予感
「君には留学に行ってもらいたい。君がどこまで強くなれるか、僕が見てみたいんだ。もしかしたら神達にも届くかもしれないって思うんだ。」
その言葉は、想像していた最悪のものだった。
やはり、そう来たか。
私が最も避けたかった未来が、いま、兄の口から語られている。
「あ、もちろん強制ではないよ。でもその場合は父であるジェラールには報告しなきゃね。なんせグリモアルド家は実力主義だから、当主より強い兄弟がいるなんてあっちゃいけないし。」
何が強制じゃないだ。どちらにせよ、私は皇都を離れなければならない。
兄は、私がそれを何よりも嫌っていると分かっているはずだ。
なのに、まるで選択肢があるかのように、言葉を並べてくる。
私は、しかめっ面を隠せなかった。
そして、苦し紛れに、こう言うしかなかった――
「先程の攻撃を防ぐ実力を私が持っていなかったらどうするつもりだったのでしょうか。跡取りとしての立場がほぼ確定しているお兄様といえど妹を殺したとなれば相応の処罰は免れないでしょう。」
そこでヴァレルは破顔してこう言った。
「冗談きついな。その魔力の量、質、流れを持つ君が僕に勝てない訳ないだろう。こんなこと言わせないでくれ。僕より年下で僕より強い者は居ないとさっきまで思っていたんだ。少しは応えるよ。」
本気か冗談かわからない言葉に少し苛立つ。
そこでお兄様が顔をしかめて苦しそうな声でこう言った。
「ところでそろそろ重力魔法を解いてくれないかな。僕の骨達が悲鳴を上げてるんだ。」
それを聞くと私はせめてもの抵抗として土魔法で3m程の穴を掘ってから重力魔法の威力を強め、床にお兄様をたたきつけてから、地下修練場を後にした。
これはリューデリッツ皇歴653年の出来事である。