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05 亜人の星

「あのー、こちらから希望を出してもいいんでしょうか?」


 俺が問いかけると、女神はニッコリと微笑んだ。

「ええ、構いませんよ」

「そうですねえ…いわゆる『ザ・異世界』っていう感じの世界はないんですか?」

「母音なので『ジ・異世界』では?」

「えーそこはどうでもいいんですが、いわば中世ヨーロッパ風の世界で――」

 そこまで聞いて女神は思い出したような声を上げる。

「あー、最近それ望まれる方多いんですよ。

 あれですよね。『剣と魔法の世界』って感じの」

「そうそう、それです」

「なるほどなるほど。

 何だあなたもですかー。

 それ最初に言ってくださればいいのに――」

 いやいや、それを言う余地がなかったというか、そこまで状況を理解できてなかったというか、何にしても俺の意見を受け止めてくれたみたいでよかったが。


 女神がおもむろに指を鳴らすと、スクリーン上に地球が現れた。

 だが、よく見るとそれは地球ではない。

 大陸の形や配置が明らかに異なっている。

「こちらは地球に似た環境の別の惑星になります。

 いわゆるハビタブルゾーンに『生命の種』みたいなものを植えて、後は進化を待つというのが神がよくやることなんですけど、この星の人類――その星を支配している種――は地球人と大体似たような見た目で、似たような文化を持つように進化しました。

 実を言うと地球人と彼らとは相互に転生を繰り返しているので、前世の記憶の有無にかかわらず、相互に影響を与えているというのもあるみたいですね。

 ただ、地球人が持たない魔法の能力を有しているので、科学技術は地球ほどは発展していないって状況です。

 で、この星にも当然無数の世界線があって、そこから選択する必要はありますね…まずは――」

 女神は少し考え込むような様子を見せてから、俺の顔を見据える。

「やっぱり亜人種も存在したほうがいいでしょうか?」

「亜人種、ですか?」

「亜人種っていうのは、人類種とは異なるものの、エルフやドワーフやゴブリンといった知的能力を有する種族のことです。

 世界線が異なれば、これらの種族は全て滅んでいる場合もあるのですが、いかがいたしましょうか?」

 俺は一瞬考えるが、まあ俺のイメージする「異世界」にはそういう存在がつきものな気がする。

「えーと…いたほうがいいかも知れません」

「そうですね。色々いたほうが賑やかですからね。

 ここは、そうだなあ…地球には存在しない竜とか幻獣とか妖精とか、あと魔族なんかもつけておきましょう」

 女神の謎の景気のよさに、俺は少し不安を感じた。

「あの…竜とかはいいとして、魔族って大丈夫なんでしょうか?」

「まあ、人類の脅威ではありますね。

 人類が滅ぼされて魔族だけが残るっていう世界線もあります」

 そんな種族がいる世界で、諸々大丈夫なのだろうか。

「その…魔族っていうのはどういう存在なんでしょう?」

「そうですねえ。知的レベルや見た目は人類とあまり変わりませんが、魔力は平均的に人間を上回っているのと、人間よりも長生ですね。

 人間と一番相容れない点は、情愛のような感情が魔族には極めて薄いことですね。

 組織は全て目的のために合理的に作られ、家族があるとしても生活のための便宜といった感じです。

 友人関係も情報収集のためといった目的意識が強いですかね。

 時に目的のために人間に対して感情を偽装したりするので、あなたがいた世界でいうところのサイコパスっていうのが近いかもですね」

「魔族も神が作り出した種族なんですか?」

「きっかけは詳しくは分かりませんが、進化においてどこかでヒト族と枝分かれした種族でしょうね。

 あっ――」

 女神が突然大きな声を上げたので、たじろいだ俺は座布団から落ちそうになる。

「まず初めにあなたに聞いておくことがありました。

 今話しているのは転生先の世界をどうするかですが、転生後何になるかについては後で詳しく決めていこうと思っているんですけど、その前に…」

「え、えーと、何でしょう?」

「あなたの回答によっては転生先の内容が変わってくるので、ここは最初に確認すべきでした」

「あの、ですから、何ですか?」

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 俺は少しの間絶句して女神を見つめた。

 しかし、気を取り直して、ようやく口を開く。

「それ、当然だと思ってました」

「あー、そうですか。

 その前提が違うと色々話が変わってくるので」

「むしろ人間以外ってアリなんですか?」

「ええ。色々希望はありますよ。

 エルフとかゴブリンとかドラゴンとか魔王――魔族の王――だとか。

 虫や植物もありますし、まれに石みたいな無機物の希望もあります」

「石ですか?

 そんな石なんかに転生すると、永遠に生き続けることになるんでしょうか?」

「そこはですねー、コアみたいな部分を決めて、それが崩壊したら『死』でしょうか。

 いずれにしろそういう場合は死の定義を決めてから転生となりますね。

 そうだ――」

 女神はまた何か思いついた顔をした。

「あなた、概念に転生するというのはどうでしょう?

 まだやったことはないんですけど」

「概念に転生って、それ何ですか?」

「例えば『美』という概念に転生するのです。

 人々の心から『美』が失われたら死にますが、人間から『美』というものが失われることが果たしてあるでしょうか?

 故に人類が存続する限り、ほぼ永遠に生き続けられます」

 いや「美」になったとして、何をどうすれば…

 それまた100億年待機に匹敵する地獄なのではないだろうか。

「あの…俺は人間に転生でいいです」

「…そうですか…」

 女神はつまらなそうな表情になるが、ここははっきりと要望を伝えなくてはならない。

 ここで対応を誤れば、女神の調子に乗せられて、場合によっては例えば「屁」のようなものに転生させられるかも知れないのだ。

 そうなれば、俺はそのまま永遠とも言える時間、世界を漂い続けることになるだろう。

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