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【第四章完結!】堕落天使はおとされる  作者: 真白はやて
第二巻 『1クール』
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第5話(6) 『二人目の天使』

 アルヴァロ・ゾルターノ。

 齢40前後、身長180cm以下で眼鏡をかけ、腰に『聖剣』を固定し、ローブに身を包んだ理系男性である。


 三番街では明らかに老けた人間が何十人もいたが、それは天使と魔族には一切合致しない。


 天使は種族としての特徴で生命力が非常に高く、それに加え老化しにくいというものがある。

 寿命は100年以下と長寿ではないが、一般的に老化は20歳までで止まり50歳を過ぎると老化が再開する。

 そのためアルヴァロさんは人間界基準で考えると見た目年齢は20歳のそれと同じだった。


 今は亡き父さんの知り合い、俺が幼少期の頃からの関係だ。

 世話をしてもらったことも何度もあったし、迷惑をかけたこともあった。


 そんな知り合いが目の前にいる。

 正直に言えば、ここ数日来客が多すぎて若干ストレスが溜まっていた。


 あまりにも幸せで、平和で、平凡な毎日だったから。

 そんな日々を誰かによって壊されるんじゃないかって、無意識に警戒していたんだと思う。


 でも今は。

 今だけは違う。

 一切の警戒もせず、信用と信頼を持って俺は安心感を身に宿していた。


「――アルヴァロさんっっ!!」


 子供のようにはしゃいでしまっている自覚があった。

 全員の反応も見ず急いで固く閉ざされた鉄門を開けて正面からしっかりと視界に捉える。


 忘れもしない、忘れるわけがない。

 何十年も関係のあった大切な人が目の前に、確かに『人間界』に存在している。


「デルラルト君じゃないか! 久し振りだね」


「はい、お久し振りです。まさか俺以外の天……人に会えるだなんて思いもしませんでした! 是非入って下さい!」


 最初は突撃してきた人影に驚いたアルヴァロだったが、顔を上げた俺を見ると驚いたように目を丸くしていた。


 人間界に知り合いがいたことに驚いたのだろう。

 俺だって今もずっと驚いている。

 目を覚ましたら人間界にいて、俺しかいないんじゃないかと思っていたのに、天使の、そしてまさか知り合いであるアルヴァロさんまでここに飛ばされていたとは思わなかった。


「え、えっと……?」


 しかし突然の変化について来られなかったセリシアは困惑しているようだ。

 説明したいところだが、彼をこんな所に立たせ続けるわけにはいかない。


「セリシア、入れてやってくれ。俺の大切な知り合いなんだ。こんな所で立ち話をさせるわけにはいかないだろ」


「あ……お知り合いの方……なんですね。わかりました、ではどうぞお入りください」


「……興味深いな。すみません、ではお邪魔します」


 セリシアが結界を解除したことで、その神秘的な結界に目を奪われているようだ。

 が、きっと歩いて疲れてるだろうしさっさと座らせてあげたいところである。

 アルヴァロの背中を押しつつ、教会の中へと入らせた。


 チラリと教会の入口の方を見ると、まだテーラが背中を向けたまま立ち尽くしていた。

 何故かここ最近めっきり被らないでいた純白のフードまで被って。

 心無しか身体が揺れているような気もするが、まあいい。


「どうやら私は幸運だったようだね。デルラルト君がいれば話が早く進んで助かるよ」


「任せて下さい。少し待っていただければ茶菓子も出せますよ!」


「本当かい? それは楽しみだ」


 先程まで昼寝する気満々だった俺だが、こうも素晴らしい出来事が起きれば話は変わる。

 人間界で初めて俺以外の天使、それに加え顔見知りの人と出会うことが出来るとは思わなかった。

 すぐさま歓迎の準備を頭の中で構築させる。


 他のことなど、何一つ頭の中に入れようとすらしていなかった。


 テーラの真横を通過する。

 だがそれでも反応が一切ないので、仕方なく声をかける。


「テーラ、何つっ立ってるんだよ。教会の中入ろうぜ」


「――――ッッ!!」


「……ん、そこの……お嬢さん、かな? 突然の訪問で申し訳ない。私のことは気にせずに過ごしてくれると有難い」


「…………っ」


 声をかけるが反応はない。

 それどころかフードを深く被り顔を隠しているようにも見えた。


 俺とアルヴェロさんは二人して顔を見合わせ首を傾げる。

 テーラがここまで頑固に動かないことなど非常に珍しいことだ。


 やはり先程の微細な変化が今になって尾を引いてたりするのだろうか? ルナとユリアの件で協力してもらったお礼としてこちらも何かしてあげたいが、ここでずっと立たれても対応に困る。


 アルヴァロさんを待たせるわけにはいかない。


「ほら、行こうぜ」


「――ッッ!?!? ぁ――!」


 仕方ないので手を引いて歩かせる。

 突然の出来事に身体が追い付かなかったのかテーラはバランスを崩し、結果的に前のめりに一歩踏み出す形となってしまった。


 その瞬間、押さえていたフードが落ちる。

 淡紅色の髪が露わになると共に、テーラの表情が明るみに出た。


「ぁ、ぁぁ……!!!!」


 彼女は、顔を強張らせ大粒の涙を流していた。

 引き攣った表情でテーラはある一点を目を見開きながら見つめているようだった。


 声が、震えている。

 足もくすんでいるのか正常でない身体の震えが手を通して伝わって来た。


 ……なんだ?

 なんで、そんな顔をしてるんだ?


「ど、どうしましたかテーラさん!」


「お、おい……なんで泣いてるんだよ? 何か抱えてるなら相談に乗るぞ」


 俺がアルヴァロさんを押して先行していたため後ろで付いて来ていたセリシアもテーラの様子を見て慌てて傍へ寄り添う。


 さすがにこの状態はおかしい。

 俺も慌ててアルヴァロさんを押していた手を放し、しゃがむテーラへ近付くが何の反応も寄こさなかった。


 ずっと一点、斜め上方向を見ている。

 視線の先へと俺も続くと、そこには困惑した様子でテーラを見ているアルヴァロさんがいた。


 さすがにいきなり泣き出せば驚くに決まってる。

 開始早々アルヴァロさんに良いスタートを切れなかったことに申し訳なさを抱きつつ、とにかく目の前のことを何とかすべく教会の最高責任者であるセリシアに指示を出した。


「セリシア、申し訳ないけどアルヴァロさんを案内してもらっていいか?」


「はい、わかりました。テーラさんのことよろしくお願いします。では、えっと……ゾルターノさん、どうぞこちらへ」


「……少し、待っていただけますか」


「……?」


 立ち上がり、手を教会へ向けて誘導しようとしたセリシアを静止させ、アルヴァロさんはポケットからメモとペンを取り出すと、そのまま紙に何か書いているようだった。

 俺も疑問に思いつつアルヴァロさんのことを待っていると、やがて書き終えたのかメモ帳から紙を切り、メモ帳とペンをポケットへ仕舞う。


「お嬢さん、これをどうぞ」


 そして若干腰を落としつつテーラの手を取り、何かが書かれた紙を手のひらの上に乗せた。

 硬直したまま、恐る恐るといった感じでテーラは紙に書かれた何かに目線を落とす。


「~~~~ッッ!!」


 するとまたしても肩を強く震わせ、瞳が大きく揺れ動く。

 だが書かれた内容を隠す気はないようなので俺もメモの内容を覗き見る。


「……なんだこれ?」


 そこには文字ではなく、マークのようなものが描かれているだけだった。

 翼と光輪、そして……鎖のようなものが中心に巻き付けられているようなマーク。


 翼と光輪から天使を表しているのは何となくわかるが、天界でもこのようなマークは見たことがない気がする。


「……アルヴァロさん、このマークってなんですか?」


「おまじないのようなものだよ」


「おまじない?」


「そうさ。きっと見れば元気を出せると思っていたんだけど、厳しそうかな」


「はあ」


 とは言っても、俺はこのマークを見ても特に何も感じない。

 ただおまじないというのだから案外アルヴァロさんはこのマークに何か強い思い出でもあるのかもしれない。

 それで赤の他人が元気になるとは到底思えないが、これもアルヴァロさんなりの気遣いなのだと思う。


 しかし現実としてテーラには何の効果も生まないだろう。

 そう思っていた俺だったが、アルヴァロさんの言葉を聞いてビクッと肩を震わせたテーラは唐突に勢いよく立ち上がった。


「――げ、元気出たわ!」


「えっ、マジで言ってんの……?」


「ちょっち具合が悪くなっただけで、大したことじゃないんよ! ささ! はよ教会に入ろうや!」


「ほ、本当に大丈夫ですか……? 無理はしなくても――」


「ホントに大丈夫やから!! ……な?」


 突然の大声に俺とセリシアもまた、肩を跳ねさせる。

 テーラは笑っていた。

 ニコニコと笑みを浮かべ、教会に入ろうと俺達を促している。


「まあ、お前がそう言うなら……」


 まさか本当にアルヴァロさんのおまじないが効くとは思わなかったが、テーラがこう言っている以上俺達もしつこく心配するわけにはいかない。

 仮に元気じゃなかったとしても、今元気そうに見せているということはもう理由を明かしてくれはしないだろう。


 だから見なかったことにするしかない。


「元気を出してくれたのなら良かった。デルラルト君、あまり女性を困らせるべきではないよ」


「ええ!? 俺のせいなんですか!?」


 心外だ。

 俺はただ心配していただけだというのに。

 確かに多少強く引っ張ってしまったかもしれないが、それはテーラが動かなかったから……って、人のせいにするのが良くないのか。


「ははは……」


 テーラは苦笑いを浮かべ、名残りなのかまだ身体が小刻みに震えている。

 やっぱりテーラも困っていたのだろうか。

 今は三番街の住民ではなく、初対面のアルヴァロさんがいるから怒って来ないだけなのかもしれない。


 これは後で謝って、許してもらうしかなさそうだ。

 そんな酷く呑気なことを、この時の俺は思い続けていた。

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