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【第四章完結!】堕落天使はおとされる  作者: 真白はやて
第二巻 『1クール』
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第5話(4) 『楽しいという感情を』

「かぁ~~!! 解・放・感っっ!」


 やっと地獄の時間から解放された。

 礼拝が始まって数時間後、ルナと信者としてやることが終わったテーラと共に裏庭を出て俺は力いっぱい新鮮な空気を吸って大きく伸びをする。


 既に聖歌によって起きていた頭痛も収まっていた。


 礼拝の片付けも終わり、セリシアとのお話を楽しんでいた三番街の住民たちもほとんど帰宅したからもうとやかく言われることはないはずだ。

 ……まあセリシアと一緒に暮らしている人間(仮)が未だにここまで非協力的だったら、信者であれば小言の一つや二つ言いたくもなるだろう。


 オーダーメイドの教会服という素晴らしいプレゼントまで貰ってもまだ教会の人間としての自覚が足りないのかと、そう言いたいのだ。

 それに関しても俺は特に反論する主張は無いし、信者のみんなもやんわりと言ってくれているから出来れば俺も変えたいとは思う。


 でも、それで流されるような性格だったら元々こんなことにはなってない。

 申し訳ないが、信者たちには諦めて妥協してもらうしかないのが現状だ。


「自分はもうちょい協調性っちゅーもんを身に付けた方がええんちゃう?」


 そして礼拝中と全くテンションが違う俺の様子にテーラは乾いた笑みしか出ないようだ。


 それでみんなの日常が平和になるなら喜んでやるさ。

 でも協調性などという同調圧力に屈して神に祈りを捧げた所で、結局神サマは何もしてくれないだろ。


「嘘でもこんな神サマとやらに頭を下げるだなんてごめんだね。神に救ってほしいだなんて俺は思わない。縋るならこの場にいない神じゃなくて、信用出来る奴にこそするべきだ」


「でも、信用出来る人がいない人だっているやないの」


「そういう奴もいるかもな。でも俺だったらそれでも神じゃなくて自分を信じる。なんだよ、お前は信用出来る奴はいないのか?」


「そ、そういうわけやないけど……」


 まあ誰だって他人を完全に信じることは難しいか。

 俺だって、まだ人間界で『完全』に信用出来る人はいない。

 いたら俺の今までの所業を話しているだろうし、セリシアでさえも俺はまだ自分の全てを曝け出すことは出来ない。


 ……自分の全てを曝け出すというのは、酷く怖くて覚悟のいることなのだから。


「まっ、悪いことは言わないから神に縋るのは程々にしておけよ。信仰っつーのは必ず何処かで裏切られるもんだ。こんなはずじゃなかったって思っても、現実は無かったことには出来ないぞ」


「なな、なんでうちが説教されなくちゃあかんねん!」


「あ、確かに」


 いつの間にか主導権が俺に変わっていた。

 だが俺は散々神について天使共にごちゃごちゃ言われ続けて来た身。

 言い逃れや話題のすり替えに関してはてっぺんすら狙える男だ。


「そんなことよりルナの件だルナの件!」


 だからまた俺は話を変える。

 都合が悪いことから目を背けるように。


「ルナはんの件……って、何かするんか?」


「ああ。コイツにまず『楽しい』っていう感情を教えてあげたいんだ。ゆくゆくは笑顔を見ることを目標にしている」


「うん、してる」


「ず、随分仲良くなったんやな……」


 仲良くなったと言っても、きちんと話したのは昨日が初めてだ。

 闇魔法を使うという点さえなければもっと早く今のような関係に落ち着いていただろう。


「そういうわけで『楽しい』ことをさせてやりたいんだが……テーラ、なんか楽しいと思うことってあるか?」


「……聖女様との料理練習?」


「それ昨日のじゃん……」


 やるのはいいが果たしてルナはそれで楽しいと思えるのだろうか。

 会話だけで楽しいとは思えなそうだ。

 きっと俺が今ここで超面白い激うまギャグ(自称)を言ったとしても言葉の意味をそのまま捉えてしまいそうな危うさがある。


 う~ん……頭を捻るがやはり良い案は思い付きそうにない。

 というか考えた結果の面白いことって逆に面白くなくならないか? とすら思い始めて来てしまった。


 ここはもうルナに聞いてしまおう。


「ルナ、なんかやりたいことってないか? 俺とコイツがそれなりに叶えてやるぞ」


「ええ!? うちもなん!?」


「……魔法」


「「ん?」」


「シロカミの魔法、見てみたい」


 そ、それはただの知りたいことじゃないか?

 見せるのは構わないがそこから『楽しい』に変換出来る未来が見えないんだが。


 そう思う俺とは対照的に、テーラもルナの意見には賛成なようでここぞとばかりに大きく手を上げている。


「はいはい! そういやうちも見てみたいって思ってたんよ。叶えてくれるんやろ自分」


「いや、それは良いんだけど『楽しい』っていう趣旨がさ……」


「うちはもう既にわくわくしとるで!」


「お前は別に良いんだっつの!」


 お前を楽しませるためにやってるわけじゃないんだが。


「これが……わくわく?」


 いや、多分違うんじゃないかなぁ。


 だが期待されて嫌な思いはしない。

 しかも俺専用の魔法を見せ付けたいという思いも出てきた。


 ちょっとテンション上がってきた。

 ……よおし、そこまで言うなら見せてやろうではないか。


「じゃあ見てろよ! 《ライトニング》!」


 近くにあった木を標的に雷撃の弾丸を放つ。

 弾丸は真っ直ぐ音速に近い速さで木の幹を抉り、軽快な音が響いた。


 他の魔法にはない、『雷魔法』という唯一の魔法だ。

 「どうだ」と言わんばかりに嬉々として得意げな顔で胸を張る。


「……え、しょぼない?」


「しょぼいとか言うな!」


 が、テーラのお気には召さなかったようで、イマイチ反応が悪かった。


「あのドカーンって言うてた雷は?」


「《ラーツ》のことなら、あれは動かない標的にしか当たらないし魔力消費が予想以上に多いからほぼ封印安定だ。今は小回りが利いて癖のない魔法を開発中ってわけ」


「えーうちはもっと威力特化の大魔法を開発した方がええと思うけどなぁ。そんなん雷魔法である意味がないやん」


「うぐっ!? た、確かに……」


 言われてみれば人間界に来て間もない頃に出会った非教徒の一人が放った《アクア・ストリーム》とかいう魔法も似たような感じだった気がする。


 い、いやでも俺には《ライトニング【閃光爆弾】》がある。

 これは確実に雷魔法にしか出来ない利点だから差別化出来ているはず……いや、確か光魔法っつー属性もあるんだよな…………


「……え、キツイかな」


「うちはちょっち勿体ないなって思うで」


「……うーん」


 テーラがそう言うなら、練習するベクトルを間違えたかもしれない。

 そもそも今までは魔法無しでやってきたのだ。

 攻撃手段の一つとしての運用方法ではなく、必殺技的な役割を担わせた方が案外合ってるのかもしれないな。


 こっそり色々考えていた手前少しショックだけど。


「でも、すごい」


 だが、俺の若干傷付いた自尊心を回復させてくれたのは雷撃を放った木をジッと見ていたルナだった。

 その一言だけでこのままでも問題ないんだという気になってくる。


 そうだよ。

 そもそも俺はこの魔法を殺傷用として使っているんだ。

 決してカッコよく決めようなどというロマンを求めているわけではない。


 それを知らないテーラは勿体ないと思うかもしれないが、大きな隙を晒して大魔法を放つよりも小回りの利く戦いの方が俺の性に合っているはずだ。


 ルナの「凄い」という言葉のおかげで立ち直れた。


「俺の魔法は凄いから良いんだよ。大事なのはロマンじゃなくて堅実さだ。そもそも大魔法は人には撃てないだろうが」


「まあ、確かにそうやけど。うちはな、あの大熊の時の雷が忘れられないねん。あれはうちの心にビビッと来たんよ」


「し、知らねぇー」


 どうやらテーラが個人的に大魔法を見たかっただけらしい。

 その欲求に俺を使うなと言いたい所だが、見たいと望んでくれるのなら俺としても悪い気はしない。


 気が向いたら大技の一つでも考えてみて、出来上がったら見せてあげよう。


「でもあれやな。雷魔法なんちゅー未知の魔法が現れたと魔法研究者が知ったら、自分実験台になっちゃうかもしれへんで」


「特別なものはすごい」


「お、お前らそういうこと言うの止めろよな……」


「冗談やないよ。人生めちゃくちゃになるから、ほんますぐに逃げるんやで。全部捨ててでも、誰かを騙してでも捕まらないようにするんや」


「だから止めろって! 怖くなるだろうが!」


 テーラの念押しが凄い。

 顔を急接近して真剣な面持ちで見つめてくるものだから、気圧されて身体が後ろに引いてしまった。


 結局その時はその時だ。

 出来る限り足掻いて何とかするさ。

 それにこの世界の人間が仮にも聖女のいる教会の人間に手を出そうとは思わないだろう。

 むしろ聖神ラトナ様の奇跡だ~とか言ってもてはやされるかもしれない。


 だからそんな未来の話を真剣に考える必要などないのだ。

 俺は平和な『今』しか興味ないのだから。


「……で、わくわくの感情はわかったか?」


「……まだよくわからない」


 ……むむむ。

 やはり難しいか。

 若干俺の中で別に『楽しい』じゃなくてもいいから何らかの成果が欲しいなぁ~と妥協気味だったんだがそれでも上手く行きそうにない。


 そもそもこれくらいで上手く行くなら日常生活で何かしらの成果があっただろうし、地道に模索していくしかない気がする。


 ゆっくりやっていこう。

 他にルナがわくわくしそうなこととか一切思い付かないし。


 ……しかし。


 先程のテーラの言葉にはやけに強い説得力というものがあった気がする。

 そうなってしまった人を見たことがあるのだろうか?

 誰かを騙してでもだなんて何処にも味方がいないと言っているようなものだ。


 いつか、もしもそういった奴らが来るようなことがあれば。

 最強の権力を持つセリシアに守ってもらおう。


 多分俺はあまりにも他力本願過ぎる楽観的な考えを持っていたのだろう。


「……」


 どうせ何とかなる。

 そう思っていたから、俺はテーラの暗く曇っていた顔に気付くことが出来なかった。

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