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【短編小説】マイ竹刀闘争

掲載日:2025/12/26

 降り立った瞬間に鼻腔から肺まで埋め尽くすケチャップとワキガの制汗剤の臭い!!

 ディス イズ アメリカ!!

 日本はカビ臭えとか韓国はキムチ臭えとか言うが肌の白い奴らも似たようなものだ。なんならより悪い。

 鼻をつまみながら入管を抜ける。ブロンドの婆アはシミだらけの肌を惜しげもなく晒す。目に毒だ。


「それは私の竹刀袋だ」

 空港のピックアップレーンで最後に流れてきた黒い革製の竹刀袋を手に取った白人男を俺は咎めた。

 それは俺の竹刀袋であり、その竹刀袋は俺のものだ。その中の竹刀は俺の親友であり、俺の人生でもある。

 似たものはどこにでもあるが、それは俺の竹刀と袋だ。その竹刀と袋なくして俺は単なるクソであり、その竹刀と袋もまた俺なくして単なるクソだ。

 寝る前にハートマン軍曹と唱えたろ?



「つまりそれはおれの竹刀と袋だ。覚えておけ。それともケチャップの舐め過ぎで脳細胞が死んでるから何も分からないか?」

 白人男は全身をケチャップ色に染めながら口をパクパクさせる。金魚とか鯉みたいだ。まぁアメリカには淡水なんて存在しないから知らないだろう。

「俺のものである証拠にここの留め具が壊れているし、そもそも名前が書いてあるだろう?見えるか?その顔についた青いボタンが飾りじゃない事を願うよ」

 そう言って俺は日本カブれの白人から竹刀袋を取り上げた。


「お前の竹刀袋はトランジットのシカゴ空港で見たよ。それをお前がピックアップしたかは知らないし、俺の竹刀には関係が無い。

 どうせ短期留学か何かで日本ぽい事をしてみたくなって剣道なんぞに手を出したんだろ。楽しかったか?

 お前の思い出はまだシカゴかもな」

 だんだら模様の羽織を翻して粋に立ち去ろうとした俺を、今度は白人が咎めた。



「やぁやぁやぁ我こそは音にこそ聴け!近くば寄って眼にも見よ!我こそはアングロサクソンの超男……」

 俺は最後まで聞くことなく竹刀袋ごとアングロサクソンの喉元を突いた。

 黒い革製の竹刀袋は喉仏に当たり、アングロサクソンはもんどりうって後ろに転がった。

「成敗致す!パールハーバーアゲイン」

 俺は残心も忘れずに決める。それが武士道ってものだ。たぶんな。


「パ、パールハーバー?」

 大抵のアメリカ人はこの単語を聞けば怒りで脳みそがフットーしちゃう。

 何世代も前だが黄色い猿に負けるなんて事はあっちゃいけないらしい。

 案の定その白人男は破裂寸前のトマトみたいになった。



「次は富嶽でお前らを金鹿してくれる」

 俺が竹刀を腰の高さに収めるた時だ。

 アングロサクソンは立ち上がり、おもむろにネルシャツのボタンを外した。

 胸毛が茶色い。乳首は赤と青の星がついてる。

 ──と言うことは金髪は脱色か?フェイク野郎め、金髪がピカチューと言っていれば大和撫子とファックできるとでも思っていたか?

 お前らが射精するときに「ヒロシマ!」「ナガサキ!」と叫ぶのは本当か?

 ファットマン!お前のリトルボーイを出せ!俺が潰してやる!



 アングロサクソンはチャックを下げたが、そこからリトルボーイを出さずに何故か自身の両乳首を押した。

 すると空港の照明が赤い警告灯に切り替わり、大音量でサイレンが鳴り響いた。

 次々にシャッターが降りて、他の利用客たちはいそいそとパニックルームに避難していく。

「アンクルサム、カモン!」

 乳首のアングロサクソンが叫ぶと、どこから現れたのか

ドブの様な臭いをさせた太っちょガードマンがこちらに向かって歩いてきた。

 奴は見るからに面倒くさそうで、右手には特大サイズのダンカチーノ(※ダンキンドーナツで販売されているMAXコーヒーのように甘いカプチーノ)、そして左手の指にはそれぞれカラフルなドーナツが嵌められていた。


「湯婆婆のコスプレか?再現度が高いな」

 俺は再び竹刀を握りしめる。

 乳首のアングロサクソンは口から金たわしに似た細かい銀色のバネらしき何かを吐き出していた。

「そこはフライドポテトを吐けよ!」

 俺が叫ぶ。

 だからアメリカ人のセンスはダサいって言われるんだよ!!奇を衒うな!!田舎モンは田舎モンらしくイモ臭さで勝負しろ!!



 ゆっくりと歩くガードマンは相変わらず面倒くさそうだしドブ臭いのは変わらない。

 何の病気だ?

「お前はイカれてない内臓を数えた方が早そうだな!」

 ドブの方の白人は耳クソが詰まって聞こえないのか、瞬きも面倒なのか、とにかくゆっくりと歩いていた。

 俺は竹刀を上段に構える。

 星乳首の方のアングロサクソンは自身の身体を両の手で引き裂きながら叫ぶ。

 金たわしのような銀色の線が辺りに飛び散る。


「もしも俺が日本以外の土地で死んだのなら、母上には俺が努力の限りを尽くしたと伝えてほしい……か」

 不意に口を突いて出たアメリカン辞世の句。七五調から離れた生活は地に足が着かない。

 しかし懐かしい歌だ。どこかで聴いた事がある気がする。



 一気に息を吐きながら竹刀を振り下ろす。

 星乳首の方のアングロサクソンは引き裂かれ、あたりに金たわしが飛び散る。

 ドブ臭い耳クソの方のアングロサクソンも破裂する。あたりに砂糖の汁が飛び散る。


 全てが終わり、警告灯が消える。

 天は裂け地は割れ全てが竹刀袋の中へと収束していく。

 さようなら。

 俺は竹刀を袋に収め、空港を後にした。

 そして全てが終わり、誰もが楽になった。

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