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【第四章完結!】堕落天使はおとされる  作者: 真白はやて
第二巻 『1クール』
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第5話(7) 『開き慣れてるはずなのに』

 教会へと入った後、アルヴァロさんの『幸運をもたらしてくれた神に感謝の気持ちを示したい』という言葉によって聖女セリシア先導のもと軽い礼拝が行われた。


 俺みたいな奴が特殊なだけで、全体的に見れば天使は敬虔な信徒だ。

 天界では聖神ラトナを信仰してはいなかったが、この世界ではどうやら聖神ラトナが一般的な神として扱われている。


 天使からしてみれば神はどれも位の違いはあれど等しく信仰の対象であるため、アルヴァロさんも特に抵抗なく膝を付け祈りを捧げていた。


 俺にとって礼拝は不快な儀式だが、天使であるアルヴァロさんにまで目くじらを立てようなどとは思わない。

 さすがにそれぐらいの器の広さは俺にもある。


 だから現在ボーっと礼拝が終わるのを待ちつつ壁側にて待機していた。


 ……チラリと、隣に立っているテーラへ視線を向ける。


「……」


 いつもは騒がしい彼女も今だけはずっと俯いて、一言も口を開けようとはしなかった。


 ――そして数十分後。

 無事礼拝の儀が終了したアルヴァロさんを嬉々としてリビングに通そうとした俺だったが、その思惑は意外にもセリシアによって阻止されてしまうこととなる。


「すみませんメビウス君。たとえメビウス君のお知り合いだとしても、一般の方をこちらに通すことは出来ないんです」


「そ、そうなのか」


 初めて知ったんだけど。

 どうやら聞く限りだと基本的に一般開放されているのは礼拝堂と懺悔室だけらしい。

 実際それが当たり前なのだが、テーラやルナは簡単に入れていたので今まで誰でも入れると勘違いしていた。


 だが思い返してみればよく教会に訪れる信者たちも誰一人住居スペースに入ろうとしていなかったのを思い出す。

 用がないからだと勝手に思ってたが、あれは入れないと知っていたからなのか。


「デルラルト君が教会に来たのは結構最近のことなのかい?」


「え゛っ……い、いやぁあはは」


 笑って誤魔化すしかない。

 もう既に一か月以上住んでるのに何も知りませんだなんて言えるわけがなかった。


 俺のことはともかく、これではアルヴァロさんを持て成すことが出来ない。

 俺的にはバッチ来いなのだが礼拝堂でお菓子を食べるという行為は基本的にNGらしいし、立たせて食べさせるというのも持て成しと言うには到底程遠い提案だ。


 庭に大布を引いて座らせるというのも、相手は大人だし少々抵抗がある。

 う~ん……


「ですので、代わりと言っては何ですがもしゾルターノさんさえよろしければ裏庭の方で簡易的なテーブルを用意することは出来ますよ」


 え、そんなんあったっけ。


「お気遣いありがとうございます。であれば、お願いしてもいいでしょうか」


「はい、わかりました。裏庭の方に運びますので、メビウス君は案内をお願いします」


「あ、ああ。わかった」


 とんとん拍子に話が進んでいく。

 聖女としてのセリシアは来客が来た際の心得でもあるのか行動や言動に一切の躊躇や焦りを感じさせなかった。

 ちょくちょく思うがやはり『聖女』としての立場が彼女を成長させているのだろう。

 俺と年齢は変わらないというのに、聖女のセリシアは非常に堂々としていた。


 しっかりとした足取りでリビングの方へ行ってしまう姿を見つつ、セリシアの指示通りに動くために教会の入口を開ける。


「じゃあついて来て下さい。マジで何もなさすぎて欠伸が出ちゃうかもしれないですけど、持て成しはしっかりさせてもらいます!」


「ああ、楽しみだ。でも、教会があるというだけで神聖な場所なんだぞ。むしろ娯楽を絶っているこの場所はとても素晴らしいと私は思うよデルラルト君。神を敬愛している立派な証拠だ」


「うぐっ……ま、まあそうですね?」


「相変わらずだね……」


 俺が神嫌いだというのはアルヴァロさんも知っているから、俺の反応に苦い顔こそすれど不快とは思わない。

 当然それは俺の父さんが戦争で死んでしまってることを知っているからであるが、天界時代アルヴァロさんと居やすかった大きな理由でもあった。


 居やすかったと言ってももう一年以上会っていなかったが。

 俺が姉のスネを齧るクソニートだったから。


「というかあの色々手配してくれた……女の子」


「セリシアですか? そういえば紹介してませんでしたね。一応彼女はこの世界で『聖女』という立場なんですよ」


「聖女か……」


「この世界ではめちゃくちゃ権力があって聖女自体も信仰の対象になっているらしいです」


「……そんな方とお近付きになれるなんて凄いなデルラルト君は」


「いやぁそれ程でもあり……そ、そんなことないですよ」


 ただセリシアが居候させてくれてるだけなのに思わず天狗になってしまいそうになった。


 慌てて取り繕って謙遜する。


 だがアルヴァロさんは俺の謙遜など気にすることはなく、顎に指を乗せてしばし考えた後、少しだけ眉を潜めてこちらを見た。


「その聖女様と言えど女性だろう? 一人でテーブルを移動させるのは大変じゃないのかな?」


「……確かに。でもアルヴァロさんを待たせるわけには……」


「あまり好き勝手動くと困るだろうし、私はここで待っているよ。いいかい? 男らしい所を見せないと、女性はすぐに離れていってしまうから覚えておくといい」


「うっ……わかりました、手伝ってきます」


 まだ会って一時間も立ってないのに注意されてしまった。

 奥さんがいる人が言うと説得力が違う。


 確かに俺の知り合いだからと強引に教会に入らせた挙句準備を全てセリシア任せにするというのは男依然に人としてあり得ない愚行だ。


 セリシアが文句をほとんど言わないからといって甘え続けるのはよくない。

 それこそアルヴァロさんの言う通り不甲斐ない姿ばかり見せていたら信頼関係にヒビが入ってしまうのは明白だ。


 少々反省する。


 アルヴァロさんもこう言ってくれているし、ここはお言葉に甘えよう。

 そう思い、俺はすぐにでもリビングへ向かおうと一歩を踏み出した。


 だがそこでふと、ここにまだテーラがいたことを思い出す。

 一応アルヴァロさんがいてくれるが、今のテーラを一人残してしまって大丈夫だろうか?


 顔だけテーラへ向けて様子を伺う。

 ……彼女の動きに変化はない。

 右手で左腕を押さえており、そもそも深く俯いていて表情を読み取ることが出来なかった。


 ……やはり無闇に刺激するのはよくないだろう。

 せっかく人間界で再会出来たアルヴァロさんを蔑ろにするのもよくない。


 それにアルヴァロさんもここにいてくれる。

 テーラがまた先程のようになったら、きっとあのおまじないが効いてくれるはずだ。


 だから俺は顔を戻した。

 そしてセリシアを追ってリビングへ続く扉を開く。


 引いた扉はいつもは何とも思わないのに。


 やけに、固く感じられた。

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