序章 事の発端
俺は佐藤海斗。ただの高校2年生だ。毎日平々凡々の日々を送っている。
俺が中学3年生の時、父が不倫をして両親は離婚した。
その後母と暮らしていたが、ある日男を作って母はいなくなった。おかげで今は高校1年生の少しブラコン気味の妹の綾と一緒に父から送られてくる仕送りだけで暮らしている。
今日も普通に起床して普通に顔を洗い普通に着替えて普通にパンを食べる。相も変わらずつまらない日だ。
そんな俺にはとある"趣味"がある。
「お兄ちゃ〜ん、魚に餌あげないの?」
「あ、忘れてた」
そう、アクアリウムだ。
俺が中学に入った時に父と一緒に初めた。
最初は金魚、メダカから飼い始めて段々エスカレートしていき、今では5本の水槽を管理している。
正直言ってやりすぎました。もうね、電気代がかかってしょうがないんですよ。
「第一水槽よし、第二水槽よし、第三水槽も よし、海水水槽もよし、っと...
餌やり終わったー!」
「お兄ちゃんトビハゼ水槽は?」
「あ、忘れてた」
「お兄ちゃん忘れすぎ」
「ごめんごめん そっちは終わったのか?」
「もうとっくのとうに終わってるよ!」
綾も2本の水槽を管理している。
「トビハゼ水槽よし!今度こそ終わった!」
「じゃあ学校いこ!」
「おう!」
そして俺たちは無駄にでかい一軒家を出た。
「おーい海斗と綾〜!」
「ん?」
振り向くと15mくらい先に幼馴染の伊藤紗香がいた。
「一人で学校に行くのもつまんないし一緒に行かない?」
「まあ人数多い方が楽しいしね!」
「まあ確かにな。たまにはそういうのもいいかもしれんな」
「確かに紗香と学校行くの久しぶりかもね! 」
「さあ、もう行くぞ!遅刻するぞ!」
「「はーい!」」
俺はこの時まだ大変な事に気づいていなかった。
「おし!ギリギリセーフ!」
「じゃあお兄ちゃんと紗香またあとでね!」
「じゃあな」「じゃあね」
そういって俺と紗香は綾と別れた。
「ところで海斗」
「なんだ?」
「あのルール忘れてないよね?」
「ん?何のルールだ?」
「ほら..."RSSR"」
「あ!」
俺は2年2組の男子のルールを忘れていたのだ!
うちのクラスの男子はキモオタと豚が半数を占めている。その為、「リア爆!」だの「リア充は駆逐してやる!!...この世から...一人残らず!!」だのとリア充への嫌悪感が半端ない。だから、キモオタと豚はどっちがましかという最高にくだらない争いをしていたキモオタ組のリーダー小田喜喪と豚組の土羅衛門が話し合い、"Riaju Shine Shine Rule" 通称RSSRが誕生した。そのルールの第五カ条に【二人以上の女の子と歩いていた者を見つけた場合制裁をくだしてよい】というものがあったのだ!!!
「まだ誰にも見つかってないよな?」
「分かんない。でも見つかってたら...って教室着いたよ!」
「あ、ほんとだ...とにかくばれませんように...」
俺は祈りながら教室に入った。
「小田さん!奴が来ました!!!」
「はぁ。ばれてたか...」
「おい!佐藤!歯食いしばれ!!!」
そう言って小田は痛くもないパンチを食らわせてきた。
「佐藤の分際で女子二人と歩くとはな」
と小田はニヤつきながら言った。はっきり言ってキモい。
「一人は妹だしカウントするのは紗香だけじゃダメなのか?」
「妹だろうが女子に変わりはない!もう一発くらえ!!!」
そう言ってまた小田はパンチの構えをとり殴ろうとしたその時!
「待て!このキモオタ!!」
「誰だ!」
小田がそう言うと小田と俺の周りにでかい陰が出来た。90kgもある巨体で地面をドスドスさせながら土羅が現れた。
「確かに妹も女子には変わりはない。だがな妹はな...家族なんだ!!!家族を性的対象として見るやつがいるか?家族を傷付けたいと思うやつはこの世にいるか?ブヒッ」
最後のブヒッがなければかっこよかった。
「いるぞ!例えば俺!!! 妹ペロペロ!フヒッ!」
小田もキモく言い返す。
「何だと!?ふざけんじゃねぇ!妹を傷つけるやつは許さん!!!ブヒブヒブヒ!」
そういやこいつシスコンだった。
「そろそろ決着つけるか...どちらがキモイのかをな!ヒヒヒヒ!」
小田がそう言うと二人は殴り合いを始めた。
正直言って小田が超絶キモい。どっちもキモいが。
「今のうちに行こうぜ、紗香」
「そうね」
そうして修羅場?は幕を閉じた。
後ろから「くぎゅうううううううううう!!!」だの「昼飯まだかこのやろおおおおおおお!」
だの聞こえてきたが無視して席につき授業の予習を始めた。
「ようやく抜け出せたな」
と俺の隣の席の中川聡太が話しかけてきた。
「正直あいつらどっちも同じくらいキモいよな」
「お、海斗が久々に正しいことを言った!」
「おい!全員席につけ!小田と土羅はあと で職員室に来い!」
といつの間に来ていた教師の深井が吠えた。
「か、海斗 !深井の奴いつ来た?」
「俺にも分からん」
「あと1分でHR始まるぞ!日直!今日の日直は誰だ!」
「あ、中川」
「なんだ?」
「今日お前日直だぞ」
「嘘だろ!?嘘だろ!?嘘だろ!?」
「中川!自分の役割をしっかり覚えとけ!」
「は、はい!」
そうしてHRは始まった。
ふと気が付くと真っ白な空間に俺は倒れていた。
「...ここはどこだ?」
果てしなく真っ白な空間には俺と瓶に入った"何か"が落ちていた。
"何か"は錠剤のようだった。
何と無く俺はそれを拾って制服のポケットにしまった。
"何か"をポケットに入れた途端、上の方から光がやって来た。その光は女の形になった。
「その薬を飲むとあなたは魚になることができます。」
お前はキチガイか?
「いいえ、キチガイではありません。」
何こいつw頭の中分かるとかチートすぎw
「その薬をうまく使ってください。」
魚になる薬を何に使うんだよw
「今この世界には危機が迫っているのです。その危機を解決できるのはその薬だけです。」
中2病ww
「中2病ではありません。近いうちにある病気が地球上の生命を滅ぼすのです。」
何ていう病気?
「"新型カラムリナス病"。カラムリナスHZという病原菌がもたらす病気です。」
カラムリナス病って魚の病気じゃね?
「確かにそうですが、1ヶ月前に突然変異の病原菌が見つかったのです。それがカラムリナスHZ。この病気は空気感染します。潜伏期間は3ヵ月です。その病原菌が発見されているのは、今のところあなたが所有している水槽だけです。その為、その薬を使ってあなたの水槽に魚として侵入し、病原菌を撲滅させるのです。」
何故魚にならないといけないんだ?かかっている奴を殺せばいいだけだろ?
「それをやってしまえばおしまいです。カラムリナスHZにかかった魚の死体からは体内に潜伏していた菌が放出され、拡散されます。」
生きたまま密閉容器に入れればよくね?
「感染した魚が陸に出た途端、菌は危機を感じ、空気中に菌が放出されます。」
もうどうしようもなくないじゃん。
「いいえ、一つだけ手段があります。」
それは?
「感染魚の人間に対する恐怖心を取り除くことです。」
は?無理。
「だから魚と同じ立場になって説得するんです。」
なんで人に対する恐怖心をとると滅菌できるんだ?
「何故かは分かりませんが、この病気は感染魚の緊張感をエネルギーにしているんです。基本的に水槽の魚が緊張感を抱く原因は人間です。人に対する恐怖心をとることはその魚の緊張感を取り除くことにつながるんです。栄養源のなくなった菌は消滅するだけです。」
そいつの緊張感がなくなればほかの魚に寄生しちまうかもしれないぞ?
「カラムリナスHZは最初に寄生した魚からは離れることができないんです。」
つかお前がやれよ。
「私にはどうしても外せない用事があるんです。」
はぁ...何と無く分かったが、今お前が言ってる事は嘘じゃないだろうな?
「当然です。」
分かった。ちなみにこの薬なんて名前?
「特に名前はありません。でも敢えてつけるなら...FCM?」
どうしてそうなった?
「Fish Change Medicineを略しました。」
RSSRと同じつけ方だな。
「言われてみればそうですね。」
ずっと気になってたけどあんただれ?
「私の名は川咲葉月です。」
案外普通の名前だな。
「確かにそうですね。ではさようなら。」
葉月がそういうと、急に俺の体は落ちて行った。
「海斗!」
「うわっ!先生すいません!」
「俺は先生じゃねーよ」
「なんだ中川か」
「なんだ中川かじゃねーよ。もう昼休みだぜ?」
「しまった!授業寝過ごした!」
「おはよう海斗。お昼ご飯一緒に食べない?」
「おはよう紗香。別にいいぞ」
「じゃあ、弁当持ってくるね」
「おう!」
「リア爆」
「おいおい中川。俺なんかがリア充な訳ないだろ」
「いいやリア充だ!リア充じゃなければ女子と一緒に昼飯なんか食えないぞ!しかも相手は人気の高い伊藤だぞ!?これをリア充と言わずして何がリア充だ!」
そうこうしているうちに紗香が戻ってきた。
「お待たせ海斗。中川くんも一緒に食べる?」
「え、いいのか?じゃあご一緒させていただきます」
「人数が多い方が楽しいしね」
「「「いただきます」」」
「おい海斗。今日お前んち行っていいか?」
と卵焼きを頬張りながら中川がいう。
「別にいいぞ。」
「あのさ」
「なんだ紗香?」
「私も海斗の家行っていい?」
「別にいいぞ。」
俺がそういった瞬間どこかで「リア爆!」という声が聞こえてきたが無視をする。
その後たわいもない話をして昼休みは終わりを告げ、気付いたら帰りのHRも終わっていた。
俺は中川と紗香と綾を連れて家に着いていた。
「俺、海斗の家行くの初めてかもしれないな」
「私は中学時代以来かな?」
「お兄ちゃんが家に人呼ぶのって久しぶり♪」
「あれ、鍵がない」
確かにポケットにしまったはずなのだが。
鍵を探していると何かが手に触れた。
「あった!」
それを引っ張り出すと夢に出て来た小瓶がポケットから出てきた。
「何その瓶」
紗香が訝しげに瓶を見つめる。
俺は心当たりがあったが、あれは所詮夢の中の出来事なので誤魔化す事にした。
「俺にも分からん...って鍵あった!」
俺たちは家に入った。
「うわー。 お前の家って水槽だらけだな」
「7本だけだがな」
「前は3本だけだったじゃない」
「お兄ちゃんが「一人暮らしだ!」っていって調子に乗って増やしすぎたのよねー」
そういって綾は笑った。
「もう一度聞くけどその瓶何?」
とまた紗香が俺が隠そうとした瓶について聞いてきた。
「だから心当たりがな...分かった分かった。話しゃいいんだろ。」
また誤魔化そうとしたが紗香に睨まれたので夢のことについて話すことにした。
「....というわけだ。」
「でもそれってただの夢だよな?」
と中川は笑っている。
「ちょっと待って」
突然綾は無表情になった。
「私と同じクラスに同姓同名のひとがいるよ。」
「それは本当か綾?」
「うん、両親が研究所に勤めていることは分かるけどそれ以外は...」
「いよいよただの夢とは思えなくなったな。ということはやはり病原菌が水槽に...」
皆が黙りこくった。その静寂を破ったのは、
「ねえ」
「その薬飲んでみない?」
紗香だった。
初めて書いた小説です!
用語解説しますね(と言ってもそこまで用語はないはず)
アクアリウム
水生生物の飼育設備
トビハゼ
主にperiophthalmus属の魚のことをいう。陸を跳ねる魚。
ムツゴロウとは違う。この作品で飼っているトビハゼはミナミトビハゼ。
くぎゅううう
釘宮病にかかった人が発する奇声。
Riaju Shine Shine Rule
そのまんま「リア充 市ね 市ね ルール」
Fish Change Medicine
「フィッシュ チェンジ メディシン」
魚に変わる薬の意。文法が合っているかは不明。
カラムリナス病
ある意味恐怖の病気。別名尾腐れ病。
尾鰭がボロボロになって行く。
基本的にどの病気にも効くと言われている塩水浴が効かない。
対処法は病魚を隔離し、0.3%の塩水+魚病薬に漬ける。
初心者はこれで絶望する。
つか、そもそも水槽環境を綺麗に保っていれば発性しない。