【序章】 天井(そら)のある世界
何故、世界はこんなにも狭いのか。
小さい時、両親からここから見える太陽も空も星も全て幻想で、この世界には天井があるがあるのよと聞かされた時から、頭の片隅にはこの疑問が張り付いていた。
人類が地上を捨て地下へと逃げ込んでからもう直ぐ1000年が経とうとしている。電子パネルによって映し出される人口太陽と空。夜になれば景色も変わり、太陽は沈み綺麗な月と星を映し出す。とても親切なことに、季節ごとに見える星を変えたり、日の出る時間を変えたりまでしてできる限り地上にいた頃と同じような環境を再現している。
今ではどうしてこのようなことをするのか。理解はできるが、やはり俺には狭苦しいと感じてしまう。
何故、この空は本物ではないのか。
何故、この空には限りがあるのか。
本来、空とはいくら手を伸ばしてもけっして届かないものなはずなのに、この空には限りがあり、伸ばしていけばいつか手が届いてしまう。
「………なぜ」
自然に言葉が漏れ出す。
何故、なんだと。
その疑問の答えは持ち合わせている。
だが、だからこそ俺は疑問が解消されることはないのだと思う。
この疑問の答えは、あるようでないものと同じだから。
「………だけど」
再び言葉が漏れ出す。
俺は答えが欲しい。
その答えがたとえ間違えだとしても、俺自信が納得できる答えが。
答えがないのなら、見つけるしかない。いつか、この天井が壊され、本物の空の下を自由に歩ける日が来るその日を。
俺は空に右手を伸ばす。
限りのあるはずの空なのに、いくら手を伸ばしてもそこには届かない。
その時の俺は、届くことのない右手をただ見つめることしかできなかった………。