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04 お座敷世界観

「そういうわけで、あなたには神が作ったサンプルというかパッケージから世界を選んでいただいて、そこに世界の根幹に影響を与えない程度のカスタマイズを加えていくという手筈になると思います」


 女神のビジネスライクな物言いに、じゃあ今までのやり取りは何だったのかという思いが拭えない。

「あのー…なぜそういう提案を最初からしてもらえなかったのでしょうか?

 果たしてビッグバンとか必要だったんでしょうか?…」


 女神は「聞き分けのない困った子ね」といった視線を俺に向ける。

「ごくまれに、宇宙を初めから作りたいという人がいるからです。

 あなたがそうじゃないとは限らないでしょ?」

「え、100億年待つことを厭わないツワモノがいるんですか?そんなすごい人が…」

「まあ、数年、いえ数ヶ月で大抵音を上げますけどね」

「だったら――」

 俺の不平をものともせずに、女神は事務的に話を進める。

「それではまず世界を選択しましょうか」

 まだ釈然とはしていない俺だったが、先に進むため仕方なく話を合わせる。

「…えーと、どういった世界が選べるんでしょうか?」


「例えば――」

 女神が指を鳴らすと、スクリーンに都会の街並みが表示された。

「こちらはあなたが生きていた時代の日本――東京の風景ですね」

「ここに戻ることもできるってわけですか?」

「はい。亡くなる前のあなたとは別人格となりますが、同じ時代に生まれて人生をやり直すということも可能です。それから――」

 女神が空中で指をスワイプさせると、立ち並ぶビル群が徐々に消えていき、街の建物が全体的に低くなり、やがて焼け野原になった風景が映し出される。

「このように過去に戻ることもできます」

「これは…戦争の頃か…」

「過去へ行けば、あなたは予言者として活躍できるかも知れませんね。ただ、事件や事故は必ず前回のように発生するとは限りません。あなたがその時代に生まれ落ちた影響――いわゆるバタフライエフェクトによって、状況が変動する可能性があるからです。地震のような天変地異であれば間違いなく再発するでしょうけどね」


 若干理解しがたい点もあるが、とりあえず成程と頷きつつ俺は質問を投げかける。

「過去に行けるってことは、未来にも行けるんですか?」

「はい、可能です。このように――」

 と女神は再び空中で先ほどとは逆方向へとスワイプしてみせる。

 すると、焼け野原から街が次第に復興していく様相がスクリーン上に展開され、また高層ビル群の立ち並ぶ風景に戻っていく。

「任意の未来で生まれ変わることも可能に――」

 しかし、聳え立つ摩天楼が表示されたのも束の間、それらは無残に崩壊してゆき、一面瓦礫に覆われた廃墟の様相に転じた。

「あ、未来に行き過ぎました」

「ええ!?一体何が起こったんですか?」


 慌てる俺をよそに、女神はあまり興味もなさげに答える。

「んー、どうなんでしょうねえ。地震かなあ、それとも戦争かなあ。まあ、それは戻ってからのお楽しみということで」

「え、戻ったらすぐ日本壊滅とかイヤなんですけど!」

「でも、必ずしも日本に生まれる必要はないですよ。パレスチナでもシリアでもイエメンでもお好きなところへどうぞ」

「…女神様、わざと紛争地域選んでないですか?」


 俺の暮らしていた世界の未来像。

 多少は気になりはするものの、自分自身の記憶がないからか、どこか遠い国の物語としか感じられないことが少し寂しい。


 そんなやり取りの中、俺の中である疑問が浮かんだ。

「あの、これってなんか異世界じゃないんじゃないですか?俺が元いた世界って感じですけど…」

 女神はそんな質問は想定済と言わんばかりに頷いてみせた。

「たしかにあなたにとってはそんな印象でしょうね。

 私も便宜上『戻る』というような表現を使いましたし。

 でもあなたが向かう世界は、同じように見えてじっさいはあなたがこれまでいた世界とは異なるところです。

 あなたは厳密には元の世界に戻ることはできません。

 なぜなら世界とはそもそも無数の世界線に枝分かれしていて、あなたが生きていた世界とは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だからです。

 この画面に映し出されているのは、あなたが生きていた世界にニアリーイコールの世界線ということになります」

「えーと――」

 俺は女神の発言を頭の中で反芻しながらゆっくりと訊き返す。

「ということは、かつての俺が生きている時代に俺が生まれ変われば、それは俺が二人いることになるっていうこと?」

「あなたの言う『俺』というものの定義が曖昧で答え難いですが、ある一面でそうとも言えるでしょう。

 当然、かつてのあなたと転生したあなたは別人格となりますけど」


 常識では捉えがたい話を何とか咀嚼しようと唸っていると、落ちこぼれ生徒を置き去りにする教師のごとく女神は次へと説明を進める。

「今ご紹介したのは、かつてのあなたが生まれ育った世界線に近いものでしたが、人類史の初期段階に大きく枝分かれしてしまった全く異なる世界線も存在します。

 さらに言えば、あなたが暮らしていた『地球』と呼ばれる星とは全く異なる惑星で人類が暮らす世界もいくつもありますし、地球のようなハビタブルゾーンが複数近隣に存在していて、惑星間の交流あるいは戦争が行われているような世界もあります」

「…う〜ん…そうですか…

 俺はそういった中から自分が転生する世界を選ばなくちゃいけないと…」

「ええ、そうなります」


 これから俺はどうすべきだろうか。

 無数にある世界についてひとつひとつ説明を聞いていって、その中からベストを選ぶべきだろうか。

 何しろ時間はたっぷりあるらしい。100億年はかけられるっていうからな。

 というか、そもそもここには時間という概念がないのか。

 しかし――

 俺は何を基準に転生する世界を選ぶべきなのか。

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