戦さの最中
峠の茶屋を去った後
清延の心が凄く揺れていた、しかし前に進むも退くも今ここで迷っている訳にも行かず、関まで刀を見に行くつもりが、京都の実家に心が向いてしまうのが、自分としてどうしても許せなかったのも事実であった。
こんな時は進まず止まるのが一番
師匠の言葉が脳裏に浮かぶ
清延の人生の師匠は同じ商家の出で今は茶の道を極めて、様々な道理を解いてくれた御方である。
そしてもう1人の武道の師が今おるこの地からそう遠く無い小笠原家が所領していた所
清延が7歳になるまで、兄と共にその地で小笠原流の弓道馬術の教えを、幼かった時代に小笠原長時の三男の喜三郎と共に学んでいた。
馬に乗るのが怖かった清吉の前に、同い年の喜三郎が颯爽と乗って現れるのを思い出す清延
「おい、清吉!何を怖がってる、馬が怖くては駄目じゃ無いか、小笠原家の者として弱気な!」
そう大声言うとサッサっと走り去る
その後ろに清吉が罵声をかける
「何を小僧丸のくせに!生意気な!」
喜三郎の幼名小僧丸と言うと、とても腹が立つのを知っていたからだ。
馬に近づけない清吉の側に兄の喜一郎が清吉の肩をそっと抱いてくれてる
「清吉、悪口を言ってないで行動しなさい」
「嫌だ!馬に乗らなくても弓なら弾けるぞ!」
兄が優しく諭す
「清吉!これは小笠原家が唯一の術式、本来なら我らは学ぶ事は出来ん、しかし母上からたってのねがいを受け入れて我らも学ぶ事が出来るのじゃ」
「兄上!嫌なものは嫌です!馬は特に!」
「愚か者め!兄が乗ってみせるから、やって見なさい」
そう言うと、兄の喜一郎は颯爽と馬に乗り、その場から消えて喜三郎の後を追う
残された清吉は急に心寂しくなり
「兄上!兄上!待ってください!」
兄の後を駆け足で追っていく。
清延がこの光景を思い出して苦笑いをする。
清延達の母は、小笠原家の娘で小笠原家に伝わる弓道馬術を清延兄弟にも教えようとしてた
しかし清延はどうしても馬が苦手であった
同い年の小笠原長時の三男の喜三郎は家中で一番に上手く乗りこなして、長時から小笠原流を任すのは喜三郎にと望まれていた程であった
清延は、その分槍の稽古に力を入れて頑張っていた
でもそんな時に武田家の進行が起こって、その後まもなく小笠原長時一家は離散、そして清延の祖父が死んだだけでなく、父も負傷して二度と馬も乗れず、刀も握れない身体になった
清延達は母方の小笠原家が京都の事業をしていて京都に居たので、一旦京都へ移り、その地で商人として、生計を立てたのである。
それが、今の茶屋である
思い出してみると、自分はやはり武士には向かないのでは、兄の方が優れていた事を考えてしまう。
清延が会いたい喜三郎は今は父親の長時と別れて単独で修行している
「喜三郎は強いなぁ、父上と共に上杉家にも行かず、一人で己の道を切り開こうとしてる」
清延の心に喜三郎に負けたく無い気持ちが溢れてきた
迷っていた気持ちを振り切り、関までの道のりを急ぐ