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アンダーワールド  作者: しもさん
【第一章 除染者】
2/3

【第一章】入学

 俺の朝は遅い。


 ーーーピピピピッ!ピピピピッ!ーーー


 よって、このように目覚ましをセットして起きるということは普段はしない。というか、したことがない。

 そもそも目覚ましをかけて起きるというのはどうも俺の賞に合わないのか苦手で、これで起きると非常に目覚めが悪い。そして心臓に悪い。ビックリするじゃないか………。

 だから、俺はこの音はきっと目覚ましの音じゃないんだと思った。どこか別の、ヱヴォウイルス濃度警報の警報音が変わったのだと思った。思い込んだ。


 ーーーピピピピッ!ピピピピッ!ーーー


 だが、いつまで経っても耳元でなり続くこの電子音は俺を徐々に眠りから覚醒へと導き、これは昨晩自分がセットした目覚ましだと言う事を思い出し、そしてこのまま無視して眠ってしまおうと布団を被り直して、止めた。

 理由は二つほどある。

 単に五月蝿(うるさ)いのと、もう一人の住人が起きてしまう可能性があったからだ。彼女が起きると今以上に五月蝿(うるさ)くなる他途轍(とてつ)もないく面倒な事になるからだ。


(まぁ、この程度の音で起きるような人じゃないだろうけど)


 いっそのことこのまま二度寝してやろうかと思ったが、それでは昨日慌てて目覚めし時計を買いに行った俺の苦労と、せっかく今ようやく覚醒しかけてる俺を無下にしてしまう。


「仕方ない、起きるか………」


 まだ若干重い体を起こし布団から脱出。そして、体を伸ばし重い体を解してから自分の部屋を出た。

 そのままリビングに直行、隣接してるキッチンへと行き冷蔵庫から適当な食材をかき集めて朝食を作る。と、言っても作れるものなど対してなく、パンにチーズを乗せ焼いたものとスクランブルエッグにベーコンを備えて完成といういたってシンプルなものだ。それを二人分作る。

 広いリビングの中「いただきます」と小さな声が響き渡る。だいたい朝食は二人で食べていたのだが、それは俺が普段通りの生活をしていたらの話で、これほど早く起きてしまってはこうなっても仕方が無い。

 少し寂しさを感じながらもさっさと食べ終わり、食器を片付けて再び自分の部屋に戻って行く。

 あまり時間がないので俺は急いで寝巻きから制服へと着替える。慣れない制服に袖を通すと、堪えきれず大きな溜息をついた。

 学校。

 学校の制服。

 俺は『学校の制服』というものを一生着ない生活をするものだと思っていた。着れないと思っていた。

 なのに、急に学校に行くことになって、制服も用意されて、しかもこんな中途半端な時期に編入という形で入学するなんて、夢にも思ってなかった。慌てて目覚ましを買いに行ったのもそのせいだ。

 まさか「明日お前学校に入学することになったから、朝早いからしっかり起きろよんっ」なんて言われると思わねぇよ普通。もう少し早めに言うとか、事前に知らせておくこととかできるだろあの糞婆ッ!


「でもまぁ、俺にこんな話したら絶対断ってたと思うし………いい機会なのかな?」


 と、少し感傷的になっていると結構いい時間になっていた。そろそろ家をでなくては遅刻をしてしまう。流石に入学初日遅刻はマズイだろう、くらいの常識は持ち合わせていたので俺は急いで家を出た。


「忘れ物はないよな………確か、クリアルは届けたいって言ってたよな?」


 若干の不安はあるものの、今から引き返して物を取りに行くほどの余裕はないので、今回は諦めることにした。

 家を出て入り組んだ路地を抜けると大通りに出る。そこから一直線に進むとエレベーターホールが現れる。そこで二階まで上がらないといけないのだ。この土地は最下層の十三階だから、結構な距離がある。更に、ここからエレベーターホールまでの距離も相当あるので、全力で走ってはいるがあと五分くらいかかってしまうだろう。

 アクセラを使ってしまおうか?と一瞬思考がよぎるが、普段の生活での力の発動は禁止されているし、最下層のこの土地は上層の階からディコンタミル鉱石によってヱヴァウイルスを遮断してる為、ヱヴォウイルスの濃度が低い。この状態でも染蔵に蓄えられている分で充分にアクセラは行えるのだが、やった後に染蔵や染脈を痛めてしまう可能性もあるのだ。

 しょうがなく、俺はこのまま全力でエレベーターホールまで走るしかなかった。

 普段から鍛えているおかげでそこまで息を切らすことなくエレベーターホールに辿り着いた俺は、急いでエレベーターに乗り込み『2』のボタンを押してドアを閉める。

 普段からこのエレベーターはよく使うが、一人で使った経験は意外にないかもしれない。そして、この階から上へ行く人間は俺と彼女くらいで、自然にエレベーター内は俺一人となってる。


(それは当たり前か………)


 この最下層にいる住民達は、皆逃げてきた人たちなのだから。

 エレベーターは徐々に加速し始め、八階辺りまでは一度も止まることなくスムーズに上れ、そこからは各階毎に停車して何人かの人を乗せ上昇してを繰り返した。

 そして俺が降りる二階に辿り着いた時は、最初の俺一人とは比べほどにならないくらいの人でエレベーター内は賑わっていた。大体の人が二階か一階で降りるため、これほどぎゅうぎゅう詰めになっても抜け出すのは割と容易い。そして、降りて気がついたのだが同じエレベーター内に俺と同じ制服の人が何人かいたらしく、あまり詳しい学校の所在地を聞いてなかったので彼らの後を少し後ろでつけることにした。

 正直、今ものすごく微妙な気分だ。

 まさか自分が学校に行くことになるなんて思ってもなかったし、ましてや今は周りの学生と同じ制服を着て、同じ学校へ向かい、同じ授業を受ける同学年の人達で溢れかえっているのだ。

 つい昨日まで彼女の手伝い………と言う名の強制労働をしていた俺からしてみたら、もはやここは別世界だ。


「はぁ………」


 思わず溜息が出てしまうが、今更どうこうできるとも思わないし、彼女が行けと言ったら行くしかないのは昔からよ〜く知っている。

 そうこうしている内に、いつの間にか学校の前へと辿り着いていた。


「で、でっけぇ………!」


 学校の前に立ち見たままの感想を漏らす。

 一体どれほどの広さを有しているのか。上層の階になればなるほど全体の土地の広さは狭くなる。ましてやここは二階。下手したらこの学園だけで半分以上は持っていってるんじゃないだろうか………?


「貴方が、高柳(たかやなぎ)(かおる)くんでね?」

「え?」


 学校の大きさに口を開けて見上げているところに、若いお姉さん、恐らくこの学園の教員の人が声をかけてきた。

 きちっとした新しく見えるスーツに茶色の髪をポニーテールにして結んでいる。見た目の若さとスーツからして、比較的新人の教員なのだろうと推測できる。それにしても綺麗な人だな………。


那奈(なな)さんから事情は伺っております。貴方を学園長室へご案内するように承っておりますので、ご同行願いますか?」

「あ、はい。お願いします」


 丁寧な対応に少し縮こまりながら返事を返す。

 そう言えば、学校の場所もよく分かってなく着いたところで何処へ向かえばもよくわかってなかった状態でよくここまで来れたな俺………。このお姉さんが来なかったら一体この後どうしてたんだよ。

 取り敢えず、今は黙ってこのお姉さんの後をついて行くとにした。それしか選択肢が用意されてないとも言うが、気にしない。

 てっきり昇降口から入るのかと思ったらわざわざ裏口まで遠回りして校舎内に入る。学校がクソでかいのもあって裏口に回るだけでも一苦労なのだが、そこから四階ほど階段を上り更に三百メートルほど歩いてようやく『学園長室』という文字が見えた。本当、どんだけ広いんだよ………。


「失礼します。高柳薫くんを連れて参りました」

「うん、入ってぇ」


 お姉さんがドアの前で呼びかけると、中から女の人の陽気な声が聞こえてきた。学園長はどうやら女の人らしい。というか………。


(なんか、喋り方というかイントネーションが彼女と似てるな………)


 そう言えば、学園長は彼女がの古い親友だとかなんか言っていたような気がするのを思い出した。類は友を呼ぶ、のだろうか?もしそうなら、嫌な予感しかしないのだが………。

 そうしてドアが開かれ、俺は中へと入って行く。案の定、中には青い髪に青い瞳をした女の人が偉そうな椅子に座っていた。

 年齢は彼女と同じくらいか、それより上といった印象に感じる。彼女よりも落ち着いた雰囲気と童顔ではない事が影響しているのだと思う。が、先ほどの声の感じだと中身は見た目通りではないのかもしれない。因みに、参考までに彼女の年齢を言うと二十七歳だ。


「キミがナナが預かって欲しいって言ってたカオルくんだねぇ」


 ドアの向こうで聞いた声と同じイントネーションで語りかけてくる。若干甘ったるい感じの話し方にうまく慣れない。


「ふーん」


 学園長は自分の席を立ち、こちらに向かってくる。そして目の前まで来て顔を覗き込むように見てくる。


「うーーーーんっ」

「あ、あのなにか………?」

「………うん、合格ッ!」

「え?」


 と、訳のわからない事を言い学園長は俺から離れて行く。


「だからぁ、合格だとってことだよぉ」

「いや、だから何が合格なのでしょうか?」

「顔」

「冗談でしょ?」

「うん、冗談ッ♬」


 ………なんなんだこの人?変人度なら彼女と張り合えるレベルだなこりゃ。

 などと考えてると、少し真面目な顔をして学園長は


 「結構強めにやったんだけどなぁ。ちょっとショックだよワタシ〜」


 と、言った時にようやく異変に気がついた。さっきまで学園長室まで案内してくれたお姉さんは後ろで待機してたのだが、そのお姉さんが苦しそうに(うずくま)ってる。

 ………これは。


「威圧………してたんですか」


 威圧。その名の通り、相手を威圧する技。

 染蔵から作り出すヱヴォエネルギーを染脈に乗せ、それを外部へ放射。人間の五感へ恐怖をダイレクトに伝える………確かこんな仕組みだった気がする。そして、強力な威圧は相手の自由を奪うほどになり、今のお姉さんのような状態になる。このようになるのは人それぞれ異なり、元々威圧に対して体制が強い人もいるので一概にこのラインを超えたら動けなくなるといったことはない。

 だが、お姉さんの様子から察するに、相当強力な威圧を行ったのは確かだ。


「そそっ!だいせいかーいっ!!今くらいの強さなら臨戦している部屋の人も彼女と同じくらいになってもおかしくない強さなんだけどなぁ………キミ、相当ナナちゃんにシゴかれてるでしょぉ?」

「ははは………」


 シゴかれてるどころではない、死にかけてる。それも何度も。

 よく命が幾つあっても足りない、という表現をするがまさにその通りだ。よく今まで生きていた自分でも思う。


「ワタシの威圧で立ってられるだけでもかなぁり優秀なのに、立ってるどころかけろっとしてるんだものぉ!なんかムカつくぅ!」


 そう言って頬を膨らます学園長の姿は、子供のそれと一緒に思えた。やはり、学園長も彼女と同種の人間らしい。


「あッ!そう言えばぁまだ自己紹介がまだだったねぇ!!」


 半歩ほど下がり


「ワタシはこの城西学園の学園長をしてる、緒方(おがた)結由(ゆゆ)でぇす!そしてようこそッ!我が学園へッ!タカヤナギカオルくんっ!」


 そう言った学園長、結由(ゆゆ)はこれまでの最高に楽しそうな笑顔でそう告げた。その姿は、美しくも同時に何とも言えぬ恐怖感があった気がする。それは、彼女に対してなのか。それとも、これからの学園生活に対してなのか。

 そして、今日から俺はこの城塞学園の二年生として生活がスタートする。




 この、除染者育成専門学校城西学園二年生高柳薫として。この先、何が起ころうとも。


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