4/34
一瞬でひとりぼっち
通学路に歩道は無かった。とぼとぼと、つばめは道路の白線の上を、落ちないように歩いていた。
つばめの通学路に、同じクラスのひとは他に1人しかいない。小学校が微妙な位置にあり、つばめとその子だけが切り離されたのであった。よって、いつも1人で帰っていた。
「今度遊ぼうね!」と、卒業式でつばめに言ったやつは、スーパーで会っても、ぴくり、とガキでもわかる引きつった愛想笑いをして、あの日の笑顔もなしにその日発売の週間少女漫画雑誌に目を戻した。袋の中の卵のパックが、かちゃりと音をたてた。
小名木文房具店という、なにか買うたびに消しゴムをおまけする店を越えたあたりで、対向車線から、自転車が坂をのぼってきた。
あいつだ。
黒石健斗。つぶらな、どこを見ているかわからない目。野球帽をかぶっていた。彼がただ一人の。噂の。あいつだ。
彼は、一瞬でつばめの横を通過した。赤いスポーツタイプの自転車に乗っていた。