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馬鹿
結局、なにも答えられないまま、家についてしまった。呆然としながら廊下を歩く。
鷹霧は、3年前にこのマンションに引っ越してきた。札幌のなかでごちゃごちゃ動くのは嫌いだった。
それでも親は北区から豊平区に引っ越すと言った。父がなだめ役だったのだが、俺が小4のときから行方不明になったのをスイッチに、元から親バカ・・・いやバカ親だった母が
「お勉強ババア」に突然変異したのだった。
「だって南高が近いじゃない。」
知るかボケと思った。というかはっきりと口に出した。
で、この有様だよ。とちらりと窓を見る。
去年起こったインド洋沖大震災で、この札幌市で一番高級なマンションは、あっけなく耐震基準に引っかかったのであった。
その工事で、朝から晩まで雑音がひどい。
いまやその茶色い外見は、くすんだようにしか見えなかった。
そんな鬱な気分で、412号室についた。鬱というにはおおげさか。