クレイジー・ジョー
「ありゃこりゃまぁなんていうか…」
「豪邸?」
どかーん、という感じの、西洋風な家の前に車は止まった。
「あ、いや、そっちじゃなくて。」
林さんは人ん家の駐車場に車を止めたまま、すたすたと歩きだす。
天気は快晴で、少し日は傾きかけている。
「ほれ、ここ。」
林さんが左の手で指し示した家は、曲がり角に面していて…お世辞にも「普通の家」とは言えない、ここだけが他の家と違って正直ボロ屋だった。
「ありゃこりゃまぁなんていうか…」
「ボロ屋?」
「君たちちょっとそれは失礼すぎないかい?」
「だって、ねぇ…」
「本人の前ではそーゆう僕に対する態度みたいなの、やめてね。鈴木さん、ナイーヴなお方だから。」
鈴木さんというのか、というのと同時に、『それは結局お前も鈴木さんを馬鹿にしていないか?』という鷹霧くんの心の声が聞こえる。あ、やべ。ヘッドホン外さないとな。
「鈴木さーん?林ですー!」
インターホンを鳴らして玄関から呼びかける。玄関のコンクリだってひび割れてガタガタだし、インターホンだって間抜けな音が玄関まで聞こえてくる。
「あれぇ?いないのかなぁ?」
ピンポンピポンピンポーン!林さんがボタンを連打する。
「はーやーしーでーすー!」
物音一つしない。
「鈴木さん、人騒がせだなぁ」と鷹霧くんが言うのをちょっと見てから、林さんは私に、「悪いんだけど、ちょっと聴いてくんない?」と、ヘッドホンを頭につけるジェスチャーをする。
「一回百円ですよ。」
私はそう言いつつ、さっき外したばかりのヘッドホンを再装着し、耳をすました。
『…………どっちの林だろう?どっちの林だろう?』
「どっちの林だろう、っつってますよ。」ドヤ顏で報告。
「どっちって、どっち?」林さんは混乱している。
「知りませんよ。」とは鷹霧くん。
「まあでも、いますよ、鈴木さん」
「…そうだね、…入っちゃうか!」
空気がかたまる。鷹霧くんが『住居不法侵入住居不法侵入住居不法侵入』と心でつぶやいている。
…私に言えってか?いいよ、やってやんよ。その代わりにハーゲンダッツな。
「そうゆうのって、じゅ、住居?不法?侵入?住居不法侵入!みたいなのになるんじゃないですか?ヤバイんじゃないんですか?ねぇー?鷹霧くん。」
鷹霧くんの方を思いっきりドヤ顏で見る。爽快っ!
『あの野郎、ドヤ顏しやがって!!』って、聞こえてますよ?聞こえてますよー、鷹霧くん。
その時。家から小さく、
「オダギリ」と聞こえた。
なんだこれは。
林さんがとっさに、
「ジョー」と応える。
「あ、人の足音だ。」鷹霧くんがやや興奮しながら言う。聞こえてるっちゅーに。