向上心
潜り込んだ地下鉄からようやく這い出てくる
急かされるようにエスカレーターに導かれ
駅ビルへ向かう人波に交わる
大勢の中に紛れこむ一人はいっそう独り
大きな窓から覗く夜は直球ど真ん中
ストレートな暗闇にぽつぽつ光る街並み
灯かりは全部ぼやけて尾を靡いてまるで消えない花火
信じて裏切られて信じられなくて裏切って
くるりと振り向けば
助けられて救われて優しくて安堵する
人生なんてそんな事の繰り返し
みんな疲れているしみんな孤独だしみんな何かに飢えている
ちょっとした刺激が心を開かせてまた閉じ込めて
うれしくて悲しくて右往左往して立ち止まって歩き出して
惰性に身を委ねて暗闇で何も見えない明日へ
それでも私は向かってしまうのだから
意味なんてないけれど意味はあるのだろう
例えば探しものが見つかった時の喜びをまた知りたくなって
例えば誰かの落としものを見つけて拾って届けたくなって
今日も地下鉄から這い出てきて明日に向かうのだとしたら
まだ向上心は残っているのかもしれない