田舎もの。
こんにちは、もとはブログで書いていたものですが
完結したので、こちらでも…ということで
田舎もの。です。
ぜひ、ブログのほうにも来てください。
http://ameblo.jp/syawakoosidesu/
とある日本の片田舎、田舎といっても、都会へのアクセスもしやすく、
山に囲まれているなどの田舎ではなく、別段過疎化が進んでいるわけでもない。
そんな何もないのが特徴の町。
そのような町に一人の高校生が引っ越してきた。
夕暮 刻
彼は、都会に住んでいたが、この町には
高齢の祖父がすんでおり、その面倒を見るためでもある。
刻の親は、父親一人で母親は離婚したためいない。
その父親も現在海外赴任中でいない。
そのため、いざ高齢の祖父が倒れたりしたとき、
近くに誰もいないのが、問題であるから、刻がここに越してきたのだった。
「おーい、じいちゃん!」
電車に揺らること3時間、そこからバスで移動し1時間
徒歩で20分ほどかけ、市街地から少し離れた
大きめの家と大きめの庭のある祖父の家へ到着した刻は、
玄関から声を上げて、祖父を呼ぶ。
「おお、よく来たな。疲れてただろう?」
「まあね。じゃ、お邪魔します。」
「刻、ここはお前の家だ。そんなお邪魔しますだなんて、
他人行儀なことはせんでもいい。」
「わかったよ、じいちゃん。」
祖父は、どこかよそよそしい刻に若干の疎遠感を感じたため、そう言う。
「うむ、わかればいい。部屋は二階にあるいつも来た時に使う部屋をつかえ。
こたつ買っといたからのう。」
「お!ありがと。」
「うむ、明日から学校じゃったか?」
「そうだね。結構緊張するよ。」
「そうか。じゃあ、もう寝るか?」
現在の時間は、夜10時を回ろうとしているところ。
高校生1年生の刻にとってまだ寝るには早い時間だった。
「うーん、まだ起きてる。」
「わかった、じゃあ電気は消しとくんじゃぞ。わしは寝るからの。」
「うん、わかった。おやすみ。」
「おやすみ。」
そういうと、祖父は寝室に向かっていった。
刻は、とりあえず部屋に向かった。
ドアを開けると、12畳ほどの和風な部屋で
生粋の日本人で日本好きの刻にとってうれしい部屋だ。
(実際、リクエストしたのだが…)
「(変わらないな…この部屋も。)」
荷物を置いて、適当に座ると、急に眠気が襲ってきた。
「(…眠くなってきたな…もう寝るか…)」
刻は、電気だけを消すと遅いくる睡魔に身を任せた。
約5時間の旅は、こらえたらしくすぐに眠ることができた。
次の日には、新しい学校で新しい出会いに胸に期待を膨らませて…
ちゅりちゅりちゅり、鳥のさえずりがする。
「…?」
そのさえずりに刻は目を覚ました。
時刻は、7時ちょうど。
学校に行くためには、起きる必要がある時間。
「…。朝か…」
今日からは、新しい学校での生活が始まることから、
今の刻の心境は、複雑なものだった。
寝ぼけている体に鞭を打ち、二度寝をしたいという
願望を押し付け、一階に下りる。
「おはよう。」
「おお、起きたか。朝食は、ちゃんと食べるんじゃぞ。」
「わかってるよ。」
健全な男子高校生にとって、朝食を抜くと、
一日持たないのだ。
「ならいい。朝は重要じゃからな。」
「うん、じゃあ、いただきます。」
「おう。」
朝のメニューは、サバの塩焼きに味噌汁、ごはんとつけもの、冷奴
という、とても健康的なメニューであった。
日本食が好きな刻にとって、うれしいものだった。
「そうじゃ、学校にはどう行くのじゃ?」
「うーん、今は自転車ないから歩いていくけど…」
「うむ、じゃあ、今度買いに行くか?自転車?」
「本当に!?ありがとう。」
「うむ。」
そうこうしているうちに、朝食を食べ終わる。
「ごちそうさま。」
「うむ。」
2階に戻り、制服に着替え、教科書をもらう前で、
かるい鞄を持つと1階に戻り、外へ出る。
「じゃあ、行ってきます。」
「気を付けるのじゃぞ。」
「はーい。」
とことこ、とローファーで音を立てて、坂道を登っていく。
道中、多くの者の視線が刻に突き刺さっていた。
「…(なんだか、視線が…気のせいかな?)」
決して、気のせいなどではないが、
そう結論づけると、不思議と視線を感じなくなっていた。
30分ほど時間をかけて、ようやく校門まで到着する。
しかし、周りには生徒らしき人影は見当たらない。
刻は、思いっきり遅刻しているのだ。
「(人がいない…まだ、早いのか?)」
そんな時だった。
刻の後ろから、ダッシュで駆け寄ってくる音がする。
「…?(なんだろう?)」
後ろを振り向くと、前を見ずに走ってくる人影が…
「…え?」
刻は完全にフリーズした。
ドン
フリーズした、刻にその人影が激突する。
その衝撃で、刻は、後ろ向きに尻もちをつく。
人影は、刻にのしかかる形になっている。
「…おい。」
「………」
刻が話しかけるが、その人影の反応はない。
「……!おい!!」
「ふあああ!!」
大きめの声を出すと、ようやく人影は
反応し、刻から飛び跳ねるように退くと対立したような形になる。
「き、急に大声をださないでよ!!」
人影は、黒い長い髪を上でまとめて、下に垂らしている
髪形の小柄な女子だった。
「…そのことについては、あやまるけど…ずっと起きなくて、
重かったんだ。仕方ないじゃないか?」
重いという単語を聞いた瞬間、
驚くべき素早さで、刻に詰め寄る。
「お、重い!?…あなた、失礼な人なのね。」
「?ほn…いや、失言だった。ごめん。けがはない?」
そのまま言葉を続けると、また彼女を怒らせる気が
直感でしたため、刻は失言と認める。
「…今、本当のこと言っただけって言おうとしたでしょ?」
「ん、いや、言う気はなかった。」
「明らかに動揺してるわよ…まあ、いいわ。
けがはない。ありがとね。」
「それはよかった。」
「うん……って!遅刻なんだった。やばいー!じゃあねー!」
「ああ。」
そういうと、少女は走り出していく。
「……ん?遅刻っていったか?」
ここでようやく、ことの重大性に気付いた刻であった。
ダダダダ
刻は、少女と別れたのち、遅刻ということに気づき、
本気のダッシュで、校舎に入り、前々から
聞かされていた、2-4組の教室へ入った。
そのときすでに、朝のSTが始まったころだった。
担任の教師が話しているところで、前から入ることは
憚られたが、後ろからはいるのも、
どこか、変な気もしたので、意を決し、扉を開く。
ガラ
扉をひらくと、話し声もやみ、一斉に視線が刻に向く。
その視線にたじろぎながらも、ごくりと唾を飲むという。
「て、転校生の夕暮 刻 です。」
すると、今まで半分寝ていた生徒も目を覚まし、
転校生に目を向ける。そして、話を始める。
「…ねぇ、ちょっと、イケメンじゃない…?」
「あの、メガネがたまらないわ。…ハアハア」
「…じゅる。」
「ッ!」
そんな声も刻には、丸聞こえで恐ろしくもあった。
「(ま、まさか、このクラス変態しかいないのか…?)」
そう思い、周りを見回すと、今朝の少女が目に入る。
ちょうどその時に、その少女と目が合う。
すると、ひらひらーっと少女が手をふる。
そこで、担任が声を張る。
ざわついた教室も一瞬で静かになる。
「おい!夕暮。転校初日から遅刻か?いい度胸だな?」
「い、いえ、すいません。」
「まあ、大目にみてやろう。」
「あ、ありがとうございます。」
「ふむ、では……高柳のとなりがあいているな。そこに座ってくれ。」
そういって担任が差したところは、例の少女のとなりだった。
「わかりました。(あの子、高柳っていうのか…)」
刻は、ゆっくりと高柳と呼ばれる少女の隣の
席に、歩いていき、座るとかるく挨拶する。
「よろしく。」
そういうと、微笑する。
「うん、よろしく。私は、高柳明莉。」
「僕は、夕暮刻だ。」
ちなみに、刻が微笑した相手は明莉なのだが、
顔を赤くしたのは、遠巻きに二人の話を見聞きしていた
明莉の前の席の人だった。
それくらいの魔力が刻の微笑には込められていた。
「「「「「(くそう、高柳ぃ…うらやましい!!)」」」」」
明莉は、女子全員から羨望のまなざしを。
「「「「「(イケメン氏ね。)」」」」」
刻は、男子全員から憎しみの視線を浴びていた。
もちろん、二人とも華麗に無視をした。
朝のSTの間、刻は常に好奇の視線にさらされていた。
担任も、生徒たちの気持ちを汲んだのか、
STも早めに切り上げていた。
STが終わると、刻は予想どうり、質問攻めにあった。
「ねえねえ、夕暮君は、どこから来たの?」
「と、東京」
「へぇ!都会ー、なんでこっちに来たの?」
「お、おじいちゃんの面倒を見るため…」
「えーすごーい、じゃあ、なに?料理とか作れるのー?」
「ま、まあそれなりに…」
3つ目あたりから、刻は早くも辟易とし始めてしまった。
なかば、祈るような目で、朝知り合った、隣に座る女子
高柳明莉に助けを求める視線を送るが、苦笑いで返された。
「(うぅ、早くおわってくれ…)」
そんな風に思う時間こそ、ながく感じるもので
数十分の時間なのだが、刻は1時間ほどに感じた。
それからも、休みの時間になるたびに
質問攻めにあった為、とてもやつれていた。
さんざん、刻に質問し、ついにその限りを尽くしたのか、それとも
放課後まで質問する気はないのか、いづれにせよ刻に対しての
質問攻めは終わった。
「…ふぅ…(さすがに放課後は解放してくれるのか…)」
放課後、人の少なくなった教室で刻は、机に突っ伏した。
「何、仕事終わりのサラリーマンみたいな顔してるの?」
突然、声をかけられ、一瞬驚き、顔を上げる。
「…なんだ、えーと…」
刻が、なんと呼べばいいのか、わからずに口ごもっていると
相手のほうから名乗り出てきた。
「…自己紹介しなかったけ…?明莉、高柳明莉。明莉でいいからね。」
「うん、…ああ、ごめんじゃあ、僕は刻でいいよ。」
一通りの自己紹介が終わり、明莉が本題に入る。
「刻は、部活とか入るの決めた?」
「え?いや、部活はめんd…大変だから入らないつもりだけど…」
「…今の本音は聞かなかったことにするわ。
でも、この学校部活入るのは強制なの。どっかに
所属しなくちゃいけないわ。」
「…本当に?」
「ほんと。」
刻は、真剣に悩み始める。
「…(どうするかな…ほんとめんどくさい…)」
「…ねぇ、決まってないならさ…」
「?」
明莉が、何かを言いだそうとしている。
単純明快とは少し違うが、わかりやすく、はっきりしている
彼女が、口ごもっていることに若干の意外感を覚えた。
「ないなら、何?」
「一緒に部活…やらない?」
「…は?(何、言ってるんだ?)」
突然の勧誘。
さすがに予想していなかった刻は、すこし固まる。
「いや、あのね。私もまだ、部活決めてないんだ。」
「え?そうなの?でも、一緒にって…(一緒じゃないといけないのか?)」
「一人では部活つくれない…から。」
ここで、ようやく明莉の言いたいことが、刻にも理解できた。
つまり、一緒にやろうというのは、一緒に部活に入ろうではなく、
一緒に部活を作ろう。ということだったのだ。
「…(そういうことか…でも、なんで僕なんだろう?
明莉なら、ふつうにほかの人誘って部活つくれるとおもうけど…)
で、何の部活を作るつもりなんだ?」
「入ってくれる?」
「いや、なにかにもよる。」
「うん、料理部。」
「りょ、料理部?」
「うん、料理部。」
「(二度も同じセリフを…)わかった。でも、なんで僕なんだ?」
特に考えもせず、刻はそう聞く。
「?気づいてない?私、刻以外の男子としゃべってないでしょ?」
「……いや、正直わからない。(ずっと質問攻めだったからな。)」
そこまで、言うと、刻は、背筋が凍るような思いをした。
端的にいうと、視線を感じたのだ。それも、たっぷり殺意のこもった視線だ。
「?(な、なんだ?)」
どこからの視線なのか、刻はきょろきょろしていると、
明莉が、気が付いたようで、大きく嘆息する。
「はぁ、またか。」
「!?ま、またぁ?どういうこと?」
あわてて、刻は明莉に問いかける。
「出てきて。」
「???」
急に、明莉が声を上げる。
もちろん、刻にとって突然のことで、わけがわからなくなっている。
しばらくすると、刻に強風が襲いかかる。
「ッ!」
ゆっくりと、目を開けると、目の前には明莉より少し背が
高いくらいで、ポニーテールのような髪形をした
女子が目の前に立っていた。
「おわ!?」
刻は、驚きで後ろ向きに倒れる。
「この子が、あなたを見てたの。」
「じー」
制服から察するに、ここの学校の生徒だということは
簡単に考えられた。
「ど、どうも。」
ずっと、じーっとみてくる、少女になぜか挨拶をする。
「どうも。私は、古川愛。」
「ふ、古川さん。」
名前を呼ぶと、コクリとうなずいた。
「自己紹介は、済んだ?この子、私をずっと観察してるんだって。
だからなのかな?仲良くしている男子を見ると、殺意を込めた視線を
送るんだって。みんなは、この視線が耐えられないみたいね。」
「へ、へえ…(気をつけよう。)」
「あ、そうだ、質問。なんで僕なんだ?だっけ?」
「あ、そうだった。」
「…それは、こういうことね。この子、あなたのことは嫌じゃないみたい。だから。」
「…さいですか。じゃあ、なんで僕はOKなんだ?」
今度は、愛本人に、刻が聞く。
「…番長に似てたから。」
すると、ぼそりと愛がつぶやいた。
「ば、番長…そうですか。」
「よかったわね。珍しいわよ?男で愛の気に入る人なんて。」
明莉がほめているが、刻にとってちっとも嬉しくなかった。
「そ、それでさ。入ってくれる。」
「ああ、もういいよ。(正直、もうどうにでもなってくれ。)」
「ありがとう!じゃあ、明日紙渡すから。」
「わかった。」
「うん、じゃね。愛、行こ?」
「コク」
明莉と愛が去っていき、刻は今日、何度目かわからない、
長い、ため息をついた。
キーンコーンカーンコーン
おそらく、これ以降一切変わることのない学校の
終了を告げるチャイムがなる。
今日は、4月24日、昨日が刻が転校してきた日だ。
それもあってか、今日一日は教室の周りにも彼を見るために、
人だかりができていた。
話しかけられるわけでもなく、遠くからひそひそと話す声が聞こえ、
ずっと、好奇の視線にさらされる…これは、思っている以上に
大変なことであった。
それでも、さすがに放課後は誰も来ていない。
刻は立ち上がって、今日、明莉に指定された教室へ赴く。
10分ほどかけて、ようやくたどりつく。
「ごめんくださーい。」
「………」
「ごめんくださいなー」
「………」
ガラ、しびれを切らした、刻はガラっと
ドアを開ける。すると、そこでは…
「…あ、」
「……?」
明莉が着替えをしていた。
「「………」」
お互いに固まってしまう。
ちょうど、着替えが終わりかけの時だったが、
しっかりと、そのヒップを刻は、視認し、脳内保存を済ませていたところだった。
「あ、…み、みた?」
「……すまん。」
明莉が、結構動揺し、顔も少しだが紅潮させているというのに、
刻は、まったくの一切の動揺も感じられず、紅潮どころか
若干青ざめているほどだ。
それが、明莉を余計に怒らせる。
「二回死ね。」
それから、2時間ほど説教をくらい、愛からの愛のむちを受け。
解放されたのが、事件発生から5時間が経過したところだった。
生まれたての小鹿のごとく、足をぷるぷるとさせた刻は
見ていてとても滑稽であった。
「…とんでもない、アクシデントがあったけど…」
ここで、明莉はいったん言葉を止めると、
刻をにらむ。
さらに、愛までにらむ。
「(ごめんくださーいっていったじゃないか…!)」
しかし、ノックするのが常識であるし、
そもそも、こういう場合は、500%男が悪いというのは
天変地異が起きようと変わらないのだ。
「まあ、そこはいいとして…今日は、新部活、料理部の
発足会ね。」
「わー!」
「……」
明莉が声高々と、宣言するが、あいにく刻はその
テンションについていけていなかった。
「じゃあ、さっそくなにか作りましょう。」
「…私は、絵のほうが得意。」
「それは、美術部への転部意欲を示しているのかしら?」
「違う違う。」
「んん!でさあ、部活って、顧問の先生が必要なんじゃないか?」
このままだと、永遠にことが進まないと感じた刻は、
とっさに疑問をぶつける。
「よく知ってるわね。もうすぐ来るはずだけど…」
そんな時だった。
ガラっと扉が開く。その方向を向くと、ショートヘアの
若い先生が立っていた。
白衣を着ているところから、理科の先生のようだった。
「な、なんでしょうか?」
「あ、すいません。」
あまりに突然登場したもので、刻は
驚きでずっとその先生を見つめてしまったいたのだ。
もっとも、理由はそれだけではなかった。
この先生…とにかく白衣が似合うのである。
「いや、その…せんs――」
「ふじえちゃん!」
刻が口を開いたが、すべてを言い終えるまえに
明莉が、大声を上げて近づいていく。
「ふ、ふじえちゃんですか…。」
「いやだった?」
「いえ、そういうわけでは…」
ふじえと呼ばれる教師と、明莉のやり取りが
興味深かったのか、刻と愛は、一緒になって
見つめていた。
「あ、あの…」
「「!?」」
その視線に気づいたのか、ふじえは
若干ほほを赤くし、照れたようにする。
「あ、あんまり見つめられると、照れます。」
無意識に上目使いになっているふじえは、
正直言うと、この人は教師なのか、と
疑いたくなるほどであった。
「…あ、いやその…すいません。」
ふじえ以外の3人は、完全にフリーズしていたが、
いち早く解凍した刻が、一応の謝罪を入れる。
そして、ほかの2人をフリーズから
呼び覚まし、緊急会議を開く。
「おい、おい!」
「…はっ!…ええとなに?」
「何じゃない。なんだあれ?」
「し、知らないわよ。」
「ふじえ?」
「「それは知ってる。」」
ド天然発言をする、愛を二人がかりで沈めると、
対処法を考える。
「なあ?なーんであんなにもかわいいのだろうか?」
「お、落ち着きなさい。刻。hshs」
「明莉も落ち着いて。hshs」
「お前らどっちも落ち着け。hshs」
結果3人とも落ち着けなかった。
「……あ、あの!どうしたんですか?」
不安になったのか、ふじえが話しかける。
「い、いえ何もないですよ。」
「そうですよ。なんにもないです。」
「コクコク」
「そうですか…」
『おい、ほんとどうするよ。』
『わからないわよ!』
『ちょっと、明莉声、大きい!!』
『『お前が一番でかいわ!!!!』』
結局一番最後が、一番大きかった。
そんな時だった。
急に窓ガラスが、パリ、パリ、と音を上げ始め、
割れる。そして、不穏な空気が流れ始める。
当然、3人ともそれを感じ取っている。
「おいおい、なにがあっ――」
「?ど、どうしたの?」
「???」
刻が、急に言葉をきったことに疑問を覚え、
尋ねると同時に、刻を振り向くと、
顔面蒼白、油汗がナイアガラの滝のごとく
流れている、刻がいた。
「…ぁ…」
「あ?」
ガチガチと、口をならし、前を指さす。
「……あ、あれ!」
指をさしている方向は、ふじえのいるところだった。
しかし、そのふじえは、先ほどまでとは、まるで違っていた。
そのふじえは、まさしく悪鬼、阿修羅…などの畏怖の対象を
すべて凌駕している…そんなような存在だった。
『おい、貴様ら…』
「「「は、はいいいいい!!!」」」
その声は、まさに魔王そのものだ。
『さっきから、何を、こそこそと、話して!、いるのだ…?』
短く、言葉を切って話す。これは、直で感じ取ると
凄まじい威圧感だった。
「あ、あのふじえ…先生?」
『ふじえ様!!…とよべ。この、蛆虫が!!!』
「「「すいませんでしたあああああ!!!」」」
3人は、ものすごい勢いでジャンピング土下座をする。
それは、もう光の速さで…
ジャンピング土下座に満足したのか、
ふじえはもとに戻った。
不穏な空気は、消え去ったが、3人は
ふるえたままだった。
「あ、あの?」
「は、はい!なんでしょう?」
「いいい、いえ、今日はそろそろ会議の時間なので
そろそろ、帰りますね。それでは。」
「あ、はい、お気をつけて…」
ガチャリ、ゆっくりと扉をあけ、ふじえは帰っていった。
「なんなんだ、あれ…?」
「な、なによあれ?」
明莉と刻は、異口同音、恐怖からそういった。
しかし、愛だけは、さきほどから何かを思い出したかのようにしていた。
もちろん、刻と明莉、両名とも気づいている。
「?どうしたの?愛。」
「いや、ちょっと思い出して…」
「何を思い出したんだ?」
刻が、せかすように聞く。
すると、愛は重そうに閉じていた口を開いた。
「わ、私の出身中学では、約10年前ほどの時、
こんな異名で呼ばれていた、不良がいたんです。」
「「??」」
話の見えてこない二人は、首をかしげる。
「その異名は…」
ゴクリ、怖い話をしているかのように語る
愛の口調に明莉も刻も載せられていた。
「窓ガラス割りのふじえ…」
「「「…………」」」
3人の間に、微妙な空気が流れる。
だが、この時ばかりは、3人の気持ちは
一緒になっていた。
「「「異名、生易しすぎるわ!!!」」」
三人は、叫んだ。
この時、会議中の誰かさんがくしゃみをしたのは、余談にすぎない。
時間は、飛んで、刻が引っ越してきてから1年がたった時…
1年はあっという間だった。
毎日、部活で料理を適当につくりながら、
いろいろな話をしたり、休日には
全員でどこかに行ったり、と
彼らは、本当に仲のいい、友人であった。
もちろん、その中にはふじえも入っている。
教師だというのに、最早立場関係なくなっているのが
最近のちょっとした悩みだそうだが、
幸せな悩みではある。
そんなこんなで毎日を過ごしている頃だった。
刻のおじいちゃんが、交通事故にあった。という一報が
学校に入った。
その情報は、すぐさま刻にも伝わる。
そして、刻は授業中であったが、すぐに収容されている
病院に直行した。
この時ばかりは、急な下り坂に感謝をしていた。
ダダダ、院内は静かに歩くのがマナーであるが、
急ぎのため、本気で走る刻。
「(…くそ…僕に体力がないから…)」
本気で走ってはいるが、残念ながらお世辞にも
早いとは言えなかった。
それでも、―刻のがつくが―最短の時間で
緊急手術室の前にたどり着く。
すると、そこで待っていた看護婦の方に
中へ入るよう、指示される。
「どうぞ、中へ」
「…はぁはぁ、……はい。」
荒い息を整え、汗をぬぐうと、中へ入る。
すると、そこには、まるで眠っているかのように
健やかな顔をして死んでいるおじいちゃんがいた。
「…じ、じいちゃん?」
よたよたと、側に歩いていく刻。
「…おい、おい、どうしたんだよ?
僕だ。僕が来たんだ。いつまでも寝てないで、
起きろよ…じいちゃん。」
いつの間にか、周りにいた医師たちは
外に出ていた。
手術室の中は、刻のすすり泣く声が響いていた。
それから2.3日、刻は学校に来なかった。
お通夜や葬儀には、ちゃんと出席し、
受付などをしっかりとしたが、どこか
無理しているように見えた。というのが、
料理部、全員の見解だった。
1週間後、ようやく刻は、学校に登校した。
クラスメイト達に、心配されながらも
一日普通に過ごしていた。
しかし、これは刻のことを
よく理解していないものの見解であり、
よく理解している、料理部の人間は
まったくふつうではないことに気づいていた。
すべての授業が終わり、放課後。
刻を、明莉、愛、ふじえの3人は、
料理部の部室に呼び出した。
「…で、話ってなんだ?」
部室につくなり、刻は単刀直入に尋ねる。
「「「……」」」
しかし、誰一人として、答えようとしないので、
若干だが、イラついているようだ。
「…用がないんなら、僕は帰る。
あんまり、気分もよくないし…あ、そうだ。
しばらく部活も休んでいいか?」
そうだけ言って立ち去ろうとする。
だが、誰も止めることができなかった。
それがまた、刻をさみしくさせた。
それからというもの、刻はほとんど部活に
参加しなくなっていった。
刻がいない、料理部はどこか穴が開いているようで
悲しいものがあった。
そのせいか、新入部員も見学だけして、
だれも入部しなかった。
「「「………」」」
この日も、とりあえず活動場所にだけは来て
なにもつくらず、なにも話さず、時間だけが過ぎ
終了時間になったら帰る。
という部活とも呼べない状態が続いた。
明莉も愛もふじえもこの状態ではいけない。
ということはわかっていた。
しかし、もう2週間近く
刻とは話していないのだ。
話しかけづらいどころではない。
「(はぁ…どうしよう…)」
明莉は、最近ずっと元気がない。
愛もどこかさみしげな表情を浮かべる。
ふじえは、なぜか残念そうな顔をしている。
一方、当の刻はというと…
家に帰ると、二階の部屋でずっとぼーっと外を見ていた。
「(…あーあいつまでもこんなんじゃいけないってわかっては
いるんだけどな…じいちゃんの存在がここまで重要だったとは…
思わなかった……ん?じいちゃんの面倒を見るのが僕の役目だったよな…
じゃあ、今、じいちゃんのいない今…ここにいる意味はないんじゃないか…?)」
そう考えた刻の行動は早かった。
次の日には、転校届を学校に提出。
受理されるまで、この学校にいることになった。
刻が、転校するという噂はすぐに流れた。
どこかで、刻と教師の話が漏れていたようだ。
もちろん、その噂は料理部のメンバーも聞いている。
すぐに、料理部の部室へ呼び出す。
「いつぶりだ?こうして話すのも…」
「そうね。もう1か月近く話してない気がするけど…」
部室に入るとすぐに、刻があたりさわりのない
話題を振る。
「もう、1か月か…長いな…」
「ええ、そうね。」
「それで、本題は?」
本題は刻にもうすうすわかっている。
それは、刻の転校についてだ。
「…わかってるでしょ?」
「転校のことか?」
「…わかってるなら、聞かないでよ。
…まあ、いいわ。それで、本当なの?」
明莉も、1年とすこししか一緒に過ごしたことのない
人間だが、わかれるのはつらいようだ。
それは、愛もふじえも同じことだった。
「…ああ、本当だ。じいちゃんが死んだから
僕がここに残る理由もないから…」
「…じゃあ、私が理由になる。」
「え?それって…」
「そうよ、私は刻が好きなの。」
「…」
明莉は、半年前からずっとため込んでいた思いを
今、解き放った。
そして、愛とふじえのほうを振り向くと言葉を続ける。
「愛もふじえちゃんもみんな、あなたのことが好きなの。」
「…うん、私も刻が好き。」
「わ、私も…教師だから…駄目だと…わかってますけど…
嫌いになれなかった…です。」
「これでも、あなたは…帰ると、いうの?」
「……っ…」
突然の告白に刻も面食らう。
そして、沈黙がしばらく続いた。
「…わかった。転校はやめる。それじゃ。」
転校の中止を告げると、すぐさま
立ち去ろうとする刻を動揺しながらも
3人は止める。
「いやいやいや、ちょっと待って。」
「た、確かに転校を見送ってくれたことは、うれしいけど…」
「あの、その、こ、答えは…」
上から順に明莉、愛、ふじえの順だ。
刻は、3人の息のあった制止に
すこし吹き出しそうになるが、何とかこらえ
さっと振り向くと…
「答え…ああ、そうか。
告白の…僕は―――
ここから先は、野暮というもの。
結果がどうであれ、誰が涙を流すのであれ
私たちが知る必要はありません。
ただ、お祝いしましょう。新たなカップルの誕生を…
ありがとうございました。
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