雨漏り2
雨漏りの音がする”雨漏り部屋”のその後の話。
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どちらからでも読めますが、最初の作品を読んだ方が流れが分かりやすいです。
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『雨漏り』
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オレはおばさんが課長から花束をもらってほほ笑むのを見て、おばさんもこんなやわらかい表情をするんだな、と場違いな感想を持った。
オレに”雨漏り部屋”を体験させたおばさんは、今日、定年を迎えた。あの日から2年、”雨漏り部屋”はおばさんの退職と共に解放されようとしていた。
みんなでおばさんを外で見送ることになった。おばさんはふと、あの”雨漏り部屋”の方を見た。壁があるから直接部屋は見えないが、おばさんを見送った後、掃除が再開されるだろう。おばさんは表情も変えず、何も言わず、長年勤め上げた会社に背を向けて別れを告げた。
先代の社長が亡くなったのは、おばさんが定年を迎えるひと月ほど前だった。新社長はその息子で、先代の社長が作っていた会社のルールをいくつか変えた。一番の理由は、時代に合わないルールがあった事だったが、その中にあの”雨漏り部屋”が含まれていた。
明確な理由は知らされていなかったらしい社長は、その部屋に入ってオレと似たような雨漏りの音を聞いたらしい。だが、社長はそういったものをあまり気にしないタイプだった。
「雨漏りみたいな音はするが、本当に濡れているわけじゃない。倉庫として使おう」
オレ以外はみんな初耳で驚いていたが、オレはあの音を思い出して身震いした。それから、オレは自分で思ってるより案外臆病らしいと気が付いた。
”雨漏り部屋”は何もない空間だったから、掃除はすぐに済んでしまった。事務員がモップを片付けようとして、
「あら?モップ、しぼりきれてなかったのかしら?」
と呟いた。床に水滴がいくつか落ちていたが、事務員は持っていたモップでふき取った。オレと同僚はそれを見ながら、棚を運び入れた。正直、オレは入りたくなかったが、騒がしいとあの音はしないらしく、いくらか安心した。
変にまじめなおばさんがいなくなった会社は、いくらか緩んだ空気になった。けれど、オレは”雨漏り部屋”が倉庫になった事もあって、落ち着かなかった。
結局俺は、雨漏り部屋に入りたくなかったあまりに、声を掛けてもらっていた会社に転職してしまった。
数年して、たまたま会社帰りに元同僚にあった。お互い懐かしくて、飲むことにした。
「こうやって飲むのも、久しぶりだな」
「ああ。そうだな。ところで、会社の方はどう?みんな変わりない?」
オレがそう聞くと、元同僚は顔をしかめた。
「それがさ。倉庫にした部屋。あれ、やばかったよ」
「え?」
オレは雨漏りの音を聞いただけだ。それ以外に何かあったんだろうか?
「そうだな、お前が辞めてから2、3カ月くらいしたころからかな。倉庫に置いてあるものが濡れててな」
「音、だけじゃ……?」
「そうじゃなかったんだ。社長は配管がおかしいのかもしれないって、徹底的に調べてもらったんだけど、悪いところはなかったって」
ふと、おばさんも似たようなことを言っていたのを思い出した。もしかして、最初の頃はあの部屋が使われていたのかもしれない。
「でもな、濡れるんだよ。紙の資料は全滅。昔の資料なんてPDFにしてたわけじゃないから困ったよ。置いてる段ボールもヨレヨレになったりしてな」
元同僚はグイッと酒を流し込んで、こちらをじっと見てきた。
「お前、運、良かったよ。そのうち、あの部屋から水が廊下に流れ出してきててさ。会社中にカビが広がったりして――――社長はあの部屋、閉じたよ。お祓いしてな」
あの日、俺に”雨漏り部屋”を体験させたおばさんに感謝する日が来るとは夢にも思ってなかった。そして、臆病だった自分にも感謝した。
読んで頂き、ありがとうございます。
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『雨漏り』
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