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【第四章完結!】堕落天使はおとされる  作者: 真白はやて
第二巻 『1クール』
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第5話(15) 『白色の閃光に包まれて』

 予定外ではあるが欲しいと思っていたテーラへのプレゼントを入手し、俺はこれを渡した時のテーラの表情に変化があれば良いと思いつつ街外れへと足を運ぶ。

 前回『魔導具店』へと向かった時も、各番外に続く門とは違い俺は地図を使用せずに到着することが出来ていた。

 それは一重に俺がテーラの住む家に一定以上の興味を持っていたからだ。


 だから今回も地図を見ずに、立ち止まることなく足を動かせている。


「……相変わらず悪趣味な店だな」


 そして歩いて十分弱。

 全体的に不気味な外装に引き攣った笑みを浮かべつつも、俺は岩壁で塞がれた入口前へと辿り着くことが出来た。


 岩壁を軽く叩いてみるがその強固さは折り紙付きでビクともしない。

 魔法でどうやってこんな質量を生み出しているのか理解できないが、そういうのはそうであるものと割り切った方が良いのは俺でもわかる。


「《ライトニング》」


 軽い抵抗の意味も込めて雷魔法の雷撃弾を放ってみる。

 ……が、殺傷能力に特化しているといっても魔法で意図的に作られた岩壁を貫くことは出来ず、簡単に撃ち負けて雷撃弾は魔力の粒子となって消失してしまった。


「まっ、無理だよな」


 そもそもこれぐらいで破壊される耐久値であるならこの岩壁が存在する意味がないだろう。

 それを言ったら元々取り付けられていた扉はどうなんだという話であるが、ともかくだ。


「正面からは入れない。となると」


 正攻法ではどうにもならない。

 そもそも正面から入ろうとするから駄目なのだ。


 横、そして裏手に回る。

 扉があるわけではない。

 もちろん壁にあるのはカーテンで室内の様子を遮断した窓がいくつかあるだけだ。


 だがそれこそが人によっては入口の一つなのだ。


「うん、そもそも正攻法は俺らしくない」


 大きめの紙袋を片腕で持ち直し、近くの地面に落ちている石を持つ。

 そもそも一切の躊躇もなく人のドアを蹴り壊した時点で、俺にモラルとか常識とかを求めるのは野暮ってものだろう。


「よいっしょー!」


 というわけでこんな太陽がまだ照り輝いている時間帯にも関わらず、俺はまた一切の躊躇なく人の家の窓に思い切り石を叩き付けた。

 もちろん泥棒の常套手段である補強など一切していないためガラスは大きな音と共に跡形もなく砕け散り、カーテンによって衝撃を吸収しながらも室内へと全て落ちていった。


「あんな高っけぇ物置いてるんだから、もっと防犯には気を付けなきゃ駄目だぞ。この世界には簡単に犯罪に手を染めるクズ野郎はわんさかいるんだから。例えば俺とか」


 周りを警戒していたが三番街の外れだからか人が来る気配はない。

 最悪アルヴァロさんやテーラが室内にいれば異変に気付いてそっちから来てくれると思いそれなりに大きな音を出したのだが、室内から人の気配がすることはなかった。


 ……やはりここにもいなさそうだ。

 でもルナの言葉が正しければ何かしらの痕跡がある可能性は充分にある。


「というわけで、おじゃましますっと」


 だから俺は窓の外枠に足をかけ、ガラスの破片に気を付けながらカーテンを開け室内へ侵入した。

 明らかに不法侵入で一発逮捕なことをやらかしてしまっているが、そんなことを言い出したらそもそも最初にドアを破壊した時点で器物損壊で既にお縄に頂戴されている。


 今回もテーラの良心を信じて祈るしかない。

 許してもらうために、尚更テーラの問題を解決するしかなくなった。


 そんな大義名分を俺自身で作り出している。

 理由を付けなければ、こうして無理をすることが出来そうになかったから。


「ここは……リビングか」


 外から侵入したことがなるべくバレないようカーテンを閉め直し改めて室内を見渡す。

 正面から入ってないので当然店頭スペースでないのはわかっていたが、どうやら前にテーラと話していたカウンターの奥。

 その住居スペースの中に土足で立ってしまった。


 仮にも女の子の住む部屋だ。

 さすがに土足はマズいのではないかと思い一度靴を脱ごうとする。

 けれどそれではもしも侵入がバレてしまった時一切の遅延なく逃げることが出来なくなってしまうだろう。


「……次会ったら誠心誠意謝るしかないな、こりゃ」


 入口を壊して、窓を破壊して、土足で部屋に侵入する。

 最早許す許さないの範疇を超えてしまってるが、むしろ逆にもう何をしても変わらないと吹っ切れることにした。


 全てが解決したら頭を下げることを決意しながら、俺はそのまま辺りを物色し始める。


 リビングは比較的綺麗に整理整頓されていた。

 キッチンの方はほとんど使ってないのか調理器具の類はかなり少なく、これといって気になるようなものは無さそうだった。


 あるとすれば、前に用意してくれた紅茶のティーセットぐらい。

 もしも帰って来ているのならすぐ洗うはずなのに、あの日から洗わずに放置されたままの状態で台所の上にポツンと置かれている。


「帰って来てないのか……?」


 それか、洗う暇もない程忙しかったのか。

 それとも単純に面倒くさがっただけなのか。


 まだその真意はわかりそうにない。

 なんにせよ、リビングには生活していた様子は見受けられなかった。

 帰って来ていたとしても、この場所に滞在していた時間は非常に短かったのかもしれない。


 というか客観的に見て理由があるとしてもこうジロジロと部屋を見るのは如何なものか……


「てか今更だけど女の子の部屋に不法侵入って……今謝っとこ。すいません」


 俺がされる側だったら許す許さないはともかく誰であろうと絶対一発は殴り飛ばしていることだろう。

 自分でもドン引きしてしまったため、誰に謝ってるのかわからないがとりあえず手を合わせておいた。


 気を取り直して一度リビングを出る。

 店頭側には用はないので住居スペースの奥へと足を運んだ。


 階段を上がって二階へと進む。

 木製の階段が軋み鈍い音を奏でるが、それでも人の気配はない。


 最早一切警戒をすることなく、俺は階段を上りきり堂々と二階の廊下を歩いた。

 とは言っても、この家は新築で作ったのか二階の廊下には扉が一つしかなかった。

 一人で住むことを前提に建設したかのように、やけに寂しい扉が廊下の中心に設置されている。


 どう考えても、目の前の部屋はテーラの私室だろう。


「し、失礼しま~す……」


 しかし既に数多の犯罪行為を犯した俺に超えられないものはない。

 自分の下劣さを理解して尚、俺は罪悪感を感じながらゆっくりと扉を開いた。



――



 室内に入ると、視界に映ったのは何とも簡素な部屋だった。

 室内にもう一つ扉があるためどうやら二つに仕切られているのだとは思うが、それにしたって私室に置かれている物は限りなく少ない。


 ベッドと本棚、それぐらいだ。


「あれ、てっきりメルヘンチックに染まってると思っていたんだが……」


 買わないと言いつつ可愛い物をこっそり集めてる可愛い奴だと思っていたのだが、私室を見る限りそんな様子は一切見受けられない。

 念のためクローゼットも開けてみるが、掛けられている服の種類も多くない。

 生活しているにしては何だか物足りなさを感じた。


 趣味趣向関係なく、少なくとも16歳の女性の部屋だとは思えない。

 何だかまるでここを仮住居と思って生活していたような、そんな寂しさを覚える。


 しかしこういった何も無さそうな場所にこそ案外大事な物が隠されたりするものだ。

 不法侵入してしまった以上妥協することは許されないので、俺は室内を隈なく捜索した。


 しかしやはりリビングの時と同様、あまりにも簡素なため目ぼしいものは何一つ見つけることが出来なかった。


「これが本当に人の住む家かよ……」


 世の中にはミニマリストという物を限りなく少なくして生活する物好きもいるようだが、あの趣味の悪い外装にしておきながら内装の物は少なくしたいというのは何処か違和感がある気がする。


 明らかに自然に出来た生活ではなく、意図的に作り出されたものにしか見えない。

 それに何もない部屋で引き籠り生活を送ろうなんて、現ニートの俺からしてみれば不可能だと断言出来る。

 それにテーラの性格上人並み以上の好奇心は持ち合わせているはずだ。


「となれば……」


 何かがある部屋があるはずだ。

 最後の、まだ見ていない扉に視線を向ける。


「これまで何にも見つけられてないからな……頼む、振り出しに戻させないでくれ……!」


 これで何も見つかりませんでしたでは済まされない。

 テーラがこの状態に気付いて教会に殴りこんでくれるのならまだ救いはあるが、アルヴァロさんと行動を共にしてる関係上きっとそんな未来が訪れることはないはずだ。


 きっと黙認する。

 何の反応もしないで、淡々と現実を受け入れてしまう。


 ……そんなの悲しすぎる。


 叫んで、唸って……そうして叱ってくれた時、ようやく俺は平穏を取り戻せたと思えるだろう。


 ――心の中で神サマではない誰かに祈りつつ扉を開ける。


 そこはこれまでの部屋とは大きく違い、大量の本棚で埋め尽くされた部屋だった。

 閉められたカーテンから僅かに漏れ出る光だけが光源で、本が多いからか紙特有の匂いが鼻をつく。


「これだよこれ! こういう部屋を待ってたんだ」


 ようやく部屋らしき部屋を見ることが出来て思わず感慨深い気持ちになってしまった。

 床には何かの図面らしきものが書かれた紙が散らばっていて、一番奥の正面には木製の長机がその存在を主張している。


「随分散らかってるな……作業部屋っつーのは何となくわかるが足の踏み場もないぞ……」


 床一面に紙が落ちているため、それを踏まずに移動するのはかなり難しい。

 本当は避けるべきなのだろうが床に落ちている紙の一部がよれていたりシワが寄っていることから、ここの家主もそこまで気にしてはいないようだと感じる。


 そもそも大事な用紙であればこんな適当に扱いはしないだろう。

 なので俺も家主に習って気にせず踏み締めることにした。


「今までみたいに何もないっつーのも拍子抜けだが、逆にここまで物で溢れかえってると手がかりを探すのも一苦労なんだけど……」


 泣き言を言っても仕方ないのはわかってる。

 だから諦めて手当たり次第に物を漁った。


 紙を掻き分け、物を退かし、名前もない『何か』を探す。

 そうした時、ふと落ちている紙に思考が引っ張られた。


「これは……魔導具の設計図か?」


 よく見てみれば乱雑に置かれている紙全てに、魔導具という単語があるのに気付いた。

 となるときっとここは魔導具の工房のようなものなのだろうか。


「てっきり何処からか卸してるのかと思ってたんだが、まさかあいつが作ってたのか……!?」


 いや、そうなるとクーフルの持っていた魔導具もテーラが作ったことになってしまう。

 きっと陳列されている中のいくつかを作成しているというだけなのだろう。

 そう気付くと、この部屋の全貌が何となくわかってきたような気がした。


「ここにある本も全て魔導具のことについて書いてある。……さすが店主様だな。勉強熱心で眩しい限りだ」


 やるつもりは一切ないがきっと俺が何か職に就いたとしても、彼女のように毎日勉学に励むことは出来ないだろう。

 ただでさえ仕事で疲れているのに、家に帰っても仕事のことを考えなければいけないなんて絶対無理だ。

 すぐに教科書とノートを投げ捨てる自信がある。


「きっとこういう奴が上に立つんだろうな。個人店に上があるのかは知らんけど……ん?」


 どうでもいいことで考えが逸れるのは俺の悪い癖だが、考えを戻そうと取った本の一冊を本棚に戻そうとした所で、ふとある違和感を抱いた。


「……なんか、本棚の数に対してやけに空白が多いな」


 本棚に収納された本が、やけに散り散りなのだ。

 この部屋の床に置かれている本の数も大雑把に数えて尚合っていない。

 無くしたと言えばそれまでだが、それにしたってほとんど何もない別室に置いてあるわけでもないはずだ。


 この家自体に、本棚を全て埋めることが出来る程の本はなかった。

 本棚だけ多く買った……という可能性も否定出来ないが、彼女が無駄な買い物をするとは思えない。


 それに……


「かなり前から空白になってるのなら、多少なりとも埃が付いているはずだ。でも……」


 空いている隙間はかなり綺麗で。

 まるでつい先日まで確かに収納されていたかのようにその空白を主張していた。


 さすがにこの状況で偶然を通すわけがない。

 本を持ち去ったか、或いは別の部屋があると考えるのが自然だろう。


 そして別の部屋……つまり隠し部屋があるとすれば。


「浪漫を求めるならやっぱ本棚を動かした先とか……そして明らかに他より少なすぎるこれ、だろ!」


 紙袋を床に置き、一番本が収納されていない本棚の横を強く押す。

 動かすのが目的であれば大量に入った本棚を内側から閉めるのは困難を極めるはずだ。

 だからこの本棚に目を付けたわけだが、それは俺の力でも問題ないほどそこそこ簡単に位置をズラすことが出来た。


 確実な自信を持って、本棚に隠れていた壁に視線を向ける。

 ――そして見えたのは扉ではなく、色の落ちた魔法陣が描かれた壁だった。


「隠し部屋じゃ……なさそうだな」


 浪漫を期待していた反面若干気分が沈む。

 しかしこれはこれで明らかに通常の壁とは違うものだった。


「魔法陣、ねぇ。魔法陣って奴には嫌な思い出しかないが、いかにもおとぎ話の世界みたいでテンションが上がるのもまた事実」


 魔法陣と言えばやはりどうしても闇魔法のことを思い出してしまう。

 それは魔天戦争の中で生き続けてきたのもそうだし、人間界に来てからも俺と闇魔法には切っても切れない縁があるからだった。


 とはいえ、この魔法陣には闇魔法のような邪悪さは感じられない。

 くすんだ色をしているものの、もとは水色っぽい色をしていたんだと思う。


 だが魔法陣の周りを観察しながらも、俺はこれに関してどうすればいいのかわからずにいた。


「目新しいものを見つけられたのは収穫なんだが、だからといってこれをどうすればいいのかもわからないわけで……ただこういう場所にあるものは結局別の部屋に入る入口ってのはお約束だろ。ということは案外これがスイッチになってたり?」


 色々試すしかない。

 よくあるのは壁を押したらその箇所が凹んで新たな扉が開かれるみたいなことだろう。

 なのでとりあえず魔法陣の中心部を押してみるために手をかざした。


 ――その刹那、俺の手のひらと魔法陣から透き通った水色の光が灯る。


「うおっ!?」


 一気に魔力が流れ出て行くのを感じた。

 ごっそりとコップに入った水が抜け落ちるような感覚。

 驚き、反射的に手を放すと、手のひらに灯っていた光は止み代わりに魔法陣の光がより強く発光した。


 決して離さないように反射的にぬいぐるみの入った紙袋を両腕で抱える。

 そして俺の視界全てが、白色の閃光に包まれていった。

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