第20話 共鳴する理想
初対面では全面的な協力関係を築くまでには至らなかったものの、パルメリアとユリウスは情報交換を通じて少しずつ互いを理解し始めていた。ユリウスの率いる革命派がどのように組織を動かし、何を目指しているのか――その概要を知る一方で、ユリウスもコレット領の改革状況を詳細に把握していった。
その過程で、二人はしばしば意見を衝突させながらも、熱い情熱を抱いているという一点で、深い部分で共鳴していた。
「君と話していると、意見が食い違うことばかりだ。それなのに、どうしても一緒に先を目指したいと思うんだ。……きっと、描いている理想が似ているからだろうな」
ユリウスがそんな言葉を口にしたのは、別邸の応接室で何度目かの打ち合わせをしている時だった。
冷徹だと周囲から恐れられながら、実際には人々の暮らしを守るために戦うパルメリアと、時に武力行使も辞さず民衆の力を信じるユリウス――その手段こそ違えど、腐敗を一掃し暮らしやすい社会を築きたいという根本的な想いが、二人を引き寄せていた。
「そうかもしれないわ。あなたの情熱は尊敬に値する。でも、そのやり方には危うさを感じているのも事実よ。……それでも、こうして話しているのは、本気でこの国の未来を変えたいからよ」
パルメリアが真摯な眼差しでそう告げると、ユリウスはわずかに目を見開き、穏やかな笑みを浮かべた。その笑みの奥に垣間見える優しさに、パルメリアの胸は微かに高鳴る。
レイナーやロデリックとはまた異なる、燃え上がるような情熱――彼との会話には、彼女の心をざわめかせる何かがあった。それでも、自分を冷静に保とうと必死に自制する。
(今は動揺している場合じゃない。私はこの領地を、そしてこの国を守るという大義のために生きているのだから……)
そう自分に言い聞かせながらも、彼と話すたびに感じる「共鳴」を完全に否定することはできなかった。手段が違えど、目指す場所が同じ――その共通点が、単なる協力者を超えた関係の可能性を予感させる。
「いずれ、我々革命派は全国規模の行動に出るつもりだ。もしコレット領がさらに発展し、多くの民衆を味方につけるなら、その時は……」
「協力の余地がある、ということね。でも、私は強硬策だけには反対よ。根本から制度を立て直す方法を探しているの。それは理解してほしい」
パルメリアの声には揺るぎない決意が込められていた。ユリウスは少し考え込むように視線を落とした後、静かにうなずく。
「君の考えにも一理ある。共闘の形を決めるのは、状況を見極めてからでも遅くはない。だが、腐敗を根絶するという目標だけは、間違いなく共有できる」
「そうね。手段は違っても、お互いの力を合わせれば、大きな変革を起こせるはずだわ」
こうして、二人は改革派の同志として距離を縮めていった。激しい意見のぶつかり合いを経てもなお、深い部分で通じ合えるのは、ユリウスが彼女の冷徹な態度の裏に隠された高い理想を見抜き、パルメリアが彼の過激さの奥にある優しさと信念を感じ取ったからだった。
打ち合わせを終え、ユリウスが別邸を後にすると、パルメリアは窓辺に立ち、その背中を見送った。応接室に戻った静かな空間で、彼女はそっと胸に手を当てる。
(彼と話していると、私まで熱くなってしまう。だけど、今は恋なんて考えている暇はない……)
自らにそう言い聞かせながらも、彼との対話で生じる共鳴に心が揺れる。 その感情を抑えつつ、パルメリアは積み上げられた書類に目を戻した。
胸の奥で新たに芽生え始めた感情が、いつか彼女の選択に影響を与えるのだろうか。それとも、全てを振り切って進む覚悟を貫くのだろうか――まだ誰にもわからない。
夕闇が迫る気配を感じながら、パルメリアは視線を落とした書類に集中する。今、恋に溺れる余裕はない――そう心に言い聞かせるかのように。