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第10話 竜巻のち雨にゃ
竜巻が通り過ぎた後、シトシトと静かな雨が降っていた。
竜巻が発生したコミケの会場は、見るも無惨な姿を晒していた。イベントホールの屋根は吹き飛び、鉄骨がむき出しになっている。わずかに残った壁面には、巨大な平行四本線の抉られたような傷痕が無数に刻まれていた。それはまるで、巨大な獣の爪痕を思わせるものだった。
そんな瓦礫の中を、戦士のコスプレをした少女が、雨に濡れながらふらふらと歩いていた。
「りさー! いたら返事してー! らいとー! しゅういちー! どこにいるのー?」
少女の名は恭子。来人、理沙、修一の3人は、竜巻に巻き上げられ、行方不明となっていた。
コミケの会場を襲ったこの竜巻は、3人の行方不明者と数人の重軽傷者を出す惨事となった。また、建物に残された傷痕がまるで龍の爪痕のようだったことから、ネット上では「龍の竜巻事件」として一時話題となったが、それも月日の流れとともに、次第に人々の記憶から薄れていった。




