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第13話 新たな守護者

 ちょうどこの頃、コレット公爵家に新たな人材が加わることになった。その名はガブリエル・ローウェル。かつて王国騎士団に属していたが、上官の腐敗を目の当たりにして異を唱えた結果、左遷同然に遠ざけられたと噂されている。


 騎士団でも随一と評される剣技を持ち、不正を見過ごせない正直さゆえに(うと)まれたようだ。公爵が彼を雇い、パルメリアの護衛役に任命したのは、彼女を狙う危険を回避するための的確な判断といえるだろう。


 執務室に現れたガブリエルは、鋭さと落ち着きを同時に漂わせていた。逞しい体格に深い彫りのある顔立ち、そして涼やかな眼差しが印象的だ。


「ガブリエル・ローウェルと申します。本日より、パルメリア様の護衛を務めさせていただきます」


 深々と礼をする姿にパルメリアは一瞬戸惑ったが、すぐに彼をまっすぐ見返した。どこか寡黙(かもく)そうな雰囲気が、内面の誠実さを感じさせる。


「よろしく頼むわ。けれど、私を守るというのは、想像以上に大変な仕事になるかもしれないわよ」


 パルメリアの言葉に、ガブリエルは一瞬眼差しを伏せ、静かな口調で答えた。


「承知しております。ここへ来る前から、パルメリア様の護衛は容易ではないと伺っておりました。それでも、私に託された役目を果たす覚悟はできています」


 その声には冗談めいた調子も飾り気もなく、むしろ不器用なまでの誠実さがにじんでいた。腐敗に抗いながら戦わざるを得なかった彼と、改革のただ中で反発を受け続ける自分――パルメリアは、どこか似ている部分を感じる。


(腐敗を許さず、まっすぐ向き合ってきた彼と、今の私……。いずれ、この関係が仕事や立場を越えて変わっていくのかもしれない)


 そんな考えを胸に秘めながら、パルメリアはガブリエルを静かに見つめた。守る者と守られる者という関係が、これからどう形を変えていくのか――その行方は、二人が紡いでいく改革の未来とともに決まっていくのかもしれない。(かす)かな変化の気配が、静かに室内の空気を包み込んでいた。


 こうして、クラリスが学術面を支え、ガブリエルが護衛として加わってからというもの、パルメリアの周囲には、それぞれの分野で卓越した力を持つ人材が揃い始めていた。危険と隣り合わせの日々を過ごしていた彼女も、前線に立つ上で心強い味方が増えたことを実感している。


(こんなにも頼れる仲間が集まってくれるなんて。ゲームの設定の中では、こんな展開はなかった。でも、私はもう同じ道を辿るつもりはない。もっと大きな変革を起こしてみせる)


 幼馴染のレイナーや家令のオズワルドといったこれまでの支え手に加え、学者のクラリスと騎士のガブリエルの存在によって、コレット領はさらに活気を帯びつつあった。彼ら全員が同じ理想を抱いているわけではないが、それぞれが得意分野を発揮し、意外な相乗効果が生まれそうな予感がする。


 しかし、敵はベルモント派だけにとどまらない。表立った政治工作の陰では、暗躍する勢力があっても不思議ではないし、宮廷内部の権力争いがコレット領に影響を及ぼす可能性も日に日に高まっている。それでも、パルメリアの足は止まらない。たとえ傲慢だとささやかれようとも、領地を守り抜き、歪んだ貴族社会そのものを変えるまでは立ち止まるつもりはなかった。


「クラリスのアイデアを試してみたい。ガブリエルが守ってくれるなら、安全面での不安も少しは減るはずよ」


 手元の書類に目を落としながら、パルメリアはわずかに微笑む。天才学者の発想と騎士の確かな腕――そこに頼れる幼馴染や忠実な家令が加われば、より大胆な改革も実現可能だろう。たとえこれから先、どんな波乱が待ち受けていようとも、彼女は決して理想を曲げないと心に決めている。


 今、彼女たちが切り拓こうとする未来への道筋は、はっきりとその輪郭を帯び始めていた。

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