を渡してもらおうか。」
男たちの中でリーダーらしき赤毛の男が叫んだ。
「お前たちに渡すような荷物はない。」
シデンが答える。実際、俺たちは乗っていただけで、積み荷などない。
「隠しても無駄だ。この馬車にナザル宛の荷物が積まれていることは分かっているんだ。」
「何のことだか、まったく分からないにゃ。」
「しらばっくれるな!力ずくで調べてやる!」
男はそう言い放つと、他の男たちとともに俺たちに襲いかかってきた。
赤毛の男とシデン、残りの男たちと俺とフィーネがそれぞれ対峙する形となった。
赤毛の男はそこそこ腕が立つようで、シデンと互角の戦いを繰り広げている。
フィーネはアーチャーだが、剣の腕もなかなかで、男2人を相手に互角に渡り合っていた。
俺はというと、そこそこ鍛えているような相手2人くらいなら、もう2〜3人増えても余裕だ。
最初に斬りかかってきた男の懐に飛び込むと、一本背負いの要領で、もう1人の男に投げつけた。
男2人は折り重なるように倒れ、カエルのような声をあげて気を失った。
「ライル!ジーン!」
フィーネが相手をしていた男の1人が、俺に倒された仲間に向かって叫んだ。
「戦ってる最中は、相手に集中しなきゃ!」
フィーネがこちらに気を取られた男の顎に蹴りを入れる。男はその場に倒れて気を失った。
「おのれ!」
残ったもう1人の男がフィーネの背後から斬りかかろうとした。
ガン!
「そうはさせないにゃ。」
俺は男の首筋に背後から蹴りを入れ、気絶させた。
シデンと赤毛の男は激しく斬り合っていた。
シデンは幼い頃から、元王国騎士団にいた父親から厳しい剣の修行を受けており、剣と小盾を使う王国騎士団の正統派剣術を使う。
なぜそんなシデンが冒険者をしているかは後に語るが、とにかく強い。
そして何より、シデンは戦うことが大好きなのだ。どこぞの戦闘民族並みのバトルマニアである。
そんなシデンは、赤毛の男との戦いを心から楽しんでいた。
赤毛の男は両手に刀を持つ二刀流。剣だけでなく体術も織り交ぜ、まるで忍者のような動きでシデンを翻弄している。
しかし、そんな手強い相手に対しても、シデンは笑みを浮かべていた。
「あんた、強いね。名は何て言うんだ? 俺はシデンだ。」
シデンは赤毛の男の蹴りを盾で受け流しながら、剣を叩きつけて話しかける。
「あんたも強いな! 俺はデューク。それほどの腕がありながら、ナザルの手下とはもったいないな。」
デュークは左手の刀で受け、右手の刀でシデンの眉間めがけて突きを放った。
シデンは身をひねって突きをかわす。
「いやぁ、燃えるね。このヒリヒリ感がたまんないな。ナザルってのは知らないけど、楽しいね!」
他の男たちを片付けた俺とフィーネは、そんなシデンの戦いを見守っていた。
「加勢しなくていいのかにゃ?」
「シデンはああなると、下手に手を出すとすねちゃうから放っておいていいのよ。」
「でも、赤毛の男、俺たちのこと誤解してないかにゃ?」




