追加
地下鉄東豊線栄町行きが月寒中央駅で事故をおこしたのは11月5日の7時44分のことであった。
「んー、あいかわらずジャストだなあ。」
と、林は苦笑いした。
「おい、君」と笑顔で、電車につっこんだ男に声をかける。-生きてんだろ?おまえ。
まあ今はそれどころじゃないや、ときょろきょろする。乗客は全員降りているはずだ。
ああ、いたいた。ふふふ、君はこんなときでもMUSICか。それに比べてそっちは割とミーハーだね。好きになるのはもっぱらくだらないアイドルでしょ。
さて、と。どう声をかければいいかなあ?
わからないし、うまくいく、という確信があったので、ストレートに言おう。
近づくと、明らかに彼女は警戒していた。近づくと、橙の、彼女にしてはゴツいヘッドフォンを外した。
「・・・君はいま、とっても困惑してるだろ?」
「・・・そりゃ誰かわからない大人に声かけられたら、誰でも困惑しますよ。きっと。」
強がっちゃって。でも気をつけないと。実際彼女が暴走したら全市2位の実力で叩きのめされてしまう。
少しゾッとした。
「・・・そうゆうつまらない話じゃなくてさ。・・・・例えば、ぼくの名前をあててごらん?あたったらファンタ1本おごるけど。」
俺の名前は、林です。心のなかで、割とゆっくりと言う。さあ、どうだい?
「・・・」
「そのヘッドフォンをつけてみな。」
ごそごそと彼女はヘッドフォンをつけて、間髪いれずに言った。
「・・・林さん、ですか?」
くっくっく、と笑いながら、正解だよ。と告げた。
「やっぱりか。」と彼女はいった。ため息つきで。なんか僕が悪者みたいじゃないか。
・・・そうだよ。君は残念ながら心読者になったんだ。と心のなかでヤケクソ気味に言った。
そんなにわかりやすく青ざめないでよ、こっちが困るから。
「ちょっとこっちに来てくれる?・・・その病気の事で。」というと、彼女は「いや、でも家が・・・」と拒否した。
「大丈夫。僕の予想だと、今日は家にお母さんは帰ってこない。」
なぜわかるかって?僕は未来予知者だからね。
「もう1人いるんだよ。患者が今日は。」
そう言うと、「意外と多いんですね。」と、彼女はポツリと言った。