第19話 危険な共闘
王太子ロデリックの視察やレイナーとの会話で揺れる心を抱えたまま、パルメリアはまた新たな来訪者を迎えた。その名はユリウス・ヴァレス。都市部を中心に支持を集める「革命派」のリーダーとして知られる人物だった。
曇り空の午後、コレット公爵家の別邸にある応接室で二人は初めて顔を合わせた。領地改革の話し合いを名目に訪れたユリウスに対し、パルメリアはわずかに警戒をにじませながら椅子に腰を下ろす。
目の前に座るユリウスは二十代前半ほどの青年。黒い髪に意志の強そうな瞳が印象的で、礼服を身にまとっているものの、どこか洗練されていない粗削りな雰囲気が隠しきれていない。その頬に走る微かな傷跡は、波乱に満ちた人生を物語っていた。
「初めまして。お会いできて光栄です、パルメリア・コレット様」
彼は一見すると丁寧な礼を取ったが、その動作には貴族特有の優雅さはなく、民衆の中で生きてきた者の不器用さが滲んでいた。パルメリアは相手を見据え、率直に切り出す。
「革命派のリーダーが、こんな辺境までわざわざ訪ねてくるとは。……噂は聞いているわ。あなたたちが武力で体制を覆そうとしているという話もね。何が目的なのかしら?」
彼女の冷静で挑むような言葉に、ユリウスは少しもたじろがず、情熱的な眼差しでまっすぐ答える。
「なるほど、そう構えるのも無理はない。ならば、こちらも端的に言わせてもらおう。我々は君の改革に共感している。もし可能なら、力を合わせられないかと考えているんだ」
その言葉に込められた熱意は、部屋の空気を震わせるほどだった。彼の瞳には、何者にも屈しない強い覚悟が宿っている。
「コレット領の改革が成功しつつあるのは知っている。腐敗しきった貴族社会を揺るがそうとする姿は、我々の理想に通じる部分があると思うが、どうだろう?」
パルメリアは冷静に息を整え、テーブル越しにユリウスを見つめ返す。
「確かに、今の貴族社会を正す必要はあると私も思っているわ。でも、大勢の民衆を一気に立ち上がらせるのは危険が大きすぎる。血を流す事態になれば、それこそ本末転倒ではないかしら?」
彼女の静かな言葉に、ユリウスの表情が少し硬くなる。しかし、彼はすぐに鋭い眼差しを向け、力強く答えた。
「衝動的な暴走が危険だというのはわかる。だが、この王国の腐敗を放置するわけにはいかない。声を上げなければ、何も始まらないんだ」
その声音には強い熱が込められているが、同時にパルメリアの意見に耳を傾ける冷静さも感じられた。彼女はユリウスの言葉を受け止めながら、前世でプレイしたゲームのシナリオを思い出していた。そこではユリウスが過激な手段に走る場面があったのだが、その根底には腐敗を終わらせたいという強い正義感があることも知っている。
「王室や貴族は自分たちの利権を守ることしか考えていない。表面的な改革ではその腐敗の根を断ち切ることはできない。だからこそ、我々は『革命』という形で民衆を動かそうとしているんだ」
彼の言葉には嘘の気配はなかった。腐敗が深く根を張る現状を見れば、ユリウスの危機感も理解できる。しかし、パルメリアにはその手段が必ずしも最善だとは思えなかった。
(このまま私一人で領地の改革を進めるだけでは、いつか限界が来るのはわかっている。もっと大きな舞台で決断を迫られる時が来るかもしれない。でも、いきなり革命を選ぶのはあまりにもリスクが大きい……)
彼女はそんな葛藤を押し隠しながらも、ユリウスの鋭い視線を受け止め続けた。彼と手を組むことで大きな可能性が生まれるのは確かだ。しかし、その選択がもたらす危険もまた、見過ごせないほど大きい。
(私の知識と、彼の行動力がうまく噛み合えば、この国を本当に変えることができるかもしれない。でも、無駄な犠牲を生む道だけは絶対に選びたくない……)
思考を巡らせながら、パルメリアはわずかに呼吸を整え、再びユリウスを見つめた。彼が差し伸べる革命という手が、自分や領地、さらには王国全体の未来にどのような影響を与えるのか――その答えはまだ見えていない。
しかし、彼女の中には確かな何かが芽生えつつあった。この対話が、やがて国全体を揺るがす大きな決断の一歩になることを、パルメリアは薄々感じ始めていた。




