表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/24

最終話 世界一、あきらめの悪い男

「だから、お前たちはもう……行け!!」


 久我のその声にセリスの迷いが消える。意を決して詠唱を始め、魔法陣が咲く。四海、エミリー、アルヴィン、セリスが次々に光に包まれていく。


「久我さん──!!」


 四海が叫んだ。

 久我はその声で思い出す。彼女は昔、自分が救った少女であることを。ならば、言葉はいらない。ただひとつ、背中越しに右手をあげた。


 ──それだけで十分だった。


 眩い光が一斉に咲き、彼らの姿が、機内から消えた。


 久我は誰もいなくなった機内で、なお渉を探し続ける。ドラゴン衝突までに残された時間は1分もないだろう。闇雲に探している時間はない。


「……泣いてたよな」


 久我は呟き、聴覚に全神経を集中する。


 そして微かに聞こえる、鼻をすするような音。久我はその音を頼りに、機体後方の一角──トイレのドアに手をかけた。


「大丈夫だ、俺は味方だ。開けるぞ」


 ゆっくりと、ドアを引いたその先には毛布にくるまった、小さな影。泣き腫らした目の少年が、顔を上げた。


「……正義の味方の……おじちゃん……?」


「……無事か、怪我はないか?」


 四海渉はこくりと頷いた。


「僕、嘘ついてたんです。あの人は本当のお母さんじゃなくて……そうすれば、施設から出られるって聞いたから」


 時間がない中、渉の独白を聞いているのはもどかしかったが、全部話させないと落ち着かない事を久我は経験上知っていた。


「それで、みんなが、すごく怒っていて……施設を思い出して……僕も嘘つくって悪いことしてるから、怒られると思って怖くて、隠れたら……いつの間にか、寝ちゃってて……」


「もう大丈夫だ、正義の味方が助けに来たからな」


 久我は渉の頭を撫でた。


 その直後──機体全体が、突風に巻かれたように激しく揺れ渉が悲鳴をあげる。魔法防御壁が壊れ、ドラゴンの火球が機体に当たり始めているのかもしれない。


「しっかりつかまって目を瞑るんだ、渉。良いというまで決して開けちゃだめだぞ」


 久我はそう言って渉を背負う。外から、竜の唸りのような低い音。火球が炸裂する音が遠く響いた。


 それでも、機体は止まらない。まるで、何かに導かれているかのように、一直線に空を切り裂き、ドラゴンへと迫っていく。

 ダグの最後まで優秀だった。あらゆるエラーを無視して、とにかく竜へ衝突するようにオートパイロットを設定していた。


「あのオタクの信頼に応えなきゃ、勇者じゃないよな」


 機体はボロボロだった。外装は裂け、配線がむき出しになり、気流が吹き荒れている。久我は周囲に目を走らせた。


「脱出装置、パラシュート……どこだ……」


 安全マニュアルを記憶から呼び起こし、コックピット側へ向かう。


 そして、見つけた。


 補助席脇のロッカーが開いており、内部には畳まれた非常用パラシュートが一つだけ、転がっていた。


 よし、間に合う!


 久我はそれを掴もうと、手を伸ばした──


「……ああ、惜しいな」


 低く、くぐもった声が背後から聞こえた。ハッとして振り返った瞬間、磔にされたはずのネクレムの指先が、わずかに動いた。その手から、黒炎のような魔力の火種が漏れ出し、パラシュートに触れる。


 瞬時に、炎がパラシュートを包み、燃え尽きていく。


「──ッ!!」


 久我は声にならない叫びをあげる。


 ネクレムは今日、最高の笑顔を見せる。


「……今度こそさよならだ、勇者よ」


 久我の目が、怒りに染まる。渉が背中で小さく震えた。


「……クソッ!」


 焼け落ちるパラシュートを前に、久我は拳を握り締めた。渉の震える背中を感じる。


 方法は必ずある。罪のない小さな命を背負ったまま、諦めてたまるか。


「……俺はな……」


 思わず口に出ていた。


「世界一、不運で……世界一、あきらめの悪い男なんだよ」


 絶望的状況は、何度もあった。

 それでも、いつも“ギリギリ”を生き延びてきた。

 なぜなら、久我は備えるから。

 

 そう、こんな時のための備えがあったはずだ。


 久我の目に光が再度灯る。そのとき、ふと脳裏に浮かんだのは、“無駄”だと笑われた自分の習慣だった。


「……あれだ!」


 久我は渉を背負い直し、燃えるパラシュートを横目に客席中央へと全力で駆け戻った。


 風が吹き込み、破損した座席を飛び越え、床板のきしむ音の中──


 彼の席。

 その頭上の手荷物入れを、強引にこじ開ける。


 ──あった。


 黒いケース。私物ラベル。金属バックル。久我は取り出しながら、小さく笑った。


「重たすぎて皆に馬鹿にされるが、俺は……いつもこれだけは、持ち込んでる」


 個人所有の高高度対応型パラシュート。カスタムモデル。展開高度自動検知式。


 これが、今、命を繋ぐ唯一の手段だった。


「渉、まだ目を開けちゃダメだぞ」


 機体側面、破損したパネルの先。そこには、どこまでも広がる混沌の空。そして、眼前には、竜──ドラゴンが火球を構え、こちらを睨みつけていた。


 機体は、もうぶつかる寸前だ。止まらない。導かれている。


「異世界招待のお礼だ。熱いハグを受け取れ、クソドラゴン」


 久我はそう吐き捨て、風を瞬時に読んだ。渉の体を支え、片手でバックルを固定し──


「──行くぞッ!!」


身体を躍らせて、空へ飛び出す。風圧が肌を裂き、渉の悲鳴が耳を突く。


そして──爆音。


 後方で、雷鳴のような轟きが空を揺るがせた。


 久我が空中で振り返った先には──巨大な火球の中、突っ込んでいく機体の残影ドラゴンの巨体が、炎に呑まれ、砕けていく光景だった。



@Chaos 名もなき平原


「──久我、おい、ヒーロー!  応答しろ!!」


 ダグは叫んでいた。


 転送の直後、全員の姿はそろっていた。全員が全員、満身創痍ではあるが。


「繋がれ……頼むから繋がってくれ……ッ!」


 転送装置からは、ノイズ混じりの信号が繰り返されていた。


「……ピ──……ご……あ……ッ」


 雑音の合間に、かすかな“声”。誰かが、息を吐くように返した。


『……こっちは……無事だ……子供も一緒にいる……』


 その言葉を確認した瞬間──


「よっしゃあああああああああああッ!!!」


 ダグが天を仰いで叫び、他の面々もそれに続いて歓声を上げた。エミリーがこっそりと目元を拭い、四海はわずかに微笑んだ。


「……生きてた」


 セリスも、静かに息を吐いた。


 しばらくした後、合流ポイントにふらりと現れた久我と渉の姿に、誰もが駆け寄った。何も言わずに、ただ拍手が沸き起こった。


その輪が少し落ち着いたころ。セリスが、すっと前に出て、言った。


「──さぁ次はいよいよ本丸の魔王ですね」


 その声に、皆が思わず沈黙する。


 誰もが忘れかけていた“次なる戦い”。

 だが、それは確かに、ここから始まる。


 混沌の世界、Chaos。

 召喚された勇者、久我悟空。

 そして、その勇敢なる仲間達。


 物語は、ここでひとつの幕を閉じ──次の、扉が開くのを待っている。


 『Flight to Chaos ~スカイマーシャルが勇者になった日~』


 <了>


完結までお読みいただきありがとうございます。

異世界転移ものでは転移は早く済ませるのがセオリーですが、転移するまでの経緯だけで一本長編書いても、面白いものができるんだぞという逆張りで書きました。

よろしければ、感想・レビューなどをいただければ励みになります。

今の所、続編を書く予定はあまりないですが、たくさんのご要望があれば続編も書くかもしれません(笑)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ