その訳を
どれくらいたったであろう。車は住宅街を走っていた。車の中は場違いにも、the telephonesでノリノリだった。車の中の空気は凍りついている。
そんな空気の中、おれは「KYって何年前の言葉だっけ」とぼんやり考えていた。
そして、なんでおれはこの男を信用し、その車の中にいるのだろう、と思った。普通の人なら、鷹霧のような反応だろう。
「あと15分ぐらいでつくよ。」
林が唐突に言ったので、おれは悲鳴をあげそうになった。
車は、ややくすんだビルの前で止まった。「土佐田ビル」と書いているようだ。
「こん中に僕の病院がある訳よ。」
え、病院だったの?と一瞬思うが、本人がそう言っているのでそうゆう事にしとこう、と鷹霧は思った。正確には、ただ、めんどくさかった。
隣を見ると、北川も微妙な顔をしていた。
三人はビルの中に入った。中もホコリくさい。
三階が林の「病院」らしかった。ただ、雰囲気は「病院」というより、ただ単に応接室である。
適当に革のソファーに座る。ん!?
「ああごめん。ほら、おととい雨だったでしょ。」
そう言って林は鷹霧の尻の下から靴下を救出した。もはや苦笑いだ。
北川は隣でずっと耳にヘッドフォンを押し付けるようにしてうずくまっている。指間からもれるヘッドフォンのオレンジ。
林がカフェオレを持って来たタイミングで、声を出す。
「約束どうり、この病気のことを詳しく教えてください。」
まあ、約束なんかしてないんだけどね、と林がブツブツ言っているのは聞こえていたが、「自分に都合の悪いことは聞かなかったことにする」というモットーの元、却下する。
珍しく林が困っている。珍しくと言っても、まだ会って数時間だが。
「そこ、めんどくさがらないで下さいよ。」
がばっと北川が起き上がり、言う。まっすぐに林を睨んでいる。
「だって話すこと多いからさあ。」
知るかボケ。いいかげん怒るぞ。