お呼びじゃないのよ
それは突然の出来事だった。まったくもって俺は油断していた。
「ひーさしぶりぃ」と林が声をかけてきたのは、俺がちょうど、十字路を左に曲がろうとしたときだった。
あともう50mほどで家だった。
無視してしまおうかとも思った。
「まあまあ、そーゆーいかつい顔しないでよ」
よくよく考えてみればである。なんで俺はこいつの話を馬鹿正直に信じているのだろう。
北川の読心術はともかく、俺の病気は確かめようがない。(確かめたいとも思わないが)
「まー、ちょっと、待ってみなさいよ鷹霧くん」
なんでそんなににこにこしてるんだお前は。
「最近どーですかぁ?」
こいつしばらく見ない間にもっとヤバくなっている。
うん。どうにかして逃げよう。そう思った時であった。
「あ。」
北川がちょうど視野に入った。北川とはまだ50mほど離れているため聞こえなかったが、あの口を大きくあけている様子から見て、彼女もまた、林という厄介な存在を発見したようであった。
「つばめちゃんも来たみたいだね」
これ以上俺に話しかけるな。また何かSFチックな訳のわからないことを言うんだろ。そうだろ。お見通しだぞ。
「あー、ちょっともー、どこ行くんだいー?」
北川が完全に見なかったフリをして俺と林の脇を通り抜ける。
「ちゃんと学校でも読心めるようにしてあげるからさ」
北川の肩がはっきりと跳ね上がる。
そしてゆっくり、ゆっくりと顔を俺の方に向けた。
…てめー学校で読心もうとしたな?
「さ、行くよ行くよー」
北川はその格好のまま例の真っ赤なスポーツカーに乗せられ、しぶしぶと俺も車に乗った。
「いやぁ、参っちゃったよ。」
車の中で林が発した第一声は、割と低いトーンであった。