最終章
10分ほどで優太が戻ってきた。
「ごめんね柚乃。待たせちゃって」
「ううん。大丈夫」
「「話したいことがある」」
二人で同じタイミングで声をそろえ、同じ言葉を言った。
「あっ、先に話していいよ」
そう言ったら「わかった」と優太が答えた。
「俺ずっと柚乃に言いたかった。会いたかったって。会って話して、生きる希望を見つけたかった。そばにいてほしかった。実はね、たびたび街で見かけてたんだ。最後に見たのは今日の朝。病院に走っていく柚乃を見た。そして、ビルの屋上にいるのも見た。仕事してても柚乃のこと頭から離れなかった。不安だったんだ。柚乃のことが。でも、その不安が今無くなる。言いたいことが言えるのだから」
優太はつらつらと話してくれた。
私は真剣な眼差しで彼のことを見ていた。
この時、私も優太と同じことを思っていたと思う。
その言葉を優太が言ってくれた。
「ずっと見つけた時から柚乃のことが好きだった。気にかかってるのは柚乃の不安な気持ちもそうだけど、何より柚乃自身のことが気になってた。」
「ありがとう。私も同じこと思ってた。いつ会えるのかな、いつこの気持ち伝えようかな。そう思い続けてた。その気持ちが今真実に変われた。ありがとう優太。」
やっと言えた。ずっと言いたかったこと。
私たちは顔を見合わせて顔を真っ赤にした。
「実はね、さっき屋上にいた時優太に引っ張られてなくても飛び降りてなかったと思う。下を見た瞬間優太のこと思い出したんだ。一度でいいから会いたい、話したい。そう思っていた。だから、飛べなかった。でもね、優太の顔を見た瞬間涙が出そうになった。嬉しかった、安心できた。だからね、言いたかったんだ。ありがとうって。ありがとう優太。私のこと助けてくれて。私を生かしてくれて」
「ううん。俺のおかげじゃない。柚乃自身が変われたんだよ」
「そんなことないよ。優太の助言のおかげ」
「そうか? ありがとな」
私たちは病室の中で何分も話した。
そして退院の日。
「もう飛び降りるなよ」
「わかってるよ。また連絡するね」
「うん。わかった。またね」
「うん。またね」
そういい私は家に帰った。
あの日以降私は優太のいる病院に通った。
そして、通信高校に通いながら大学を目指した。
大学卒業後私は就職した。
「佐藤医師~」
「違うでしょ! 今は小川でしょ!」
「あっ、そうだった。改めてご結婚おめでとうございます」
「ありがとう」
そう。私は精神科医になるために猛勉強をした。
そして、大学卒業後配属された病院で優太と再会をした。
再開後、私たちは付き合い、結婚をした。
優太の本名は小川優太。
結婚した後は優太の苗字をもらった。
私は今、彼と人生を送っている。
「変わりたい」
その一心で私は生きてきた。
人のために生きたいと思ったのは初めてだった。
この命は、あなたのための命だってことに気づいた。
私はあなたのために生きている。