02. 救出ミッション①
放課後、帰ろうとしたその瞬間、俺は担任に職員室へ寄るように言われた。
……もしかして、何かやらかしたか?
いや、別に驚くことでもない。むしろ、今日だけでも結構やらかしてる気がするし。
たとえば、教科書を間違えて持ってきたこととか。たぶん、それかも?
すでに他の生徒たちは全員帰っている――いや、正確には帰宅組は終わったってだけで、バスケットボール部の連中はまだ残ってる。
ああ、あれは間違いなくサエニとその取り巻きたちのグループだな。
まぁ、長い休み明けの再会を祝う儀式か何かだろうか?……いや、きっと違う。
……多分、ただの青春ってやつなんだろう。
俺はそんなことどうでもいい。とにかく、早く帰りたい。
だって、俺のバーチャル嫁が待ってるかもしれないしな。
現在、午後5時。
とっくに下校時間は過ぎてる。でも、俺はまだ学校にいる。なぜなら――
寝てたから。
誰も起こしてくれなかった。……冷たい?
いや、単に忘れられてただけだろう。
――あ、そうだ。自己紹介を忘れてたな。
俺の名前は西田・ヒキト。
どこにでもいる、普通の家庭に生まれた。特に裕福でもないし、特別な才能があるわけでもない。
今は一人暮らし。両親は海外でビジネスをしてる。たしか、インドネシアとかだった気がする。
……最初は寂しかった。でも、今は慣れた。
中学に入学してすぐの頃から、両親はほとんど家に帰ってこなかったからな。
その頃は叔母――というか、家政婦みたいな人に世話されてた。でも、高校入学を機にその契約も終了。
「もうこの年齢なら、一人でも大丈夫だろう」ってことで。
……うん、まぁ。たぶん、これは将来の孤独人生への布石ってやつだな。
「…………」
……おいおい、なんだこの光景は?
生徒はもう帰ったはずだよな?
さっき、たまたま3年生の教室の前を通ったんだが――
いた。
男女ペアが教室の隅で……何かしてる。いや、何かっていうか……キスしてた。
堂々と。周りなんてお構いなし。完全に二人の世界。
……うん、間違いなく青春の真っ只中だ。
心から、お二人の幸せをお祈り申し上げます…本当にね?
(無感情)
……さて、きっとこれは「繁殖期」ってやつなんだろう。うん、知らんけど。
そんな感じで、俺は悲しみに満ちた心で職員室に到着した。
だけど――
なんでアイツがいるんだ?
そそこには、あの転校生がいた。
おいおい、なんでまだ学校にいるんだ? 普通ならとっくに帰ってる時間だろ?
……もしかして、こいつも何かやらかしたのか?
「失礼します……」
部屋に入ると、彼女は黙々と何かを書いていた。たぶん勉強してるんだろう。
「おお、やっと来たか、ヒキトくん! もう2時間くらい待ってたぞ!」
「へぇ、そうですか。……すみません、寝てました。」
「はは、気にするな! いつものことだからな!」
……なるほど。どうやら先生は俺の習性を完全に把握しているらしい。
「で、何の用ですか? もしかして罰でも受けるんですか? あの、授業中に寝てた件で……」
あ、教科書を忘れてたことはバレてないはずだから、ここはスルーで。
「いやいや、今日はお願いがあって呼んだんだ。」
……嫌な予感しかしない。
「お願い、ですか?」
「実はな……アキラくんを学校に戻す手伝いをしてほしいんだ。」
……ほら来た。超めんどくさいやつ。
引きこもりを説得して学校に連れ戻す? そんなの無理ゲーだろ。
「えっと……明日じゃダメですか? 今はタイミングが悪い気がしますけど……」
少しでも時間稼ぎをしようとしたけど――
「いやいや! “早いほうがいい” って言うだろ? よろしく頼むぞ、ヒキトくん!」
ミッション回避、失敗。
「……わかりました。やってみます。」
「さすがだ、ヒキトくん! 頼もしいぞ!」
「……イエス、サー。」
……これで逃げ道は完全に塞がれた。
先生はノリノリで住所を書き始める。
……ふと横を見ると、彼女が急にノートを片付け始めた。さっきまで勉強してたのに、なんで?
「ほら、これが住所だ! 二人で力を合わせてくれ! 君たちならきっと大丈夫だ!」
「……え?」
二人で?
え、ちょっと待て。それってつまり……一緒に行くってこと?
いやいやいや、そんなの無理だろ! 俺、女子と話すの苦手なんだよ!?
……いや、そもそも話さなきゃいいだけか。
「困ったときは無理をしない。それが一番のストレス回避法だ。」
――うん、自作の名言だけどな。
仕方なく、俺は苦笑いを浮かべながらその場を後にした。
――現在、帰り道。
後ろからは、彼女がついてきている。
チラッと見ると、前髪の隙間から真っ赤な顔が見えた。なんだ、緊張してるのか?
まぁ、転校初日だから無理もないか。
でも、なんでこんな大事なミッションに新入りが参加してるんだ? まさか副クラス委員長とかに任命されたのか?
……いやいや、そんなはずない。てか、早すぎだろ。今日転校してきたばっかりだぞ。
――落ち着け、ヒキト。余計なことは考えるな。
大事なのは、今この気まずい状況をどう切り抜くかだ。
……でも、もっと重要なことに気づいた。
「遠ッ!!」
住所を見た瞬間、思わず心の中で叫んでしまった。
家からも学校からも、めちゃくちゃ遠いじゃねーか……。
はぁ、ほんとめんどくさい。
……俺は今、人生の大問題を抱えているんだぞ?
どうやって“課金用の資金”を稼ぐかっていう、超重大な問題をな。
バイトでも探すか? スーパーとか?
いや、絶対向いてない。人と話すの苦手だし、物覚えも悪いし……
――ただし、食べ物のことは例外。
……うん、生命維持のためだからな。
こんな感じでいかがでしょう?
もし修正したい部分や続きがあれば、気軽に言ってください!
「……」
遠くから、女性の姿が立っているのが見える。いや、あれは……サエニ?
なぜここにいるんだ?練習が終わった後なら、もう帰っているはずだろうに。
もしかして、クールな雰囲気を出そうとしているのか?学校の門に体をもたれかけ、腕を組んで立っている。
……見なかったことにしよう。それが一番だ。
それに、もう外は暗い。この時間に女の子二人を連れて歩くのはちょっと面倒だ。もし変な連中に絡まれたらどうする?
助けるのも大変だしな。
いや、別に臆病者ってわけじゃない。ただ……面倒ごとは避けたいだけ、たぶん?
「おいおい、二人でイチャついてるのか〜?」
くそっ、またしてもミッション失敗。
今、残された唯一の選択肢は……早歩きだ。走るのは大人げないし、ただ大股で歩くだけ。
……でも、あの子は諦める気配がない。
後ろからサエニが僕の名前を呼びながら猛スピードで走ってくる。……まぁ、どうしようもないよな、彼女はエースアスリートだし。
「……あの、普通に歩いてもいいですか?足をくじいちゃって……もう無理です……」
「……」
はぁ、やっぱり面倒くさい。
「じゃあ、僕は先に行くね?あとで追いついてきてよ?……緊急事態なんだ、もし遅れたらもっと大変なことになるから!」
「でも、私この辺の道知らないし……どうやって追いつけばいいの?」
「……」
振り返ると、リカがしゃがんでいる。どうやら本当に足をくじいて動けないらしい。
だけど、なぜか彼女が前髪をかき上げる仕草がすごく綺麗に見えた。これが女の子の魅力ってやつか?
さらに後ろからは、必死に走ってくるサエニの姿が……もうすぐ追いつかれる。
……引きずる?いや、それはさすがに非人道的すぎる。おんぶする?いや、それだとロマンスジャンルに突入してしまう。
はぁ……。
「わかった、わかった。じゃあゆっくり歩こう。」
結局、またミッション失敗。しかも、サエニがすぐそこまで来てる。もう諦めるしかない。
「……うん、ありがとう……」
「お、おう……」
「おーい!ちょっと待ってよ!なんで先に行っちゃうの?私、何か変なことした!?そんなに避けるほど!?」
「うーん、で?なんで追いかけてきたの?もう帰ったんじゃなかったのか?」
彼女の顔は汗だらけで、服もびしょ濡れ。しかも、薄手のジャージが透けて……ピンク色のブラが少し見えている。
……いや、見るな、俺。
深呼吸してから、サエニはまっすぐ立ち上がり、元気いっぱいに話し出した。
「じ、実はね……あなたのご両親に頼まれて、今週1週間、あなたの家に泊まることになったの!」
……は?今、なんて言った?
「はぁ!?いつ決まったんだよ!?なんでうちに泊まるんだ!?自分の家あるだろ!?」
「……さっき決まったの。」
彼女の話によると、家が雨漏りして修理中らしい。しかも、大雨のたびに家が浸水するんだとか。
親は出張中で家には誰もいない。……でも、なんで僕の親はそんなのを許可したんだ!?
ああ……もしかして、同情したのか?それに、サエニは幼馴染だし、家同士もビジネスパートナーみたいなもんだからな。
……いや、納得できない!でも、親の命令には逆らえない。なぜなら――
もし逆らったら、仕送りが止められるからだ。いや、すでにギリギリの生活費しか送られてこないのに……。
それに、俺には守るべき家族がいる。……たとえ、それがバーチャルな嫁でも。
うん、これはもはや経済問題だ。
「……わかったよ。同情してやる。じゃあ、君は先に帰っててくれ。俺はまだ用事があるから。行こう、リカ。」
こう言いながら、俺はサエニに鍵を投げ渡し、足を引きずるリカの手を引いて、(真の引きこもりの家)へと向かった。"
……あれ?これって、手をつないでる!?お、俺……まさかのロマンス展開に突入!?くそっ、油断した……。
リカは無言のまま、僕の手を握っている。いや、たぶん彼女も戸惑ってるんだろう。
手は冷たくて震えていて、顔はずっと下を向いている。
でも、仕方ないだろう。もしおんぶなんかしたら、今度は腰が砕ける。いや、マジで。
それに、男としての貞操が危うくなる……いや、そこはちょっと大げさか?
……思うんだけど、10代のロマンス展開から100%逃れるのは無理じゃないか?
どうやっても、こういう流れになっちゃうんだよなぁ……。