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悪役貴族のイレギュラー~破滅エンドを覆せ~  作者: 根古
第1章 悪役貴族編

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第48話 ラーム村再び

 翌日、俺たちは再びラーム村の入り口に立っていた。


「……どこか、少し村の雰囲気が変わったように感じますね」


 馬車を降り、村へと続く土の道を踏みしめながら、ソフィアが静かに呟いた。

 俺も同感だった。

 約一月ぶりのラーム村は、以前ののどかさの中に、どこか緊張感が混じっている。村の入り口には、粗末ながらも新たな木製の柵が設けられ、若い村人が槍を手に遠巻きにこちらを警戒している姿が見えた。前回のゴブリン襲撃の経験が、この辺境の村にも確かな変化をもたらしたのだろうか。


「アラン様! ソフィア様! よくぞご無事でお戻りに……!」


 俺たちの姿を認めると、村の奥から一人の老人が駆け寄ってきた。

 ラーム村の村長だ。

 ソフィアからの事前の連絡で俺たちの再訪を知っていたのだろう、その表情に驚きの色はない。だが、安堵と共に、俺の顔色を心配そうに窺う視線が痛いほど伝わってくる。


「ご無沙汰しております。この度は、急な再訪となり申し訳ありません」


 ソフィアが代表して丁寧に挨拶を返す。


「いえいえ、とんでもないことでございます! まさか、こんなにも早くお戻りいただけるとは。アラン様のその後のお加減を案じておりましたので、こうしてお元気そうなお姿を拝見でき、安堵いたしました」


 村長は、俺の顔をまじまじと見つめ、心底ほっとしたような表情を浮かべた。その目には、純粋な心配の色が浮かんでいる。


「ご心配をおかけしました。村長さんのおかげで、ゆっくりと休養を取ることができました」


 俺は感謝の言葉を述べる。

 実際、この一月、グレイン邸での生活は快適ではあったが、精神的な緊張は続いていた。ラーム村の素朴な空気は、どこか張り詰めた心を和らげてくれる。


「して、本日はどのようなご用向きで? ソフィア様からの文には、いくつか確認されたいことがあるとだけ記されておりましたが……」


 村長の問いに、俺はソフィアと一度視線を交わした。彼女は小さく頷き、俺に発言を促す。


「はい、村長さん。実は、前回この村でお借りした、あの古い祠で見つけた護符について、いくつか確かめたいことがあるのです。それと、あの時我々を助けてくださった冒険者の方……ダラス・エリオット殿の足取りについても、何かご存知ではないかと」


 俺は、できるだけ穏やかに、しかし真剣な口調で用件を伝えた。

 祠の護符が『魔除け』ではなく、アランの『知識』では『古守の護符』であったことや、その効果の違いといった核心部分には触れず、あくまで調査という名目にする。


「ほお、あの護符と祠、そしてダラス殿のことですか」


 村長は小さく頷いて答える。


「もちろん貴方方の頼みであればお好きなように見て回って頂いて問題ありません。それにダラス殿のことでしたらつい先日までこの村に滞在されておりました」


 村長の期待以上の言葉に俺とソフィアは顔を見合わせる。

 ダラスの捜索はかなり難しい見込みだったが、これなら何とかなりそうである。


「村の警護もして下さったり、あちらに見える柵もダラス殿に助言いただいたものなのです」


 村長は、村の入り口に新たに設けられた、幾重にも重ねられた木製の柵を指差しながら、誇らしげに、そして感謝の念を込めて言った。その表情からは、ダラスという人物への深い信頼が窺える。


 まさか俺達が去った後にダラスがこの村に滞在していたとは予想外だった。人を外見で語るのも良くないとは思うが、そういった面倒見の良い一面があったとは。正直言って意外だ。


 それにもしあのままラーム村で休養していたなら、再度会えていたのだろうか。

 ただその時はセレナとの会話の機会もなかったはずであり、一概にあの時の選択が悪かったとも言い難い。


「して、ダラス殿はどちらへ?」


 俺の複雑な心境など露知らず、ソフィアが村長へ冷静に問いを重ねる。彼女の関心は、あくまで特級冒険者の足取りとその目的だ。


「それが……数日前に、ふらりと出て行かれましてな。何でも『少し気になるものを見つけた』とだけ言い残して、森の奥深くへと……。あちらの方角でございます」


 村長は、村の裏手に広がる鬱蒼とした森、その中でもひときわ険しい山岳地帯を指差した。そこは、以前ゴブリンが出現した祠よりもさらに奥地、人の踏み入らない未開の領域だ。


「森の奥深く……ですか。何か心当たりは?」


 ソフィアが、村長の示す方角――険しい山岳地帯へと続く、暗く鬱蒼とした森を見つめながら尋ねる。


「いえ、生憎と具体的なことは何も伺っておりませんで」


 村長は、困ったように眉を八の字に下げた。


「その森の奥深くというのは、具体的にどのような場所なのでしょうか? 例えば、何か古い遺跡があるとか、あるいは変わった魔物が出るといった噂は?」


 ソフィアが、村長の言葉を引き継ぐように、冷静に、しかし鋭く問いを重ねた。


「いえ、滅多に人が立ち入らないこと以上のことは……。昔からの言い伝えで、『山の主様の寝床』だとか、『迷い込んだら二度と帰れない森』だとか、まあ、子供を怖がらせるような話ばかりでしてな。実際に何かを見たという者もおりませんし、我々も好き好んで近づくような場所ではございません」


 村長の言葉は、辺境の村の厳しい現実を物語っていた。

 聖域外の、しかも未開の森となれば、そこに潜む危険は計り知れない。村人が立ち入らないのも当然と言えよう。


 特級冒険者であるダラスが単独で踏み込むのはまだしも、俺たちが安易に足を踏み入れて良い場所ではないだろう。


「……分かりました。貴重な情報、ありがとうございます」


 ソフィアは静かに頷き、村長に礼を述べた。彼女の表情からは、森の奥への興味と、同時に慎重な姿勢が窺える。


「いえいえ、このような話でお役に立てたのであれば幸いです。皆様、くれぐれもご無理はなさいませんよう」


 村長は、俺たちの身を案じるように頭を下げる。


「お心遣い感謝します。それでは早速我々は調査の方に向かわせて頂きます」


ソフィアはそう言うと、俺に目配せをした。ダラスの件は一旦保留とし、まずは当初の目的である祠の調査を優先するということだろう。俺も頷き返す。


「はい、お部屋の方は準備ができておりますので、お好きなようにお使い下さい」


 村長に案内され、俺たちは前回と同じ村長の家へと荷を解いた。前回よりも少しだけ手入れがされ、客人を迎える準備が整えられているのを感じる。旅装を解き、一息ついたところで、俺とソフィア、そして護衛としてガルドさんが祠へと向かうことになった。


「しかし、あのダラスって冒険者、一体何を探してたんだろうな。こんな辺鄙な村の、さらに奥の森にまで行くなんてよ」


 祠へと向かう道すがら、ガルドさんが不思議そうに首を捻った。彼の興味も、やはりダラスの謎めいた行動へと向いているようだ。


「彼ほどの人物です。単なる気まぐれや物見遊山ということはないでしょう。何か、特級冒険者の鼻を刺激するような『何か』が、あの森には眠っているのかもしれません」


 ソフィアは、冷静に分析しながらも、その声には隠しきれない好奇の色が滲んでいる。


「『何か』、ねえ……。それがお宝ならともかく、厄介事じゃなけりゃいいんだが」


 ガルドさんの言葉は、どこか冗談めかしていたが、俺の胸には小さな不安の種を蒔いた。ダラスが追っているものが何であれ、それが俺たちの旅路と無関係であるとは、どうにも思えなかったからだ。


 やがて、見覚えのある古びた祠が、木立の奥に姿を現した。約一月ぶりの再訪だが、その佇まいは変わらず、静かに時を刻んでいるように見える。


「さて、と……」


 ソフィアは祠の前に立つと、改めて周囲を見渡し、そしてゆっくりと中へと足を踏み入れた。俺とガルドさんもそれに続く。


 祠の中は、前回と変わらず、ひんやりとした空気に満ち、埃とカビの匂いが微かに漂っている。ソフィアは、懐から小さな水晶玉――『天眼』の力を増幅させるための道具だろうか――を取り出すと、それをかざしながら、祠の壁面や床、そして中央の祭壇を丹念に調べ始めた。


「さて……ああなったソフィア嬢はしばらく集中するだろうからな。俺たちは邪魔にならんよう、外で見張りでもしてるか」


 ガルドさんはそう言うと、木剣を肩に担ぎ直し、俺に目配せをして祠の外へと促した。

 確かに、ソフィアが『天眼』と水晶玉を駆使して調査に集中している間は、下手に声をかけるべきではないだろう。俺も頷き、ガルドさんと共に祠の外へ出る。日差しは暖かいが、森閑とした祠の周囲はどこか空気がひんやりと感じられた。


 するとふと、どこからか何かの風切音が聞こえるような気がした。

 いや、気の所為ではない。

 その音は、規則正しく、何度も何度も繰り返されている。


 ――何だ?


 俺は耳を済ませ、音の出どころを探す。

 その音は祠の裏手、木立が途切れた先から聞こえているようだった。


「坊主、どうした?」


「ちょっと、気になることがあって」


「気になること? それは嬢ちゃんに言わなくてもいいのか?」「


 ガルドさんは未だ祠に張り付くソフィアに視線を向けて言った。

 俺は首を振る。


「いや、そこまでのことじゃないので」


「そうか、あんまり遠くに行くんじゃねえぞ」


 俺はその言葉に頷き、好奇心のままに歩を進める。

 木立を抜け、小さな茂みを掻き分ける。

 開けた空間の中央で、一本の太い木の幹に向かい、一心不乱に木の棒を振るう少年の姿。

 燃えるような赤髪、ボロ切れのような服。


 ランド・ガリオンがそこにはいた。

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