第41話 共和国大統領就任
王国崩壊後も、パルメリアの奮闘は続いていた。王室と貴族の権威が失われた今、首都から地方に至るまで「新たな体制をどう築くか」という議論が巻き起こり、コレット領や革命派が提唱する「共和国」案に注目が集まっている。もはや王室の復活を望む声は、ごくわずかしかなかった。
(ここまで来るまでに、どれほどの困難を乗り越えただろう。でも、本当の勝負はここから。新しい国を作るには、やるべきことが山ほどあるわ)
長い苦難を乗り越えてきたパルメリアの実績は誰の目にも明らかだった。かつて「傲慢な貴族令嬢」と揶揄されていた彼女も、今では「国を変えた英雄」として認識され始めている。
暫定議会では「共和国」への移行を推進しようと、旧体制の支配層を排除する新しい政治構造の確立や、パルメリアが率いる暫定政権の国際承認を得る方法などが議題となり、議員たちは連日連夜、その課題の山に取り組んでいた。
その中で最大の焦点となったのが、新体制の指導者をどう選ぶか――。数多くの候補者が挙がったものの、「パルメリア・コレットしかいない」という声が圧倒的だった。腐敗を打倒した戦果、領地改革の成功、そして民衆から寄せられる熱烈な支持。どれを取っても、彼女以上の適任者は見当たらなかったのだ。
「選挙の結果は予想がついていますが、それでも民意を反映させることが、これからの政治には欠かせません」
パルメリアは、過度の個人崇拝を避けるために他の候補を排除せず、公正な選挙を実施する方針を貫いた。それでも開票結果は予想通り圧倒的多数が彼女を支持し、ついに「共和国」が正式に発足。パルメリア・コレットは初代大統領として、新たな時代の舵を握ることとなる。
「まさか、彼女がこの国を率いる日が来るなんて……」
首都の中央広場には、大勢の市民が詰めかけ、歴史的な瞬間を見届けようと固唾をのんで壇上の女性を見つめていた。
パルメリアは白を基調とした衣装をまとい、数多の戦いと犠牲を乗り越えてきた者として、その視線を静かに受け止める。しばし瞳を閉じ、かつての苦難や仲間との絆を思い返したあと、ゆっくりと口を開いた。
「みなさん……ここまで歩むなかで、私たちは本当に多くのものを失いました。守りたかった家族や、愛する故郷を奪われた方もいるでしょう。それでも、私たちは今ここにいます。これまでの苦しみを乗り越え、これから始まる未来を切り開くために、戦い抜いたのです」
彼女の言葉は、広場に集まる一人ひとりの胸に深く染み渡る。すすり泣く者、感動に打ち震える者――誰もがその姿に希望を託していた。
「この革命によって、多くの血が流れ、数え切れないほどの悲しみが生まれました。それでも私たちは諦めませんでした。もう二度と、一人の意志で国が動かされるようなことはさせない。全ての人が声を上げ、議論し、選び取れる社会を築きたい。そのために、この国を根本から創り直す決断をしたのです」
戦場を駆け抜けた記憶と、支えてくれた仲間への感謝が、パルメリアの声にはにじんでいた。涙を拭いながら彼女の名を呼ぶ者、拳を握りしめて歓声を上げる若者たち――広場全体が、次第に熱気に包まれていく。
「私は王でもなく、今は貴族でもありません。みなさんと同じ、この国に生きる一市民です。だからこそ、全ての人が未来を選び取れる仕組みを作るために、大統領として働きたいと思います。かつてのように、ほんの一握りの者が全てを支配する時代には戻しません」
その決意を示す声に、いっそう大きな歓声と拍手が巻き起こる。子どもを抱いた母親が涙を浮かべ、年配の市民が胸に手をあててうなずき、若い兵士が剣を掲げて声援を送る。その光景を静かに見つめながら、パルメリアは心の中で感謝を噛みしめた。
こうして、「傲慢な貴族令嬢」と呼ばれていたパルメリア・コレットは、「共和国」の初代大統領として正式に歩み始める。まさに歴史の転換点ともいえるこの瞬間を、多くの人々が歓声とともに迎え、明日への希望を胸に抱きながら、次の一歩を踏み出していくのだった。