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第43話 静かなひととき

 共和国が誕生して数か月が経ち、激務に追われていたパルメリアにも、ほんの少しだけ息をつく時間が訪れるようになった。国内情勢が徐々に安定し始め、ようやく静かなひとときを楽しめるようになりつつある。とはいえ、まだ安堵する間もなく、彼女のもとを訪れたのは戦場を共にした青年たちだった。彼らはそれぞれ異なる思いを胸に抱き、どこかためらいがちに、しかし真剣な眼差しを向けている。


(革命の混乱は収束しつつあるけれど、未解決の問題は山積み。でも今なら、ほんの少しだけ自分の心を見つめ直す余裕があるのかもしれない……)


 最初に姿を現したのは、かつて「王太子」と呼ばれていた男だった。すでに王位継承を放棄し、「ただの一市民」として生きる道を選んだという。

 今は共和国の外交や保守派の残党対策を手伝っているらしく、パルメリアは静かな庭園の一角で彼と顔を合わせた。金色の髪と穏やかな表情には、王太子時代の威厳がわずかに残っているものの、不思議と柔らかな雰囲気を漂わせている。


「久しぶりね……もう『殿下』ではないのかしら?」


 パルメリアが穏やかな笑みを浮かべてそう言うと、彼は苦笑まじりに応じた。かつて王国の権力を背負っていた彼が自らその地位を捨てた理由。それは腐敗への嫌悪だけでなく、パルメリアに対する深い信頼が根底にある――彼女にはそう感じられた。


「今の自分は、ただのロデリックだ。……まずは、君に『おめでとう』を言いたくて来たんだ。共和国をここまでまとめ上げた君の姿は、本当にまばゆいほど輝いていたよ」


「ありがとう。あなたがいなければ、ベルモント公爵を倒すことも、陛下の退位を円滑に進めることも難しかったわ」


 二人の言葉には、以前のようなよそよそしさは感じられず、自然な空気が流れている。ロデリックは目を伏せ、しばし沈黙した後、意を決したように口を開いた。


「ずっと遠くから君を見守ってきた。私の役目は君の邪魔をしないことだと思っていた。でも、今はどうだろう。大義を果たした君の心は――」


 その問いに、パルメリアは胸の奥で微かな痛みを覚えた。これまでは国を変えることに全力を注ぎ、お互いの気持ちを確かめ合う暇などなかったからだ。

 しかし今、新たな国家を指揮する日々の中で、ほんの少しだけ自分の心と向き合う余裕が芽生えている。


「私の最優先は、これからも『国の未来』。でも……それが私の幸せと無関係だとは、もう思わないの」


 穏やかに語る言葉に、ロデリックは安堵したように微笑む。そして、小さく「よかった」とつぶやいた。

 まだはっきりとした答えを形にするには早いかもしれない。それでも二人の間には、どこか温かな静けさが広がっていた。ロデリックは「また話がしたい」と言い、パルメリアの手をそっと取り、礼儀正しく口づけを落とす。それはかつての宮廷で見られた儀礼に近い仕草だったが、そこに宿る熱は特別なものに感じられた。

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