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第4話 改革の第一歩

 数日後の朝、パルメリアは屋敷の大きな会議室へ向かった。部屋に入ると、豪奢(ごうしゃ)なシャンデリアが目を引くなか、父である公爵や家臣の重鎮たち、財務や農政を担当する者たちがずらりと並んでいる。「領地改革について意見を述べたい」と申し出た彼女に、普段は保守的な家臣たちは困惑の表情を隠せないようだった。


(ここで気後れするわけにはいかない。前世で学んだ知識を、今こそ生かすとき……)


 パルメリアは胸の内でそう自分に言い聞かせ、静かに呼吸を整えた。そして、家臣たちの視線を受け止めながら、テーブルに広げられた地図を指差して話し始める。


「先日の視察で、農作物の収穫量が落ち込み、領地の財政も厳しい状況だと痛感しました。まずは、排水路の整備や輪作の導入によって作物の安定した育成を目指したいと考えています。ここに提案書を用意しましたので、ご確認ください」


 そうして彼女が差し出した資料には、新しい耕作法や品種改良の提案、農具改善のアイデアなど、前世の知識をもとにした計画がぎっしり詰め込まれている。


「お嬢様のご提案は、従来の方法とは大きく異なります。農民たちが混乱する心配はありませんか?」


 一人の家臣が怪訝(けげん)な声で尋ねる。それに対し、パルメリアは落ち着いた口調で答えた。


「いきなり領地全体に適用するのではありません。まずは一部の地区から試験的に実施し、成果を見てから段階的に広げていきます。そうすれば、混乱は最小限に抑えられるはずです」


 彼女の冷静な説明に対しても、依然として疑念を抱く家臣がいた。別の家臣は重い口調で反論する。


「ですが、現在の財源では、このような大規模な改革を行う余裕は……」


 その言葉に一瞬ため息をつきかけたが、パルメリアはすぐに気持ちを切り替えた。


(ここで怯んではいけない。この場で自分の考えを示さなければ、何も変わらない)


 そう心の中で奮い立たせ、力強く続ける。


「税制そのものを見直す必要があります。生産が伸びれば、農民への負担を軽減しながらも全体の収入を増やすことができます。そのためには、中間での搾取を減らし、徴税の仕組みを透明化することが重要です。そうすれば、限られた財源を効率的に活用できるようになるでしょう」


 戸惑いと疑念の入り混じった視線が集まるなか、彼女は真っ直ぐに家臣たちを見据え、さらに言葉を重ねた。


「何も手を打たなければ、領地の未来は暗いままです。滅びに向かうのを黙って見過ごすのか、わずかな可能性に賭けるのか――私は後者を選びます。領民を見捨てることなど、決してできません」


 一瞬、部屋全体が張り詰めたように静まり返る。家臣たちの表情には迷いの色が浮かんでいたが、その沈黙を破ったのは公爵だった。


「……言う通りだ。財源の確保は容易ではないが、まずは一部の地区から始め、成果を見て判断することにしよう」


 その重々しい宣言に、家臣たちは一斉に頭を下げる。公爵の承認が下りたことで、彼女の提案は領地の新たな方針として受け入れられたのだった。


(やった……ほんの小さな一歩だけど、これで始められる)


 パルメリアは胸の中でそっと安堵し、手応えを感じた。反対の声や課題はこれからも山積みだろう。それでも、この一歩が未来を変える礎になると信じている。会議室を出る時、彼女の瞳には揺るぎない決意が宿っていた。


(絶対に、この領地を立て直してみせる。――それが、私に与えられた使命なのだから)

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